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ハーメルン【11】

これはフィクションです。
ハーメルン【1】
ハーメルン【2】
ハーメルン【3】
ハーメルン【4】
ハーメルン【5】
ハーメルン【6】
ハーメルン【7】
ハーメルン【8】
ハーメルン【9】
ハーメルン【10】の続きです。

「ママっっ!」
悲鳴のような声が出た。ママの腰に飛びつくと冷蔵庫から思いっ切り引き剥がす。
僕に全く気付いてなかったママはあっけなく床に崩れ落ちて、勢い余った僕はしたたかにお尻を床に打ち付けた。
いつもなら涙ぐむくらい痛いはずなのに、全く痛みも感じなかった。それどころじゃない。ママの視線はまだ真っ直ぐ冷蔵庫に向かったままだ。
あわてて立ち上がり、今度は真っ正面から首にかじり付いた。
「ママ、ダメっ!行かないでっっ!ダメだよっ!」
ママの身体からふっと力が抜けたのを感じて、ママの顔を見上げると、やっとママの目の中に僕が映った。
見開いて僕を見つめる目にみるみる涙が浮かぶ。
「私…、どうして…あなたが居るのに…。あなたを置いて、こんな。ごめん、ごめんなさい…。」
「大丈夫、大丈夫だよ、ママ。ママのせいじゃない。冷蔵庫が悪いんだ。あっちでちょっと休もう?」
ママを居間のソファーに座らせると毛布を掛けた。
「そう言えば、パパは?パパはいないの?」
「あなたが出掛けてからすぐ起きてきたけど、急に仕事になったって…出掛けたわ。」
「えっ?休みの日にそんなこと、今まであった?」
ママは力なく首を振った。
「最近、体調が悪いから家にいて欲しいって頼んだんだけど…、それなら外で昼も晩も済ませてくるからゆっくりしたらいいよって…。」
昨日の夜、パパが帰宅した時のママの様子を思い出して、僕は唇をかんだ。
青ざめて疲れた顔のママを、僕はぎゅっと抱きしめた。
「ママ、疲れてるんだよ。少し眠ったら?」
「ありがとう。ごめんね。」
横になったとたん気を失うように眠ってしまった。ママが、ちゃんと息をしているか心配で口元に耳を近付ける。かすかな寝息が聞こえて、ホッと安堵した。
同時にパパと冷蔵庫に猛烈に怒りが湧いてきた。
パパのバカッ。あの冷蔵庫も絶対ゆるさない。
キッチンの入口に立つと、もう冷蔵庫は何にもなかったように佇んでいる。反対側からドアが開くか確かめようかと思ったけど、今度は僕が引き込まれたら…。
どうしよう。どうしてやろう…。
僕は怒りの矛先を収められず、ぐるぐる考えた。


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