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やさしい世界

空気の指揮棒を振る老人
燕尾服と蝶ネクタイ
公園の中心でタクトは振られて
退屈そうな野良猫がか細く鳴いた

あちこち穴の空いたベンチ
私はハムサンド片手に腰掛け
まだ咲かない桜に踊る毛虫を見る

哀しみ協奏曲
違う痛みが世界を鳴らす
首を傾げる男の子
擦りむいた膝頭が痛そうで
乾いたリンパ液が乾いている
いつかの涙のように
張り付いて忘れていく

共感は毒 甘くてやわらかな
毛布の毛羽立ちを疎みながらも
どこか受け入れて触ってしまうように
その毒は孤独感と喪失感のカクテル

晴れた平日が曇り始める夕方
タクトを仕舞う老人と白い髭のホームレス
いつの間にか育まれた関係性
変わってしまうから関わってしまうから
終わりから逆算はできないのに
結論を欲しがる子供のように乱れる胸中
今日中に洗い流してなにもなかったように

穏やかな昼
騒がしくない心
時間はただそこに佇んでいた

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