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日本の水産業を元気に!新たな品質指標を確立し、魚の鮮度・うまみの見える化に挑む【ソフトバンク株式会社|事業紹介・実装結果】

魚を選ぶとき、あなたはどんなポイントを重視しているだろうか?
日常的に料理を作る人へのアンケート調査結果によると、約9割もの人が新鮮でおいしそうな魚を求めていることがわかる。

瀬戸内海と宇和海に囲まれた愛媛県は、全国的に漁業の盛んな地域であり、首都圏の飲食店からの支持も高い。だが、遠方への輸送を考えると、活魚輸送だけでは限界があるため、冷凍輸送を行う必要がある。
ただ、どうしても活魚=鮮度がいいというイメージがあり、活魚と冷凍魚の品質は大きく異なると考えられている。というのも、牛のランクや果物の糖度のように、魚には指標が存在しないため、「冷凍魚もおいしい!」と消費者に宣言できる根拠がないのだ。
魚の鮮度やおいしさは、どうやって判断し、消費者に発信すればいいのか?
そんな漁業の抱える課題に挑むのが、「ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)」だ。
魚の品質規格標準化プロジェクトを立ち上げ、鮮度とうまみを計測する手法の確立を目指す。

この記事では、西予市三瓶町の「赤坂水産有限会社(以下、赤坂水産)」を実装パートナーとして取り組む本プロジェクトについて紹介する。

活魚出荷・活魚輸送から、産地加工・冷凍輸送へ

■実装パートナー:赤坂水産の現状 

赤坂水産は、西予市でマダイとヒラメの養殖業を展開。生産(養殖)のみならず輸送機能も有しており、自社で育てた魚を自社の活魚輸送車で運んでいる。現在は生きたまま魚を運搬する活魚出荷を採用しており、コスト削減よりも鮮度の高さを優先している。
だが、働き方改革関連法により、2024年4月1日からトラックドライバーにおける時間外労働の上限規制が適用される。そのため輸送コスト増、生産地加工及び冷凍輸送のケースが増加すると考えられる。
赤坂水産でも、流通コストが増加することを考え、今後は冷凍に対してアドバンテージのあるマダイの生産・加工手法の開発を検討している。そのためには、加工工場に導入すべき冷凍技術を見極める必要があると考えている。

赤坂水産有限会社 取締役 赤坂竜太郎氏
「2024年問題は、特に愛媛県や九州など遠隔地の生産者が最も気にすべき問題であると思っています。ここで物流費がさらに上がってしまったら、生産の中心地は三重県や和歌山県、静岡県などに移ってしまう。その対策として、産地で加工して雇用を産み、冷凍でより効率的に運ぶ方法への転換が必要であると考えています。冷凍輸送なら活魚輸送の10数倍の量を運ぶことができる。ただ、これを実現するためには冷凍の品質が高まっていることを消費者に伝えなければなりません。ということでソフトバンクさんや愛媛県の方と共に、冷凍魚の品質規格化に取り組んでいるのです」

従来の冷凍魚は水っぽくなったり、歯応えが失われたりというマイナスなイメージがついていたため、新鮮さという点では圧倒的に活魚に軍配が上がっていたが、近年の急速冷凍技術の進化により、今や鮮度を保ったまま急速冷凍することは付加価値になりつつある。
活魚と遜色ない冷凍魚の実現と、その品質を可視化することで「冷凍魚=おいしい」と証明する必要がある。

非破壊的・より迅速・簡便なアプローチで鮮度やうまみを測定できる手法の開発

魚の鮮度やうまみを見極める方法は、目の澄み具合エラの鮮やかさ、身の締まり具合など、経験での判断が必要なものが多く、先に述べたように牛のランクや果物の糖度のように、魚には指標が存在しない。そこで、消費者に対して、目にみえる形で冷凍の品質を保証する必要がある。

■非破壊で鮮度をスキャンする新手法「NIRセンサ」

ソフトバンクが提案する新手法は、分光計スキャナである「NIRセンサ」を活用した測定。「NIRセンサ」で魚をスキャンすると、反射される光子を波長分析でき、解析結果がリアルタイムでスマホに反映されるという仕組みだ。

従来の高速液体クロマトグラフ法によるK値(魚の鮮度を示す客観的指数)測定では、魚の体側筋を採取する必要があったが、この手法なら魚を傷つけることなく、よりスピーディかつ簡単に測定できる。
ソフトバンクは、生産・流通現場で広く活用される、実用的な鮮度測定手法の確立を目指している。

今回は、実装パートナーの赤坂水産から提供されるマダイ数百尾のサンプルを使い実装を行った。
K値に基づいたマダイの鮮度、栄養分析、健康指標を迅速に測定する方法を開発、最適な冷凍魚の定義を行い、NIRセンサでリアルタイムに魚の品質を判定可能な、マシンラーニングモデルを実現しようとしている。

■締めるコスト(手間暇)、輸送コストからみた最適なフローを定量的に評価

締め方には、野締め、脳締め、神経締め、津本式などがあり、締めた後に刺身として鮮度を維持できる期間が異なる。

今回の実装では4つの締め方にフォーカスした。
鮮度を保つためには真空パックをしたのちに急速冷凍をするのが一般的である。急速冷凍にもエアブラスト式とリキッド式があり、今回はリキッド式を採用した。保存温度はマイナス20℃とマイナス60℃に分けて保存し、冷凍期間も1カ月、3カ月、6か月での比較を行う。
締め方の違いと、締めてから冷凍するまでの日程によってどのように品質が変化していくのかを分析しマシンラーニングモデルに組み込む。

■データ取得の流れ

それぞれ野締め、脳締め、神経締め、津本式で締めたマダイ1尾ずつを、複数のパーツにわけ、「NIRセンサ」でスキャンをし、ラボテスト(破壊検査)や官能テストをしていく。

冷凍する場合は、冷凍までの日数、冷凍保管温度、冷凍保管期間ごとに、それぞれ冷凍前に「NIRセンサ」でスキャンをする。解凍後にも「NIRセンサ」でスキャンしたのち、ラボテストや官能テストをする。

生と冷凍のマダイを比較し、どのやり方が冷凍として一番うまみが出てくるかを調査し、学習モデルに組みこんでいく。

■プロジェクトチーム

本プロジェクトにあたっては、各業界5社のコンソーシアムを設立。

生産者:赤坂水産有限会社
マダイの加工、データ収集の協力、出荷などを行い、冷凍向きの魚や育成方法、締め方、加工や冷凍タイミングなどの見極め

飲食:株式会社ライドオンエクスプレス(銀のさら)
官能テスト(人の五感による評価)により、品質規格の指標におけるアドバイスを行う

飼料:フィード・ワン株式会社
冷凍魚に適した餌、化学分析による鮮度やうまみ成分の研究開発

自治体:愛媛県産業技術研究所 食品産業技術センター
化学分析による鮮度やうまみ成分の研究開発

IT・AI:ソフトバンク株式会社
「NIRセンサ」によるリアルタイムでうまみ及び鮮度を測定し判定するための機械学習モデルの研究開発

実装成果:NIRセンサによる測定の有用性

赤坂水産の養殖現場での実装は2024年1・2月で進行した。
「NIRセンサ」、ラボテスト(破壊検査)、官能テスト(人の五感による評価)の3つの測定を同じ個体で行い、機械学習モデルを作成する。これによって魚の評価指標を作っていく。

官能テストでは、醤油・ワサビなしで、36種類の身を試食し、評価を行った。またラボテストは、現在鋭意分析中である。

そのため、今回は「NIRセンサ」で締め方の推定が可能かどうかを検証した。

その結果、締め方の推定が精度80%という数字が出ている。
これは、今後、おいしさの指標を作る際に、十分な情報が「NIRセンサ」から取得できることを意味している。

品質(鮮度・おいしさ)を可視化できた場合の効果

現在、魚の値段は魚種と重量によって決められているが、「NIRセンサ」により品質を保証することで、重量以外の値付けの根拠をつくり、ブランド化を推し進めることができる。また「NIRセンサ」を使えば簡便に品質チェックができるので、生産者や加工場、食品加工会社、仲卸・スーパー、小売それぞれがランク付けをすることも可能となる。

本実装の具体的な効果としては、以下が考えられる。

■生産
・生産者が品質を保証できると、本当においしい魚の価値を訴求することができ、価格設定の自由度があがる。
・冷凍魚が評価されることで、保存技術にさらなる投資&輸出拡大も見込め、売上、利益ともに増加可能。

■加工・流通
・非効率の活魚・鮮魚の運搬から、冷凍主流の運搬に変わることで、荷量を増やしより効率的な輸送が可能に。

■販売
・食のパーソナライズ化に、鮮度や味情報も組み込まれ、消費者ニーズに基づいた魚の提案販売が可能に。
・冷凍魚の安定供給により手頃な価格で魚を食卓に届け続けることが可能になる。

■消費者
・経験(目利き)不要で好みの鮮度や味レベルをもとに、魚を選択できるようになる。
・冷凍魚の安定供給により、手軽に高品質な魚を手に入れることが可能になる。

魚の鮮度やうまみを消費者へ明確に示すことで、冷凍魚の評価向上へ。この取り組みが遠隔地の養殖業を活性化させるとともに、日本の魚食文化を守ることにもつながっていくだろう。

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