#43【頸肩腕症候群】FHRSPを改善させる運動療法について(Forward Head and Rounded Shoulder Posture)
今回参考にした論文はこちら。
Fathollahnejad, K., Letafatkar, A. & Hadadnezhad, M. The effect of manual therapy and stabilizing exercises on forward head and rounded shoulder postures: a six-week intervention with a one-month follow-up study. BMC Musculoskelet Disord 20, 86 (2019). https://doi.org/10.1186/s12891-019-2438-y
chatGPTに読ませれば、英語論文を読む労力が最小限に抑えられるので、今後はこういう実証的な研究を元にした記事も書いていけたらと思っています。
論文の内容を紹介するというより、論文から得られる臨床に役立つ情報をまとめてお伝えしたいと考えています。
勉強熱心な方は、論文もしっかり読み込んでいただければいいんじゃないでしょうか。
chatGPTに訳させるのまじでおすすめです。
1.FHRSPとは?
「Foreward Head and Rounded Shoulder Posture」の略語です。
「Foreward Head Posture」は頭部の前方変位姿勢、「Rounded Shoulder Posture」は巻き肩のことですね。
頭部前方変位姿勢のいい画像があったので貼っておきます。
巻き肩は肩が内巻きになっている状態です。この記事を読まれるような方ならわかるかと思います。
(※以下、頭部前方変位姿勢は「FHP」、巻き肩は「RSP」と表記します)
FHPやRSPは、いわゆる頸肩腕症候群の原因として悪名高いです。
頸肩腕症候群とは、肩こり・首こり・緊張型頭痛・胸郭出口症候群など、首から上肢にかけての症状の総称です。
これらの症状に悩まされている方はかなり多いですね。
まず、FHPとはいったいどのような姿勢なのでしょうか?
頭が前に出るのは頚椎が屈曲しているからですが、これは頚椎だけの問題ではありません。脊柱は腰椎まで連続して繋がっており、脊柱の姿勢は全体で決まると考えるべきです。
頚椎の屈曲につながるのは胸椎の後弯です。胸椎の後弯が強くなっていると、頚椎は自然と屈曲してしまいFHPにつながります。
さらに言うと、胸椎の後弯が強くなっているということは腰椎の前弯も強くなっている可能性があります。
(今回の記事で取り上げている論文では、腰椎に関しては触れていませんので、腰椎についてはこの後は述べません。)
もう一つ重要な点として、頚椎は屈曲していると言いましたが、すべての頚椎が屈曲しているわけではありません。そんなことをすると前を見て歩けませんので。
頚椎が屈曲しても前が見えるのは上位頚椎が過度に伸展しているからです。先ほど添付していたFHPの画像を見ていただければ、上位頚椎が強く伸展している様子も見れるかと思います。
ですのでFHPという姿勢は、「胸椎の過度な後弯+下位頚椎の屈曲+上位頚椎の過伸展」という状態だと覚えておきましょう。
筋に注目して見ると、上部僧帽筋、胸鎖乳突筋、肩甲挙筋が短縮しています。また上位頚椎が伸展しているので後頭下筋群も短縮しているでしょう。
次にRSPですが、こちらは「肩甲骨の外転+肩関節の内旋」という状態です。先ほどFHPは胸椎が後弯していると言いましたが、胸椎が後弯するとまず間違いなく肩甲骨は外転します。そして肩甲骨が外転すれば胸が閉じ、肩甲骨の前傾も加わりますので、肩関節も内旋していきます。
筋としては大胸筋や小胸筋が短縮しているでしょう。
骨の姿勢不良により筋が過剰に収縮しつづけている状態は、筋にとって大きなストレスになります。筋力の10%以上の等尺性収縮は筋の虚血につながると言われています。
姿勢が悪いせいで筋が収縮し続けざるを得なくなり、筋が虚血に陥ることでATP不足から筋の弛緩ができなくなり、痛みが出ます。痛みが出ればさらに過剰に収縮してしまいます。
これは疼痛スパズムサイクルという記事を一度書いていますので、確認される方はこちらをどうぞ。
FHPやRSPによる愁訴に対して、効果的な介入を指示する証拠はほとんど無いと報告されています。
整体やマッサージといった施術は、筋の緊張を緩和し関節可動域を改善させることで疼痛の緩和ができますが、対症療法に留まる効果しかないと言えるでしょう。
根本的な改善として必要なのはFHPやRSPの改善です。そしてそのためには、肩甲骨を安定化させるような運動療法が、姿勢と痛みを改善し結果として生活の質を向上させるということが言われています。
ということで以下では、FHPやRSPとそれに伴う頸肩腕症候群を改善させるための運動療法について紹介していきます。
2.FHP・RSPを改善させるエクササイズを5つ紹介します。
今回参考にしている論文で紹介されているのは、5つのエクササイズです。
一応、私が日本語にしていますが、論文に図が挿入されておらず100%合っているかどうかちょっと自身がありません。
原文も下に載せておきますので参考にしてください。
①Y to W
うつ伏せで両腕をYの字に上げます。親指を上に向け、10cmほど腕を浮かせます。このとき、肩甲骨は内転して固定しておきます。腕を浮かせたまま肘を曲げていき、手のひらが顔の高さに来るくらいまで肘を引きます(両腕でWの字のかたちになります)。Yの字とWの字を繰り返します。
②L to Y
うつ伏せで肩を外転90°、肘を90°曲げ指先が頭の方を向くようにします(Lの字)。肩甲骨を内転させ、手のひらは外側に向けます。肘を伸ばしながら腕を上方に伸ばしていき腕をYの字に上げます。Lの字とYの字を繰り返します。
③Scapular protraction(肩甲骨の外転運動)
プローンの姿勢を取ります(よくある体幹トレーニングの姿勢)。前腕とつま先で体を支えながら肩甲骨の内転位を維持します。その状態から肩甲骨を外転させながら1〜2cmほど体を持ち上げます。この時、翼状肩甲骨にならないように注意します。
④Pectoralis flexibility(胸筋の柔軟性改善)
ストレッチポールに仰向けになります。腹横筋を収縮させて、腰椎をストレッチポールに押し付けます。肩と肘を90°曲げます。肩を水平屈曲して前腕と手のひらをつけて、その後肩甲骨を内転させながら肩を水平外転して胸を開きます。それを繰り返します。
⑤Chin tucks
仰向け(おそらく)に寝て、顎を引き後頭部で床面を押します。
3.まとめ
まとめます。
FHPは「上位頚椎の過伸展+下位頚椎の屈曲+胸椎の後弯」です。
RSPは「肩甲骨の外転+肩関節の内旋」です。
FHPやRSPによる首まわり肩まわりの不調は、マッサージなどで改善させることはできます。しかし根本的な改善を目標にするのであれば運動療法が必須であり、上記の運動療法は症状の改善に強く効果が見られた運動のようです。
首まわり肩まわりの愁訴でお悩みの方に対する施術をすることは多いですが、受動的な施術だけで完了するのではなく、能動的な運動療法の指導をするのが患者様の為かもしれません。
今回参考にした論文では、6週間に渡って上記の運動療法を実施したことで、痛みの改善や姿勢の改善が見られたということです。
私の印象では加齢とともに姿勢の改善にかかる労力はかなり大きくなると思います。
症状がある方もそうですが、症状のない方でも予防のために日頃から実践するのが重要でしょう。かなり根気が必要ではありますが。
自分のために、頑張りましょう。
参考文献
Fathollahnejad, K., Letafatkar, A. & Hadadnezhad, M. The effect of manual therapy and stabilizing exercises on forward head and rounded shoulder postures: a six-week intervention with a one-month follow-up study. BMC Musculoskelet Disord 20, 86 (2019).
Thomas W. Myers, 2016, アナトミー・トレイン――徒手運動療法のための筋筋膜経線 第3版,
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