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わたしだけが茶色い壁の部屋に住んでいた

茶色の壁の台東区のマンションに、わたしは住んでいた。

ZoomのURLにアクセスして、いざマーケピザがはじまってみて参加者のカメラが次々とオンにされると、わたしの部屋の壁だけが、茶色かった。昭和くさい、木の板の壁である。

他の参加者のみなは壁が白くがきれいな部屋に住んでいるようだった。おそらく住所も台東区なんて下町じゃなくて、東京のあちらの方なんだろう。

ちなみに超富豪であろう、すがけんさんの部屋には絵画がかかっており、手前には花、ソファの脇にも植物があった。

わたしが住むのは浅草のボロいマンションだ。

詳しくは覚えていないが、おそらく築40年とかそれくらい。わたしは学生時代に築50年のオンボロの大学寮に住んでいたから、壁の材質や、手すりや床の具合を見ればそれより古いか新しいかは判断がついた。

エレベーターはなくて毎日5階から階段を登り下りしている。部屋にいたるまでの階段はリノリウムの床がまっくろで、時々下水っぽい匂いがする。ペットはもちろん禁止だけど、入居したときからわたしの下の部屋では当たり前のように犬がワンワン鳴いていた。そんな味わいのある建物だ。

「1DKがよくて、お風呂とトイレは別が良くて、キッチンはまぁまぁ使えるくらいに広くて、荷物が多いから収納はたっぷりないと困る、けど家賃は会社から3km圏内で7万円しか出せません」という、繁忙期の不動産屋をイライラさせるほどわがままな、わたしの要望を奇跡的に満たし、そしてたったひとつしか見つからなかった部屋に、わたしは住んでいた。

好き好んで選んだとも言えるし、そこを選ぶしかなかったとも言えた。

20代マーケピザ参加者の年齢や社会人歴が上だか下だかはわからなかったけど、雰囲気から察するに27歳は参加者の中では最年長のほうだったし(同い年の方がもう1名いました)、学歴をひけらかすわけではないが、順当にいけば、この中でわたしが世間的に見れば一番よい大学を出ているはずだ。

だけど、この場にいる誰よりも収入が低い気がした。そしておそらくその仮説は間違いないのだろうと、思った。

わたしは20代マーケピザのあいだ、Zoomの南国のバーチャル背景の裏にその茶色い壁を隠して参加した。

転職という渾身の一発逆転のギャンブルに身を投じることへの恐れ。

低収入であることはわたしの転職の悩みを加速させていた。

会社の所属を明かしているアカウントでこのようなことを書くと怒られそうだが、会社がどんなに良かれ悪かれ、受託のWeb制作会社のディレクターというのは、そんなにたいした給料はもらえない。ビジネスモデルがそうなっているから、働いた人日分の対価しかもらえない。

仕事に加えるプラスアルファの付加価値は無料サービスのご飯大盛り。お客様からもらっている以上の金はどこからも生まれない。

ちょうど1年前の3月に、貯金0円という身を切るような覚悟で上京し、めちゃくちゃなキャッシュフローをやりすごしながら、やっとの思いで「すべての上京の借金を片付けた!」というときには、引っ越しでまた新しい借金を作っていた。

わたしの金遣いの荒さや無計画さにも理由があるが、社会人になってから3年間は常に自転車操業状態で、一度も抜け出せたことはない(そのうえで、それと引き換えにきちんと新しい景色を手に入れているということは補足させてほしい)。

話がそれてしまったが、低収入であることはわたしの転職の悩みを加速させていた。

1年前に初めて転職を経験して、それがどんなにお金がかかることなのかを知った。収入が止まるから、2ヶ月分くらい生きていけるようなキャッシュをもっていないとできない。恥ずかしい話だが、こういう生活をしていると、そういうキャッシュはなかなか生まれてこない。

「今は転職する時代だから、1年や2年で、どんどん仕事変えていったらいいじゃん」こう言われる世の中だが、現実にはそういうわけにはいかないのである。

十分な収入と貯金がないので会社をやめることはなかなか難しく、転職をするとすれば、それは明日の生活を賭けた一世一代のギャンブルなのだ。

ついでに、20代の残り時間も刻々と迫っている。今、転職して1年や2年を棒に振るには別に構わないけれど、これが1年後になると話はちょっと違ってくる。

転職する先も、タイミングも、1つも間違うことは許されない。絶対に負けたくないギャンブルだからこそ、悩んでいた。

Web・IT業界は誘惑が多い。業界の性質上、経験者がとても優遇されやすく、1回転職するごとに100万円単位で年収は簡単にジャンプする。

新型コロナ感染症(COVID-19)が蔓延する前に、大学寮時代の先輩と久しぶりに飲みに行った。某有名マッチングアプリの開発・運営会社に勤める年収1000万円超えのその人からの「多分、年収650万円くらいはすぐに行くよ」「うちの話とか聞いてみる?」という言葉には心が揺らいだ。

Webディレクター歴3年の経験者として転職すれば、おそらくそれなりに儲けている会社に、それもかなりすんなりと転職でき、その結果、それなりに裕福に暮らせることはきっと間違いではないのだろう。

しかし、わたしはWebディレクターをどうしても辞めたく、目指したいキャリアがあったから、それを素直に選び取ることはできなかった。

やりたいこと、そしてWebディレクターを早く辞めなければという焦り。

20代マーケピザのbosyuで、すがけんさんに送ったメッセージは以下のようなものでした(文章はすこし整えました)。

LIGでWebディレクターをやっています、てらみと申します!

キャリア4年目で27歳です。普段は企業のWebサイトのリニューアルの受託制作の進行やプロジェクトマネジメントを行っています。
将来は自分のサービスやプロダクトをもてる、事業責任者やマーケターになりたく、今後のキャリアを考えると今の「受託制作のWebディレクター」という仕事領域を脱出しなければ!と考えています。
ですが、いつまでこの会社にいるのが得なのか、次に自分が目指すステップはどうすべきなのかと考えあぐねております。

どうぞよろしくお願いいたします。

わたしには、サービスやブランドやプロダクトを自分で責任を持ち、グロースさせられるようなマーケターであり、事業責任者になりたいという目標があった。

なぜかというと、現状の良くない日本社会を変えたいから。何かと問題意識は持ちがちな人間なので、具体的にこれということは決まっていないが、将来的に、人生の至上命題を見つけたときに、独力でも成し遂げられる力が欲しかった。

つまり、100万人のユーザーを集められるWebディレクター・マーケターになることはわたしの目標ではなく、興味のないことだった。

これは1年前に東京に転職してきたときから変わっていない。面接で、今の会社の役員にそう豪語したのをはっきりと覚えている。

受託制作の中でも、「サイトリニューアルの制作進行のWebディレクター」という現状の仕事は、クライアントとは1回ポッキリの関係になりやすく、期日どおりに納品させることが目的となりやすい。

プロジェクトマネジメント力をつけるという上で、メリットがあると思い、今の仕事を続けていたが、ある程度の実力がついた今、あきらかにキャリア設計上、ミスマッチになり始めていた。

いつまでもWebデザインのカンプのボタンを赤い四角で囲って、ナンバリングをし、「押下すると/serviceに遷移する」と指示書を書いている場合ではないと、わたしの心は焦っていた。

有名なマーケターの知らないおじさんに聞いてみた。

そこで出会ったのが20代マーケピザのbosyuだった。

bosyuの主は菅原 健一(スガワラ ケンイチ)さん。

失礼を承知で言わせていただくと、全く存じ上げていなかった。多分見たことか聞いたことはあると思うが、一個人として記憶されてはいなかった。

わたしから見れば、菅原 健一さんはフォロワーが1万人いる、なんか有名なマーケターの知らないおじさんだった。

ちなみに、20代マーケピザの当日まで、ご本人のお名前でGoogle検索することすらもしなかったので、「なんか有名なマーケターの知らないおじさん」という認知のままで参加することになりました。

なぜ人生の失敗できないギャンブルのお悩み相談を、知らないおじさんにしてみようかと思ったというと、ゴールデンウィークで暇だったから、というのがひとつ。そして、オンラインセミナーやサロンみたいなものに懐疑的だったので、真偽を確かめてみたかったという理由がひとつ。

自分の転職お悩み相談というネタを材料に、社会見学的に参加するというかなり低ーいモチベーションによるものだった。

(とはいえ、もちろん楽しみにしてましたよ)。

事業責任者になるために必要なスキルは「交渉力・説得力」。

先に引用したbosyuのような前提条件やキャリア設計を前提に、以下のような質問をさせてもらいました。

質問:事業責任者が持つべきスキルとはなにか

そのアンサーは「交渉力・説得力」。ちなみにすがけんさんは、事業責任者だけではなく、すべての社会人がもつべきスキルだと言っていた。すべての社会人が持つべきならば、事業責任者も当たり前に持っていなければならないものです。

そしてその説得力のカギになるののは、相手に価値のある情報提供ができること、そして、その価値とは相手の変化量であるということ。

そして、価値基準を決めるのは他者であり、それを判断するのも他者であるから「べき論」という自分視点の自己満足の言葉では、他者に態度変容を起こすことはできないこと。

だからこそ、相手の価値に合わせた言葉で伝える技術=交渉力・説得力を磨く必要があるということ。

これがどこにいっても成功するためのスキルになるという。

サラリーマンの世界でえらくなりたかったら、ゲームのルールを理解すること、ゲームのルールに素直に従って成果を出すこと、そのゲームを乗り越えることだという。

一発逆転の転職ギャンブルよりも、今の会社に残って力を磨いたほうがいい。

もうひとつ以下のような質問をさせてもらいました。

質問:キャリア設計とは異なる仕事でも、会社に残るべきか

アンサーは「残ったほうがよい」。

先の話に出たような「交渉力・説得力」という、岩のように頑として動かない相手に態度変容を起こさせる、スキルは一朝一夕で身につくようなものではない。

ひとつに組織にとどまって、課題定義を行い、交渉・説得を経て、解決を行うことで、職場を次々と渡り歩くよりも高い成長が見込めるし、なによりもそれができたことというのは、社内外問わずに他者に評価されるという。

どうせいつかやめるなら、とりあえずその組織でやることやって、それからやめればいい、というわけだ。

組織や人のために自分を犠牲にして損をするようではいけないけれど、自分が得をするように、という視座を失わなければ問題はない。

分かってはいた。成果をだしている第三者から言われたら、腹落ちせざるを得ない。

大変耳が痛い話である。

現にわたしは1年前に、新卒入社した会社で、幸いにもそれまで会社になかった経営企画のようなポジションにつこうとしたものの、「べき論」で社長を説得しようとし、「なに好き勝手言うてんねん、ちょっとは立場を考えろ」と突き放され、わたしは「この分からずやがトップの腐った組織にいてもムダだな」と、その会社を離れて、そしてこの東京にやってきた。

あそこに居続けるべきだったとは思わないが、あのときの自分の未熟さは身に染みてよく分かっていた。

わたしは常に自分が正しいと思っているし、それを理解しない人間はわからずやだと思ってバカにしているところがある。

今の会社でも、ものの言い方や、伝え方で注意されることがある。しかし、分かっているけど、納得ができないでいた。だってわたしが正しいから。

会社の都合でそういうことを言っているんだろう、そういうあいつもできていない、お客さんの考え方のほうが間違っている、そんなことを言う前に、この状況をどうにかしてくれ。

下手に相手との間に利害関係があること、相手のバックグラウンドやそれ以外のその他諸々を知っていることが、言葉の認知を曇らせた。

分かってはいるけど、直せない。

注意されれば、負けじと反論したくなる。

そんなこんなで27歳がすぎ、今年28歳になろうとしていたところだったが、成果をだしている第三者から言われたら、ついに腹落ちせざるを得ない状況となったわけである。

20代マーケピザが終わるころには、わたしの中から取り急ぎの転職という選択肢はきれいサッパリなくなっていた。

あなたが天狗であるならば、第三者のメンターはいたほうがよい。

オンラインセミナーやサロンを胡散臭く思う立場から、20代マーケピザにさせてもらった感想としては、参加して良かったと思う。

20代マーケピザの時間の中では、いくつかの新しい発見や学びをえられたが、大半のことは極めて普遍的であり、分かっていたことでした。

それでも、なんの利害関係のない成果をだしている第三者を介することで、自分を相対化・客観視することができました。

今回、わたしがすがけんさんを全く知らなかったことも良かったのだと思います。事前の認知で、すがけんさんになんらかのリスペクトを抱いていたり、逆になんらかの軽視するような感情を抱いていたら、こういうふうには感じなかったと思います。

まったくの第三者的であったからこそ、受け取るひとつひとつの言葉を自分で判断しながら相対化・客観視することができました。

参加したわたしから、20代マーケピザをおすすめするならば、あなたがわたしのような天狗であるならば、全く利害関係のない、第三者的のポジションのメンターみつけたほうがよいということです。

オンラインセミナーやオンラインサロンに懐疑的で、すがけんさんのことなど1ミリも知らないあなた、参加してはいかがでしょうか。

余談ですが、すがけんさんはおそらくかなりの「いい人」です。

とくにお金も取らずに20代のとりとめもなく、まとまらないような質問に、真剣に向き合えるのは、まぁまぁかなりいい人だと思います。

過去にはお金をとっていた時代もあったそうですが、あるときは8000円の参加費で2万円のディナーをご馳走し、あるときは8000円の参加費で5万円分の情報商材?をプレゼントしたのだとか。

わたしも、この新型コロナ感染症(COVID-19)が落ち着いたら、8000円払って2万円のディナーを食べたい……。

菅原 健一さんおよび参加者のみなさん、楽しい時間をありがとうございました。

わたしは今回相当腹落ちして覚悟も決まったので、しばらくは質問したいようなことはないのですが、また悩みにぶつかった際にはお世話になろうと思います。

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