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住むだけで健康になる街・家

健康というと、運動や食事など生活習慣に話題が集まることが多いと思います。
しかし、実は、
どのような場所・環境で暮らすか
というのも、健康を決定する重要な要素です。

環境は少なからず人間の行動を規定します。
学生時代に実習で訪れた離島は、
暑熱環境のため徒歩での外出や屋外での運動が少ない地域でした。
食習慣、伝統的な文化背景も相まって、
子供の肥満・糖尿病が多く、地域の重大な健康課題でした。

このように、健康行動は環境によって左右されます。
環境の場合、個々人に及ぼすインパクトが小さくても、影響を受ける対象者が多いために、
その環境で暮らす集団全体で考えると大きな影響を及ぼすことがあります。

環境は、自然環境や社会環境などいくつかの分類カテゴリーがありますが、
ここでは建造環境(built environment)に焦点を当てて、健康との関係性について解説したいと思います。

建造環境

人工的に造られた環境を、建造環境(built environment)と呼びます。
道路や公園、街路、各種施設へのアクセス、住宅など指します。

近年日本では、人口減少に備えて、
都市機能を街の中心部へ集約・整備するコンパクトシティが推進されています。

また、増加する高齢者人口に対応するため、
医療や介護の適切な提供体制の確立も喫緊の課題です。

このような時代の潮流の中で、建造環境と健康との関係が注目されており、「暮らすだけで健康になるまちづくり」に向けた研究が進んでいます。

建造環境と健康との関係

建造環境がどのように健康に影響を及ぼすのか
ピンとこない人もいるかもしれません。
しかし、建造環境と健康の関係を検証した研究は数多くあり、
実に多くの知見が得られています。

私が所属するコミュニティの研究者が明らかにした研究成果の一部を紹介します。
詳しくは知りたい方は、リンク先のプレスリリースを是非ご覧ください。

このように、何気ない街の建造物が、
私たちの行動に少なからず作用し、健康を方向付ける可能性があるのです。

環境から健康に至る経路は複雑多岐に渡り、
メカニズムに関して十分に分かっていない面があります。
また、対象や文化の違いによって影響が異なる可能性も指摘されています。
今後はこのような知見を基に環境を整備し、
丁寧に効果検証を進めていくことで、
より一層理解が深化していくことと思います。

住環境と健康との関係

私たちは一日の半分を自宅で過ごします。
近隣の建造環境と同等かそれ以上に住環境から影響を受けていると考えられます。
したがって、
健康増進を図る上でどのような住環境が最適か
を検証することもまた重要です。
実際、WHOも健康の社会的決定要因の1つとして住環境を挙げています。

これから取り組もうとしている調査でも、
住環境と健康・介護をテーマにした研究を検討しています。

では、住環境と健康との関連はどのようなことが分かっているのでしょうか?

2021年のAlidoustらが行ったシステマティック・レビューに含まれている研究の一例を紹介します。

  • 未修繕の住宅に暮らす人は、心理的ウェルビーイングが低い

  • 室内の温かい住宅に暮らす人は、心理的ウェルビーイングが高く、
    疼痛が少なく、冬場の疾患リスク(喘息、肺炎、心不全など)が小さい

  • 住宅内の人口密度が高いと平均睡眠時間が短い

他にも、戸建てと集合住宅の違い、住宅価格の影響など、多角的に検証がなされています。

まだ分かっていないことも少なくありませんが、
住環境が私たちの健康に作用する
ということは少なくとも言えそうです。

残念ながら、このテーマに関する日本からの報告は少ないようです。
個人的に、縁側や庭のある家は幸福感が高いように想像するのですが、どうでしょうか?

まとめ

建造環境・住環境と健康について解説してみました。
街の様々な建造物や施設、環境が人の行動や健康に関係することが分かっています。
また、住環境も少なからず人に作用します。
このような研究の蓄積が進めば、
住むだけで健康になる街や家
の実現する日が来るかもしれません。

参考資料


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