【短編小説】 人気のある部屋
友人の田中くんが引っ越したので、新居でお祝いを兼ねて飲み会をすることになった。
聞くところによると家賃が激安とのこと。
ひょっとして、不動産界隈で有名なアレな部屋なんじゃ。。
一抹の不安を感じつつ、同じく友人の木野くんと酒やつまみを持って田中くんの新居へ向かった。
外観は小綺麗なワンルームマンション。
不穏な雰囲気は感じられない。
田中くんから教えて貰った部屋へ木野くんと向かう途中でも、特に目につくこともない。
通された部屋はとても綺麗な上に、ガランと感じるほど広い。
「なにも無い部屋だな、あはは!」
「寂しいは寂しいかなぁ、・・ひとりだと。」
缶ビールをプシュっと開けて、新居にかんぱーい♪っと、おもむろに飲み会はスタートした。
1時間も過ぎた辺りでバカ話にたいそう花が咲き、酔いも相当回って来た。
田中くんと僕は話をしているけど、ちょっと飽き気味な木野くんが田中くんのマンガをパラパラめくっては雑に放るのでパタンパタンっと小さな音が気になる。
丁寧に扱ってあげて欲しいところだし、パタンパタンっとやや耳障り。
2時間、3時間と過ぎ、夜が深くなり始めた。
「じゃあ、そろそろ帰るわ」
「広い部屋にひとりだと寂しいだろ、彼女作れよ、あははは」
すると田中くんがニコニコしながら言った。
「いま、部屋はいっぱいだよ、たくさん来てくれているもの、うふふ」
急に部屋の温度が低くなった気がした。
玄関からパタンっと、音がした。
ドアも動かずに。
田中くんが「また来てくれたぁ♪」と言った。
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