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ジャニーズゴールドマップ事件

こんにちは。

 デジタル化社会では、有名になることで様々な利益を得ることできますが、その反面でプライバシーが侵害されるというデメリットもあります。

 実際に、有名人に関してはどのような場合にプライバシー侵害が認められるのでしょうか。この点を考える上で、今日は「ジャニーズゴールドマップ事件」(東京地判平成9年6月23日判例タイムズ962号201頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 株式会社鹿砦社(ろくさいしゃ)は、ジャニーズ事務所所属のタレントの自宅や実家の住所、電話番号を記載していた「ジャニーズ・ゴールド・マップ」を定価1万円で出版することを予定していました。
 これに対して、元SMAPの中居君ら19名(SMAP+TOKIO+V6+KinkiKids)とジャニーズ事務所は、本の内容がタレントのプライバシーを侵害しているとして、本の出版の差止めを求めて裁判所に提訴しました。

2 中居君らの主張

 一般に、個人の自宅や実家の所在地、電話番号がプライバシーとして尊重されるべきことは、この社会の中で広く認識されています。例えば、NTTは加入者の希望により、電話帳への電話番号や住所を掲載しなかったり、番号案内サービスから除外していたり、新聞社は、事件報道において被疑者・被害者の住所を掲載せず、また、投書欄においても、投書者の住所について市町村名程度にしか特定しておらず、テレビの報道番組などでは、電柱等に付けられている住所表記プレートや、個人宅の表札が画面に映るときは、これらを判読できないように、いわゆるモザイク処理を施すことが多く、住民票は、本人、本人と同一世帯に属する者、国又は地方公共団体の職員が請求する場合以外には、弁護士、司法書士等がその資格及び職務上の請求である旨を示したとき又は市町村長が相当と認めた場合でなければ、みだりにその閲覧、写しの交付を受けることはできないことになっています。
 僕たちタレントは、芸能人ではありますが、一般人と同じく私生活の平穏を享受する利益を有しています。芸能人が、その職業柄、自分の日常がある程度公表されることを事前に承諾しているとはいえ、その範囲は、無制限ではなく、社会常識の範囲内に限られるはずです。自宅や実家の所在地、電話番号は、芸能活動を営み、発展させていくためには関連性がない情報です。書籍等の出版・販売等によって自宅や実家という唯一の逃げ場を失い、回復しがたい損害を被りますので、本の差止めを求めます。

3 鹿砦社松岡社長の主張

 そもそも著名人は、プライバシーの権利を放棄してるやろ。SMAPのように大衆のアイドルを目指し、かつ、アイドルであり続けようとするんやったら、自らに関する記事の公表に同意したものとみなされるんや。タレントとしての地位が公的なものとなった以上は、その公表されようとする私生活上の事実も、もはや、私的なものではあり得へんやろ。
 また、仮に今回の書籍の出版・販売によって、多くのファンがタレントらの住所に押し掛けるような事態が発生したとしても、そのこと自体は、ファン一人一人の自覚や自重に期待すべき性質の問題であってやなあ、表現、出版の自由の制限、禁止によって回避すべきものではないんや。ちなみに、所属事務所は、プライバシーを侵害されとらんやんけ。

4 東京地方裁判所の判決

 おっかけマップに掲載されたジャニーズのタレントらの中には、実家や家の前に多くのファンが集まり、近所から苦情が出る、写真を撮られる、郵便物が持ち去られる、生卵を投げつけられる、無言電話がひっきりなしにかかる、洗濯物が盗まれる、空き缶や石を投げつけられる、早朝・深夜を問わずインターホンのチャイムが鳴る、落書をされる、などの被害が急に増えたことが認められる。
 芸能人がその職業上、自分の日常生活についてある程度公表されることは了承しているということがあったとしても、著名人あるいは芸能人が私生活の平穏を享受するという人格的利益(プライバシー権)を喪失するいわれはなく、営利を目的とし、本人に著しい私生活上の不利益を強いるような情報の公開まで、受忍しなければならないいわれもない。また、芸能人にとって、実家や自宅についての情報が公表されることは、私生活だけでなく、芸能活動そのものに障害が生じることも考えられるのであって、個別に公表を承諾することがあったとしても、一般的に公表を了承しているとは考えられない。
 表現の自由あるいは出版の自由が私法秩序の上でも尊重されなければならないとしても、今回の書籍の内容は、公益を目的とするものではなく、「おっかけ」を助長することにより出版社らの営利を図るものであり、そのような性質を有する書籍の出版、販売という表現・出版の自由よりも、ジャニーズタレントらの人格的利益の保護が優先するものというべきであり、表現・出版の自由ということを考慮しても、書籍の出版、販売はジャニーズタレントらの人格的利益を侵害する違法な行為というほかはない。
 しかし、ジャニーズタレントらの私生活の平穏を享受するという人格的利益は、ジャニーズタレントらそれぞれに固有のものであり、ジャニーズタレントらはそれぞれその利益を守るべく今回の請求をしているのであるから、ジャニーズ事務所がジャニーズタレントらの人格的利益に基づく請求権を行使する余地はないし、ジャニーズ事務所が出版社らに書籍の出版、販売の差止を求めることができない。
 よって、ジャニーズタレントからの出版、販売の差止めのみを認める。

5 所属事務所からの販売差止めを認めなかった

 今回のケースで裁判所は、たとえ芸能人であったとしても、その住所や電話番号が掲載された書籍が販売された場合には、プライバシーの侵害を理由にその差止めを認めるとしました。ただし、これはあくまでプライバシーを侵害されたジャニーズタレントの権利なので、所属事務所からの販売差止めは認められませんでした。

 また、裁判の途中でスマップを脱退した森且行君も原告に名を連ねていたので、非常に奥が深い事件でしたね。

 では、今日はこの辺で、また。

 

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