明けない夜もある。本
すっかり望みをなくした事で、身が軽くなる事ってあるよね。
「絶望」と漢字2文字にしてしまうと、とんでも無く鬱屈として凄惨な事態に感じるけど、
「すっかり望みをなくすこと」と書かれると幾分か軽く感じる。
どっちも意味は同じやけど。
この本を手に取ったのは、ノリと勢いで描き始めた小説の主人公の事を考えながら梅田の蔦屋書店を4周回り終えた時だった。
主人公は「マイケル」と名前を付けられてしまったが為に、周りに「マイケルと言えばジョーダンだろ!」と冷やかされ続けてサッカー部に入り損ねた経験から、何をするにも名前やスポーツに対する拗れた感情を理由に、惰性で生きてきた男のコメディ。
私は根っからの呑気な思考を持っている女なので、このマイケルの考え方が少し難解。
彼はこの先に起きそうな問題を、まず洗いざらい並べて、そこから派生する不安になる要素を探すのが得意で、私は苦手。
ほななんでそんな奴で書き出してん?
なんでやろね?
でも、書いていくとマイケルは卑屈な拗らせの中で、ネガティブなのにちょっと希望を捨てきれなかったりする。そんな彼の言葉は、素直じゃ無くて、ぐずぐずと言い訳がましいけど、人間らしくてなんだか逆に素直に感じる。
そんな彼の性格や発言の掘り下げに、何かいいネタが無いか?と徘徊していて見つけたのがこの本
NHKラジオ深夜便・絶望名言
NHK「ラジオ深夜便」の人気コーナーを書籍化したもので、文豪や偉人たちの「絶望に寄り添う言葉」から生きるヒントをさがす、といった内容。
20歳で難病になった頭木弘樹さんが、13年間に及ぶ療養生活の中で苦しんだ時に救いになった言葉を「絶望名言」と名付けて本を出版した事が始まり。
冒頭にも書かれているが、人は絶望の淵に突然立った時、ポジティブな言葉より、ネガティブな言葉の方が響く。
確かに、失恋したときは失恋ソングを選びがちだし、SNSでも不幸な内容に目が止まってしまう。
どうしてもポジティブな言葉が辛く重かったり、イライラと受け入れられない時がある。
とことん落ち込んで、泣いて泣いて疲れて寝て、起きられなくて寝そべって、うっかり触ったスマホに、彼からの「追いかけメッセージ」が無くて、虚しくなって。
SNSの幸せな内容、友達からの「次があるよ」の励まし、仕事の気分じゃないのに迫る出社時間。
今まで助けてくれた筈の「気分転換」や「励まし」が、排水溝に絡んだ髪の毛みたいにうざったくて、どんどん気持ちの流れを悪くしていく。
そんな時、この本に抜粋された言葉たちは、確実に寄り添ってくれる。
安心してください、共感しますよ!
失恋ソングを選ぶのも、不幸なSNS投稿探すのも、励ましに腹が立つのも、あなたがダメだからじゃないの。
周りの人が言葉の選択が間違ってるだけ。
と、心置きなく寄り添ってくれる。絶望のプロ達の言葉がてんこ盛り。
ロスターはフランツ・カフカ、太宰治、芥川龍之介、シェイクスピア、ベートーヴェン・・素晴らしいラインナップ。
個人的には今季はベンチ入りのゲーテも気になる。
文学小説はちょっと・・・という人も、分かり易い解説と、絶望共感ポイントが副音声の如く入っており、文学初心者も楽しめる。
私は早いうちに純文学に挫折したが、そんな私でもすらすら読めるし、確かにわかる!と納得の頷きが止まらないページもある。
実際、私の本棚にも数冊絶望のプロ達の本があって、あぁこれはこれは、確かに自分も人生で精神的に辛かった時期に自然と手に取った本だな、と思い返す。
失恋や仲のいい友達との喧嘩のレベルではない、人生ってなんやろう?私ってなんで生きてるんやろう?私の吐く二酸化炭素で、皆んなの地球を汚してごめんなさい・・・レベルの時、底辺も底辺、ドン底で手に取った本。
だけど、内容があんまり理解出来なくてまた落ち込む。
日本人なのに日本語も理解できず、だからと言って外国語が得意なわけでも無い。理解出来ないと分かっていながら無駄に金を使い、己の無能さを再確認しただけの、積み本が床にある。
私は唯の阿呆だ、この本はタダではない、金を払ったのだから値打ちがある。
理解出来ない私が、本物のタダの阿呆なのだ。
と絶望しながら必死に読んだゲーテの「ファウスト」カフカの「変身」
なんであの時、この「絶望名言」がなかったんだろう?と悔しくなるほど分かり易い。
すっかり望みを無くした中でも、人は結局生きていて、死ぬのは怖いし、なんだか残りの人生が勿体無い気もする。
生きたくても生きられない人もいる!なんて言葉は、言った人の優越感に思う日もある。
人は皆、ちゃんと不平等なんです。
平等に生きることが本当に心地よいのなら、もう世の中そっくりそうなってますから。
私が書くマイケルも、明けない夜の中で、タダぼんやりとした不安と闘っている。その不安の中を、賢く、カッコよく泳ぎ切ろうとしては、溺れない為にすぐ足を着いちゃうマイケルを、奥深く書いていこうかな。
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