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夜の新宿、映画館でワインを開けたくて

いつも終電近くまで仕事をしている友人を映画に誘った。
「夜の映画館でお酒を飲まない?」

その人は飲み友達である。定時が夜遅くまでの仕事をしているので、飲むのは終電くらいから朝まで。
お休みの前の日は、いつのまにか習慣のように一緒に飲むようになっていた。

「いいね。」
二つ返事で了承してくれるところが少し好きだった。

新宿の映画館には、23時すぎから始まるミッドナイトレイトショーというものがある。終電を逃しても、映画をふらっと観ることができる。それがこの街のいいところだ。

そしてお酒が頼める。
お酒が好きな私たちは、映画館のアメリカンなデザインの紙コップに並々のビールを注いでもらい、通常より一回り小さなワインボトルを頼んだ。お腹も空いていたので、たしかポップコーンとチキンも頼んだような気がする。

映画が始まった。
観たのは「怪物」だった。

この映画は、二人の男の子が登場する。明るい裕福な家庭の小さな男の子。背の高い寡黙な男の子。その男の子のお母さん、男性教師…さまざまな事情を抱えた人物が登場する。

冒頭は安藤サクラさん演じるお母さんが出てくる。
安藤サクラさんが好きな私は舌鼓を打ちながらビールを喉に流し込む。
好きな女と良い映画、旨い酒、最高である。ホワイトビールは苦手なんだよね、と言いながら頼んだ黄金色のピルスナーが喉を鳴らす。はあ、至福とはこのことだ。

こそこそとポップコーンを運びながら、いや結局酔いが回って堂々と貪り食い始めてしまったかもしれないけど。

スクリーンの光に顔を照らされながら、友人とたまに顔を見合わせて、小さなチキンを口に運ぶ。あっとういう間になくなり、映画開始数十分ですっからんになったチキンの箱を見つめてまた少し笑った。

物語はさまざまな人の視点で描かれた。
話がめまぐるしく変わり、頭を整理しながら観ていたけど、酔っていたのであまり頭が追いついていなかった。
冒頭の違和感はこういうことかと納得する場面もあった。

映画の中盤では、無くなるかなぁと不安だったボトルのワインはすっかり空になっていた。
(もう、ないの。)
と目で友人に訴えると、ニシシといたずらな笑い方をしていた。たくさん飲んだんだな。

ほろ酔いの気分で、物語は終盤に差しかかる。
ああ、そういうことかと思う私と、なるほどさっぱりわかりませんの私が混在していた。

結局この物語の感想は、「怪物だれーだ」の言葉で締めくくられる。

映画は観る人によって解釈が違う。
友人と、ほろ酔いで映画の感想をぽつぽつと話して、その足で新宿二丁目に足早に向かった。

なぜ、二丁目に行くのか?
この映画を観たら少しわかるかと思います。

まあ好きだからというのもありますが。酒も女もこの街も。

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