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ハーメルン【12】

これはフィクションです。
ハーメルン【1】
ハーメルン【2】
ハーメルン【3】
ハーメルン【4】
ハーメルン【5】
ハーメルン【6】
ハーメルン【7】
ハーメルン【8】
ハーメルン【9】
ハーメルン【10】
ハーメルン【11】の続きです。

そうだ!
僕は、この前の図工の授業で使った金槌を思い出した。クロゼットの奥にしまってあった工具箱の中から探し出してくる。
冷蔵庫の正面に立つとドアの真ん中を睨みつけた。ボールペンの先くらいの穴がいくつか集っている。
あそこから、あの音が聞こえるのか…。
両手で柄を握って金槌を見つめる。釘を打つところが、平べったくなってる方と尖ってる方…。
よし。僕は大きく息を吸い込んだ。くちびるをぎゅっと結ぶと、金槌を高く振り上げた。尖ってる方を冷蔵庫のドアの真ん中に向けて渾身の力で打ち込んだ。

「バリンッ!」

派手な音とともに金槌がのめり込む。

その瞬間、

「ギャオゥッ!!」


おぞましい叫び声が頭の中に直接響き渡った。
「うわっ!」

おもわず頭を抱えこんでしゃがみ込む。今のなに?

冷蔵庫を見上げると金槌は冷蔵庫のドアの真ん中に見事に命中して、そのまま突き刺さっていた。
立ち上がって金槌の柄に手をかけ、力を込めて引き抜く。砕けた欠片がパラパラと落ちてぽっかり開いた穴。
覗き見たとたんに、目が合った。
血まみれのギラギラと黄色く光る獣の目が、ぎりっと僕を睨みつけた。

「うわぁぁっっ!!!」


僕はのけぞって、尻もちをついた。放り出された金槌が大きな音を立てて床に落ちる。

「どうしたのっ!」
イズミちゃんの声に振り返ると、みんなが慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫っ?何かあったの?」
ノリちゃんとコウくんも焦った顔で僕を見つめている。
「勝手にお家に入ってきちゃってごめんね。叫び声が聞こえたから。」
「玄関のドアに宿題の入ったバッグが挟まってて。ドアが少し開いてたんだよ。」
コウくんが僕のバッグを差し出した。
三人は、尻もちを着いたままの僕、冷凍庫のドアに開いた穴、落ちている金槌を代わる代わる見ると、目を見開いた。
事の顛末を三人に説明すると
「私、見てみる!」
イズミちゃんは冷蔵庫にぐいっと近付こうとした。
「待って、待って!」
慌ててみんなで止める。イズミちゃんの右腕を僕、左腕をコウくん、腰をノリちゃんがしっかり掴んでのぞくことになった。
冷蔵庫にそーっと近付いて、のぞき込んだイズミちゃんは首をかしげた。
「なんにも見えない。」
「え?」
「ライトで照らしてみる?」
「やっぱり、何も無いよ。空っぽ。」
みんなで代わる代わるのぞいて、僕ももう一度のぞいてみた。
不思議なことに、あの恐ろしい目はおろか、音が出るような装置も何も無い。そこはただ空っぽだった。

つづきはこちら
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