見出し画像

発酵ラボ〜第9回 牛肉のガルム

発酵ラボ、前回はイカのガルムをご紹介しました。

今回は「牛肉のガルム」。開発したのはnomaのトーマスフレーベル氏。(一時期、日本のInua(KADOKAWAのレストラン)のシェフとして日本に滞在していましたが、現在はコペンハーゲンに戻り、nomaでプロダクトを担当しているようです)当時のnomaの看板的な調味料になりましたが、魚ではなく牛肉で作ったガルムはセンセーショナルだったようです。

とはいえ中国や日本には古来から「肉醤」という調味料がありました。干し肉に麹と塩を加えて熟成したものと考えられていますが、これと原理的にはまったく同じ。前回のイカのガルムをのときは内臓の消化酵素の働きもありましたが、牛の内臓は菌だらけで非常に危険なため、麹の酵素(プロテアーゼ)のみを使ってたんぱく質を分解し、風味を引き出します。

牛肉 500g
麹  100g
水  400ml
塩  120g

まずは牛肉をひき肉にします。

牛肉は脂肪分が少ない、赤身肉が向いています。というのは脂肪は酸化して嫌な匂いの原因になるからです。今回はオーストラリア産の赤身肉を使いました。

塩と乾燥麹をミキサーにかけます。今回は米麹ではなく、麦と大豆の麹を使いました。

米麹でも同様につくれます……が、風味は若干違います。米麹を使うと甘酒っぽいflavorが入るので、しょう油感が強くなりますね。

ビニール手袋をしてひき肉と麹、塩水を混ぜ合わせます。落としラップをしたら、パッキンを外して、蓋をしておきます。(そのまま蓋をするとガスで瓶が割れます)

この後の工程が最大のポイントで60℃で保温するのです。60℃で長時間加熱することで有害な微生物を殺菌し、酵素の働きを強めてたんぱく質の分解を進めます。塩分を高い濃度にしても安全性は確保できますが、牛肉には腸管出血性大腸菌などのリスクがあるので、加熱殺菌するのが一番安全です。

60℃で低温長時間加熱することで長期間熟成させたようなメイラード反応による香ばしさが出ます。一方、有害な微生物は低温殺菌されるので、安全性も確保できるわけです。温度が上がるまでの安全性は塩で確保し、それ以降は温度で担保するという二重の構えです。(これ、前にも言いましたが)

インスタンポットに水を少し張り、60℃のヨーグルト発酵モードにして、10週間熟成させます。はじめの1週間は毎日、ラップを外し、表面に浮いた脂を取り除き、一度かき混ぜます。2週間目からは1週間に一度、かき混ぜるだけで大丈夫です。

10週間経った状態がこちら。完全にしょう油的な見た目になっています。

濾し取るとこんな状態。このひき肉も冷凍して、調味料として使うことができます。保存は冷凍、または冷蔵庫で。

さて、肝心の味ですが、ちょっと香ばしいおしょう油です。コンソメのような牛肉の風味がかすかにするような気もしますが、たんぱく質をアミノ酸レベルにまで分解し、風味のもとである脂肪分を除去しているので、気の所為でしょう。うま味は多いですが、はっきり言って趣味以外では自作する必要性はありません。(日本であればおいしいしょう油を使った方が楽なので)ただ、考えるべきは肉醤の歴史を持つ日本人がなぜこのような調味料を先に世界に広められなかったのか、という点です。

市販されている製品では鶏の内臓を使ったガルムにはまるはらのにくしょうがあります。こちらの商品はレバー臭がかすかにありますが、料理にうま味を加えるには便利です。使い方としてはミートソースにちょっと入れる、とか。

北海道みやげとしては三笠の鶏醤が有名です。こちらは卵かけご飯に使うとかですかね。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!