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問題ごとの多い本

問題は矢継ぎ早に起きないといけないのだろうか?

昨今のテレビドラマを見ていてつと、思った。
目の前を通り過ぎる内容がとても忙しないのだ。

私が好むドラマのシナリオは、1つの問題(テーマ)について登場人物達が最終話迄までに各々の答えを見つけていく。
その間にもポロポロと問題は起きるが、一話内で全てを解決せず、話の流れの中で答えがゆっくりと出ていき、最終話でラスボスみたいな問題の答えが分かる。

昨今は1つの問題(テーマ)について登場人物達が最終話迄までに各々の答えを見つけていく。までは同じだが、一話内で起きた問題は一話内で全て答えを出していき、最終話でラスボスの答えを誰かがハッキリと教えてくれる。
テンポも早く、解決が早い分、問題の数も詰め込まれている。

ドラマによっては、なんかすごい達観したような主人公が、恐ろしいほどの長台詞で倫理的に答えを次々と教えてくれたりもする。

私はどちらかと言うと自分で考えて解釈したい。
登場人物の動きや表情、セリフで「こう言うことが言いたかったのか」と。全体を通して知っていきたいから「この場合はこう!」と答えを提示されても「なるほど」とは思うが、そんな早く結論つけなくてもと押さえつけられた気分に陥る。

検索すれば答えは確実にすぐ分かる時代に、そんな悠長なことを言っていたらどんどん置いていかれるし、答えを先延ばしにすると見てくれないのかもしれない。

全体を通して「どういうこと?」と、もどかしくなりながらのんびりあれこれ考察する時間も、私は楽しいんだが。


最近読了した本。

失われたものたちの本
ジョン・コナリー著、田内志門訳

ゴールド推しだが、グリーンもやぶさかではない

母親を亡くして孤独に苛まれ、本の囁きが聞こえるようになった12歳のデイビットは、死んだはずの母の声に導かれて幻の王国に迷い込む。赤ずきんが産んだ人狼、醜い白雪姫、子供達を拐うねじくれ男・・・。そこはおとぎ話の登場人物達が蠢く、美しくも残酷な物語の世界だった。

失われたものたちの本〜あらすじより抜粋〜

私がこの本を選んだ理由は、帯の言葉一択。

宮崎駿氏推薦

このパワーワードを前に後戻りの発想は湧かない。
なにせ、私は3度の飯よりジブリが大好き。

すいません、嘘です。

ジブリより3度の飯の方が好き。なんなら飯は4度あっても良い。
そんな私の心すら掴む、宮崎駿氏の名前の吸引力は凄い。

さらさらとあらすじを読んで、児童書を読むような感覚で読み始めたら、早速しっぺ返しを喰らった。物語口調の文章なのに内容が哲学的で、お!さすが外国の文学!と額を叩いてしまった。

朝目が覚めたら本だけが友達の隠キャの僕がおとぎ話の世界に迷い込み勝手に勇者にされたからヤケクソで刀振ったら国を救えてプリンセスにモテまくって困ってます。

みたいなことは一才ない。

デイビットが幻の王国から元の世界に戻るためには、王様が持っている「ある本」をちょいと拝借しなければならない。
しかたないな、王様んとこ行くか。と重い腰が上がる。

だが、デイビットは選ばれし勇者でもないし、スーパーパワーも屈強な精神も持ってなどいない。
無理やり王様にされかけるけど、断固拒否。

そのうえ、幻の王国にいるのも寒いし、辛いし、大変だし、不安で嫌だけど、現実世界も父の再婚相手とその間に生まれた弟も好きになれないし、そのせいで父親とも、新しい母親とも上手くやれていないから、正直、しんどい。
でも残ったところでこの国も色々と大変そうやし。だが、だからと言って救う気もない。

デイビットの渡る世間は鬼ばかり。

あっちでもこっちでも問題勃発心休まるどころか、ツッコミも追いつかない。

そんなデイビット、旅のお供にはそこそこ恵まれている。
木こりのおじさん、騎士のローランド等、強い大人が連れ添ってくれるが、シェイクスピアか鬼滅の刃ばりに死んでいく。

物語の時代背景も然る事ながら、社会風刺や、戦争、性差別の捉え方など12歳の少年に一気に降り注ぎすぎやしないか?と思うけど、外国文学ならこんなもんかな?とも思う。日本の児童文学にはない、独特のざらりと喉に引っ掛かる後味の悪い哲学がある。

思春期の心の成長を具現化させ、そこで起きる心の葛藤や性の目覚めを幻の国に投影し、客観的に観察できる話。

全体を通してデイビットの悪運の強さが天下一品な話ですね。


この本は、矢継ぎ早に問題が起きて物理的に解決はされていくが、答えは最終までわからないし、主人公の心の成長を通して「自分で汲み取れ」方式。
宮崎駿さんの作品も、問題は山積しないが、物語の中で主人公の心の成長を「自分で汲み取れ」方式に思う。

途中経過は重要なヒントで、最悪最後まで作者の意図は分からないかもしれないが、主人公の精神や思考が少しずつ変化していくのが面白いところ。
途中経過無くして意図は伝わらない。


友人が「最近バスケ面白いなって思って」と話してくれた。私も好きだから嬉しくなって観戦行こうよ!と誘ったら

「バスケは長いしルール謎やからハイライトでスーパープレイと結果だけ見るからいいわ」

と、さらりと断られた。
「どう試合を運んでいくか」「後半のクラッチタイムにどう出るか?」を私は楽しみたいんだが、そうではないらしい。

ドラマも飛ばして早送りか、あらすじだけで済ませる人も増えている。
なるほど、手っ取り早く概要と結果だけ知れれば良いわけか。

問題は問題の多さでは無いんやな。

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