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2023年、脚本家志望が見てよかった映画

2023年、地元福井にUターンし、時間がたくさんありましたので多くの映画をNetflix等のサブスクリプションや映画館で鑑賞しました。また、非常に良作品との出会いに恵まれた1年でした。

比較的新しい作品を中心に、かつ個人的にこれは本気で推したいというものをまとめます。今年公開した作品についてはネタバレなし。2022年以前の作品はネタバレにならない程度に作品の具体的な中身にも触れます。

順番は見た順です。


エゴイスト(2023)

14 歳で⺟を失い、⽥舎町でゲイである⾃分を隠して鬱屈とした思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、仕事が終われば気の置けない友人たちと気ままな時間を過ごしている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである⺟を⽀えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。

自分を守る鎧のようにハイブランドの服に身を包み、気ままながらもどこか虚勢を張って生きている浩輔と、最初は戸惑いながらも浩輔から差し伸べられた救いの手をとった、自分の美しさに無頓着で健気な龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の⺟も交えながら満ち⾜りた時間を重ねていく。亡き⺟への想いを抱えた浩輔にとって、⺟に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし彼らの前に突然、思いもよらない運命が押し寄せる――。

https://egoist-movie.com/

LGBTQという難しい題材に対して紳士に丁寧に向き合い、よくぞここまで描ききったなと圧巻されました。主演の鈴木亮平さんの演技も本当に見事。

また物語の構成も、二人の恋愛が中心の1幕と、ある出来事が起きたあとの2幕・3幕と予告では見えてこなかったヒューマンドラマとして着地点を見せてくれます。予告でゲイカップルの恋愛映画だと思った方は、「エゴイスト」の着地点をぜひ本編を最後まで見てみてほしいです。

脚本としては、主要な登場人物が主人公の浩輔、恋人の龍太、そして龍太の母親の妙子と非常に少ないながら、この3人を軸に描かれるストーリーが非常にコンパクトでシンプルながらも、関係の妙や奥行きを描いており、自分の作品に取り入れたいと思う作品でした。

長くU-NEXTの人質となってましたが、このたび各サービスでレンタル解禁されています。

ジョーカー(2019)

「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、大都会で大道芸人として生きるアーサー。しかし、コメディアンとして世界に笑顔を届けようとしていたはずのひとりの男は、やがて狂気あふれる悪へと変貌していく。これまでジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレット・レトが演じてきたジョーカーを、「ザ・マスター」のホアキン・フェニックスが新たに演じ、名優ロバート・デ・ニーロが共演。「ハングオーバー!」シリーズなどコメディ作品で手腕を発揮してきたトッド・フィリップスがメガホンをとった。

https://eiga.com/movie/90681/

今更ですが、引きこもっているときに鑑賞しました。バッドマンシリーズは見てませんので、この作品だけでの評価になります。敬愛するマイク・ミルズ監督の最新作『カモン カモン』(2021年)にて、ホアキン・フェニックスが主演だったことがきっかけで彼に興味を持ち鑑賞しました。

ともかく主人公のキャラクターの描き込み方が非常に克明で、同情を誘う。その脚本の凄さに圧巻されました。脚本術の世界では、「主人公を追い込む」「主人公の欠点を描く」などよく言われてますが、この映画ではそれが主人公の「惨めさ」となって凝縮されていたと感じます。惨めで可哀想だけどなぜか愛おしいと感じてしまう。この作品を見てから、自分の中で「惨めさ」という軸が作る・観る視点に加わりました。

また、ラストに本編を回想にして映画の冒頭やエンドから振り返る形にするサンドイッチ法という手法が使われていますが、他サイトの映画レビューでの解釈を読んだときに「めっちゃかっけーーーー!!!」となりました。すごい作品。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(2023)

【TOKYO MER】―― オペ室を搭載した大型車両=ERカーで事故や災害現場に駆け付け、自らの危険を顧みず患者のために戦う、都知事直轄の救命医療チームである。彼らの使命はただ一つ…『死者を一人も出さないこと』。
横浜・ランドマークタワーで爆発事故が発生。数千人が逃げ惑う前代未聞の緊急事態に。

https://tokyomer-movie.jp/

テレビドラマの時点でも非常にクオリティの高い作品でしたが、ファンとしての忖度を抜きにしても「邦画ってここまでやれるのか」と度肝を抜かれた劇場版作品でした。

劇場版では事故のスケールも桁違い。押し寄せる無理ゲーすぎる展開。流石に死ぬのでは…?と手に汗握るとはこのこと。どこまでもTOKYO MERチームを追い込み続けるシナリオが見事でした。

また、ドラマにてほぼ人類最強といって良い人格やフィジカル、医療技術を見せつけた主人公の喜多見幸太ですが、彼は本作において「医師としての喜多見幸太」と「夫としての喜多見幸太」の間で追い込まれ、揺らされます。強い主人公をどうやって追い込むのか。非常に参考になる作品でした。

神は見返りを求める(2022)

主人公・イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は、合コンでYouTuber・ゆりちゃん(岸井ゆきの)に出会う。田母神は、再生回数に悩む彼女を不憫に思い、まるで「神」の様に見返りを求めず、ゆりちゃんのYouTubeチャンネルを手伝うようになる。登録者数がなかなか上がらないながらも、前向きに頑張り、お互い良きパートナーになっていく。そんなある日、ゆりちゃんは、田母神の同僚・梅川(若葉竜也)の紹介で、人気YouTuberチョレイ・カビゴン(吉村界人・淡梨)と知り合い、彼らとの“体当たり系”コラボ動画により、突然バズってしまう。イケメンデザイナ一・村上アレン(栁俊太郎)とも知り合い、瞬く間に人気YouTuberの仲間入りをしたゆりちゃん。一方、田母神は一生懸命手伝ってくれるが、動画の作りがダサい。良い人だけど、センスがない…。

恋が始まる予感が一転、物語は“豹変”する――!

https://kami-mikaeri.com/

「胸糞」、「ムロツヨシ虐待映画」などとYoutubeやTiktokで紹介されることが多く、鑑賞してみたところ、その謳い文句に収まらない良さが溢れていて、個人的な偏愛作品となりました。

これ『花束みたいな恋をした』が始まるんかな?と思える序盤から、だんだんとスリラー作品に変貌していく様があまりにもすごく、とはいえ序盤に描いてきた恋愛未満の切なさが後まで尾を引いていくエモさにとても惹かれました。

Youtuber界隈のコミュニティのレイヤーや、正義感の世界観も非常にリアルにかかれており、今性が反映された作品でした。あとになって『年鑑代表シナリオ集 〈’22〉』(日本シナリオ作家協会)を購入しましたが、その中でも同じように評価されていました。

個人的な偏愛ポイントはラストシーンのムロツヨシの背負いのカット。こんなに酷くて惨めだけど愛らしいシーンを書けるようになりたいと強く心に刻まれたシーンです。まじで見て。

キリエのうた(2023)

石巻、大阪、帯広、東京――。岩井監督のゆかりある地を舞台に紡がれる、出逢いと別れを繰り返す4人の壮大な旅路。儚い命と彷徨う心、そこに寄り添う音楽。 “あなた”がここにいるから――。13年に及ぶ魂の救済を見つめたこの物語は、スクリーンを越えて“貴方”の心と共振し、かけがえのない質量を遺す。

https://kyrie-movie.com/

おそらく松村北斗が演じる夏彦と同い年で(彼が受験生のときに東日本大震災に遭います)、登場人物たちと年齢が近かったこともあり、心に深く刺さって抜けなくなりました。正直まだ上手く言葉にできません。

現在も公開が続いてますので多くは語りませんが、

  • アイナ・ジ・エンドの歌がすごい

  • 広瀬すずの演じるイッコの存在感

あまりネットで言及されていなかったですが、東京という街の輝きと残酷さの片面ずつを分け合ってしまった二人の少女の運命の物語。ルールや資本主義的な秩序のある大人の世界と、才能や能力以外に何も持たない/持てない若者たちの世界とのせめぎ合いの物語とも、わたしは読み取れました。
世間的な評価は分かれる作品ですが、そういったテーマのもとで観ると自分にとってはとてもリアルな物語で自分ごとのように感じました。

岩井俊二監督の作品は多く見ていませんが、表面的な輝きの裏に潜む社会の暗さを忍ばせるのが非常に上手いなと感じました。

ゆとりですがなにか インターナショナル(2023)

「野心も競争意識も協調性もない」と揶揄(やゆ)されてきた「ゆとり世代」の男たちも30代半ばに差しかかり、それぞれ人生の岐路に立たされていた。夫婦仲も家業の酒屋もうまくいかない坂間正和、いまだに女性経験ゼロの小学校教師・山路一豊、中国での事業に失敗して帰国したフリーターの道上まりぶ。働き方改革、テレワーク、多様性、グローバル化など新しい時代の波が押し寄せる中、ゆとりのない日々を過ごしながらも懸命に生きる彼らだったが……。

https://eiga.com/movie/99336/

ドラマはリアタイではなく、本作の映画化が発表されてからサブスクで視聴しました(宮藤官九郎ファンとして)。

ドラマの放送2016年から満を持して劇場版として戻ってきた作品ですが、その間の7年間の社会の変化をギュギュギュっとあますところなく詰め込んだ作品ですが、その内容はなんかちょっと1年,2年古いかなとの思わなくもないですが、価値観がアップデートされた現代。でも日本ってまだまだこんなもんだよね、と日本の「良くも悪くも日本らしい」部分をありのままに可笑しく、愛らしく描けるのは、やっぱりクドカンのなせる技だな、と。

主人公の坂間正和の妻であり母となった、安藤サクラ演じる坂間茜が吐露する苦しみやセリフは心に来るものがあり、キリエのうたでは流れなかった涙が出ました。人情。

本当にクドカンの脚本は、人生10週しても書けるようになる気がしないのですが、ラストシーンに日本の家庭にあるアレを使った仕組みはマジで痺れました。お茶の間、庶民を書かせたらクドカンの右に出るものはマジでいない。余談ですが、Disney+で配信中の『季節のない街』も最高でした。

正欲(2023)

横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた。

https://www.bitters.co.jp/seiyoku/

予告のガッキーと磯村勇斗のシーンがぶっ刺さって観に行きました。
圧倒的な原作の強さが土台になっていることは確かなのですが、淡々としかし克明に登場人物たちが持つ苦しみやその中で仄暗く輝く希望、その裏にぴたりと張り付く生きづらさがひしひしと伝わってくる作品でした。

劇中にガッキーと磯村勇斗のインティマシーなシーンがありますが、そのシーンが非常に哀しく、切なく、でも愛らしく、それが一層苦しい。この物語のテーマを象徴していて、こんなシーンが書けるようになりたいと心底悔しい気持ちになりました。

まだ間に合うので映画館にGO!

MY (K)NIGHT(2023)

デートセラピスト――刹那、イチヤ、刻を演じるのは、川村壱馬、RIKU、吉野北人。(共に、THE RAMPAGE)。近年、映画・ドラマ・舞台などで俳優活動にも精力的に取り組む。3人がトリプル主演を務め、夜の世界に生き、それぞれもまた心に傷やわだかまりを抱えたワケありの男たちを繊細に演じ、見事なアンサンブルを魅せる。さらに主題歌「片隅」もTHE RAMPAGEが担当。映画の世界観に寄り添った小竹正人による歌詞と切ないメロディが、一夜限りの物語を彩る。

https://movies.shochiku.co.jp/my-knight/

最後に騙されたと思って見てほしい、LDHがまた傑作映画を作りました。
「LDH」「デートセラピスト」「スリーボーカルがトリプル主演」という並びから、ファン向けのアイドル映画?と思ってみてみると、めちゃくちゃ紳士に描かれた、一夜限りの人間関係。デートセラピストとお客となる女性との、安易なドキドキや身体での触れあいではなく、しっかりとした心のコミュニケーションが描かれていました。なにこれすごい。

この映画の魅力を引き上げているのは、3人のデートセラピストの相手役となる女優の魅力や演技力の高さ。3人それぞれに良さを放っていましたが、個人的には安達祐実の可愛さにやられました。安達祐実が言う「わたし、おばさんだから…」はすごいぞ。

最近、自主制作映画を作っていたこともあり、非常に凝った画作りやカメラワーク、カット割りは非常に刺激を受けました。私もこんなふうに夜の街を撮ってみたい。

公開終了し始めているところが多いかと思いますが、まだ上映中なら騙されたと思って行ってみて。90分で見れるコンパクトさも良いです。

2023年、いかがでしたか

ざっと8作品紹介しましたが、映画で振り返って充実した1年だったなと思える1年になりました。できれば今年中に、『窓ぎわのトットちゃん』、『PERFECT DAYS』を見たい。

Filmaksで気まぐれに映画ログをつけてます。たまに感想書きます。よかったらフォローしてください。あと、2023年見た映画で良かったものあれば、新旧問わず教えてください。


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