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インスタント・ポット(米で大流行の圧力鍋)の末路!

 本日翻訳して紹介するのは、the New Yorker Web版に7月12日に掲載された Susan Orlean によるコラムです。タイトルは、”The Instant Pot and the Miracle Kitchen Devices of Yesteryear“となっています。


 タイトルを訳すと、「インスタント・ポット かつて一斉を風靡した一発屋!素晴らしいキッチン用品の末路!」くらいでしょうか。インスタント・ポット(Instant Pot)というのは、アメリカで2016年頃から数年間売れに売れた圧力鍋の商標名です。ヨーロッパと異なり、アメリカでは圧力料理が定着したり、流行したことは一度も無かったのですが、その商品のおかげで一気に圧力鍋を使った圧力料理が普及したのです。なんと、2016年のAmazonプライムデーでは、1日でインスタント・ポットは21万個も売れたのです。

 しかし、インスタント・ポット(Instant Pot)の流行は一時的なものでした。あっという間に廃れてしまい、それを作っているメーカー(インスタント・ブランド社)は連邦破産法第11条の申請せざるを得ませんでした。2016年、17年には爆発的に売れたのに、あっという間に潮が引いてしまったのです。一発屋と言われる芸人のようなものです。でも、そもそも一発も当てられない芸人の方が一発屋よりもはるかに多いわけです。それと同じで、インスタント・ポット(Instant Pot)が急激に廃れてしまったことは、決して悲しむようなことではないのです。むしろ一瞬とはいえ、非常に眩く輝いたことを誇るべきです。

 ところで、キッチン用品の分野では、インスタント・ポット(Instant Pot)のように一瞬もてはやされ、すぐに廃れてしまった商品が山ほどあります。ホームベーカリー、アイスクリーム・メーカー、スロークッカー(低温調理器)、パニーニ・メーカーなどです。と、このコラムには書かれているわけです。しかし、私はそりゃ違うだろっ!と思います。だって、ホームベーカリーやアイスクリーム・メーカーをずっと使い続けている人は結構いたりします。圧力鍋だって、使い続けている人って結構いますよ。そうした製品を一発屋芸人のように見立ててバカにするのはどうかと思わなくもありませんでした。

 さて、インスタント・ポット(Instant Pot)が急激に廃れてしまった事例から学ぶべきことは何でしょうか?ChatGPTに、何を学ぶべきか教えてと聞いてみました。答えは次の通りでした。
”この事例から学ぶべき教訓は、市場が急速に変化する可能性があるということです。製品が一時的に人気があっても、その需要が永続するわけではありません。消費者の好みや生活様式が変化することがあり、それに対応して企業は製品の改良や新しい製品の開発を進める必要があります。また、市場変化に対応できるように、企業は常に市場動向を把握し、顧客の声を聞くことが重要です。”

残念なことに結構浅い分析です。インスタント・ポット(Instant Pot)が廃れた分析ではなく、廃れた製品についての一般的な分析でしかありません。プロンプトを英語で記して試してみましたが、ほぼ同じ答えが返ってきました。んー、こんな調子では、ChatGPTもいずれインスタント・ポット(Instant Pot)のように急激に廃れてしまうのではないかと心配になってきます。そうならないように顧客の声を聞いて改良を続けてほしいものです。

 では、以下に和訳全文を掲載します。詳細は和訳全文をご覧ください。


Afterword

The Instant Pot and the Miracle Kitchen Devices of Yesteryear
インスタント・ポット かつて一斉を風靡した一発屋!素晴らしいキッチン用品の末路!

Preparing meals is a Sisyphean task, and anything that promises to make it faster, or easier, or better, or healthier, or more fun, is irresistible.
食事の支度というのは果てしない無駄な作業(Sisyphean task)ですので、それをより早く、より簡単に、より美味しく、より健康的に、より楽しくすることを約束するものには、抗いがたい魅力があるのです。
By Susan Orlean   July 12, 2023
 かつてインスタント・ポット(Instant Pot)が登場した頃のことを覚えているでしょうか?2016年のAmazonプライムデーのことを覚えているでしょうか? 当時は、インスタント・ポット(Instant Pot)が最も輝いていた時期であり、それはキッチン用品(kitchen gizmos)の歴史の中でも重大な出来事でした。それだけでなく、アメリカの文化史上でも重大な出来事として認識されるべきものです。当時、Amazonで、それは24時間で21万5千個も売れたのです。本当はもっと売れたはずでした。しかし、在庫が切れてしまったのです。さて、2017年と2018年のAmazonプライムデーのことを覚えているでしょうか?同じようにインスタント・ポット(Instant Pot)が市場を席巻していました。

 それも今となっては遠い過去の話のように思えます。今、私たちはインスタント・ポット(Instant Pot)を追悼するために集まっています。とはいえ、インスタント・ポット(Instant Pot)が死んだわけではありません。というのも、先日、インスタント・ポット(Instant Pot)を手掛けているインスタント・ブランド(Instant Brands)社が連邦破産法第11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したものの、インスタント・ポット(Instant Pot)はまだ販売されているからです。今宵は、インスタント・ポット(Instant Pot)が様々な料理作りで重宝され、夕食の準備を容易にしてくれるように思えた日々を懐かしく偲びたいと思います。純粋に感謝の意を表したいと思います。

 熱狂的なブームを巻き起こしたキッチン用品は様々あるわけですが、やがて全く見向きもされなくなったものは枚挙にいとまがありません。ですので、一瞬だけブームを巻き起こしたキッチン用品の墓場があります。その墓場はとても広く、それこそ墓碑は数え切れないほど無数にあります。まるで白色矮星(white dwarf stars)のようです。そっくりなのは、一瞬だけ驚くべきほど輝いた後に宇宙ゴミ(space junk)となるところ、無数に存在しているところです。キッチン用品分野での新製品は、とても魅力的に見えます。というのも、食事の支度というのは果てしない無駄な作業(Sisyphean task)ですので、それをより早く、より簡単に、より美味しく、より健康的に、より楽しくすることを約束するものには、抗いがたい魅力があるのです。しかし、大抵の場合、その魅力に持続力は無く、しばらくすれば誰からも忘れ去られるわけです。とはいえ、そんな商品を開発したメーカーは、ほんの一瞬だけ大儲けできるわけです。調理用の機器の中には、特定の用途でしか使えない上に持っていなくても特に困らないものが少なくありません。電子レンジ用スモア・メーカー(スモア”s’mores”は、キャンプファイヤーでよく作られる伝統的な人気のデザートで、焼いたマシュマロとチョコレートの層を2枚のグラハムクラッカーで挟んだもの)、パンケーキ用フライパン、ニンジン削り器、ホットドッグ・スライサー(ホットドッグのソーセージに切り込みを入れる)、バターカッターなどです。これらの多くは完全に市場から姿を消したわけではありません。どこでも売られていてどこででも入手できるものでした。少なくともクリスマス・プレゼントの定番であったりしたのですが、今ではかなり珍しいものとなっていて探さないと購入できなくなっています。まあ、ちょっとした変化ですが、以前は必須と思っていて無しでは暮らせないと思っていた品々が、そうではなくなったりします。それが、次のチャリティーバザーに出すものを保管する棚のセンターに鎮座しているなんてことがしばしば起こります。しかし、それは決して珍しいことではないのです。

 キッチン用品の中には、フォンデュ鍋のように、ほんの一時だけ流行し広まったものもあります。一時的に誰もが普通に使うようになった後に、なぜかは判らないのですが、すっかり廃れてしまいました(ヨーロッパでフォンデュ鍋は何世紀も前から使われていたのですが、ここアメリカで大流行したのは1960〜70年代にかけてのことです。その後、徐々に誰も使わなくなってしまい、フォンデュ鍋は蚤の市の定番商品となりました)。キッチン家電製品の中には、気分を良くしてくれるようなものも沢山あります。そうした製品は、簡単なことを非常に難しいことに変えたりしますが、同時により良くすることも約束してくれ、それを使うことで気分が良くなります。ホームベーカリー(Bread machines for home use)は1986年に発売され、1990年代半ばには何百万人ものアメリカ人が所有していました。それを購入したら、死ぬまでずっと焼きたてのパンを毎朝食べられると信じ込んでいました。しかし、残念ながら、毎朝パンを焼き続けている者などどこにもいないのが現実です。悲しいことに、無数の中古のパン焼き機がイー・ベイ(eBay)で売りに出されています。直近でも1万台以上のパン焼き機が売りに出されています。「象印自動パン焼き機 BBCC-V20。2ポンド用。自宅で数回使用したのみの美品!」などの文言が付されています。アイスクリーム・メーカーも同様です。ジョージ・フォアマン・グリル(George Foreman grill :ジョージ・フォアマンの名を冠したバーベキューグリル)が自宅の納屋の奥に放置されている人も決して少なくないでしょう。同様に、パニーニ・メーカー(panini maker)、スロークッカー(Crock-Pot:電熱装置を内蔵した外装と、陶磁器で作られた保温性の高い内釜によって構成される電磁調理器)、低温調理器(sous-vide cooker)を死蔵している人も少なくないでしょう。

 膨大な数のキッチン用品が打ち捨てられている中で、驚くべき機器が1つだけあります。電子レンジ(microwave)です。ひときわ目立つわけですが、その人気は不可解なほど長く続いています。多くの人は、電子レンジはコーヒーの温め直しやアイスクリームを柔らかくするためにしか使わないと言います。そうであるならば、電子レンジは決して必須の製品であるとは言えません。しかし、それでもアメリカでは90%以上の家庭が電子レンジを所持しています。さらに驚くべき事実があります。電子レンジが初めて家庭用に販売された1950年代半ばには、電子レンジは重宝がられるよりも恐れられていたのです。それでポップコーンを作ると無茶苦茶はぜることが知られていて、キッチン据置型原子炉(countertop nuclear reactors)として恐れられていたのです。しばらくして、ベストセラーとなったバーバラ・カフカ(Barbara Kafka)の「電子レンジ・グルメ(Microwave Gourmet)」という料理本が登場し、後に電子レンジ製造のトップメーカーとなるレイセオン(Raytheon)社が精力的な広告キャンペーンを繰り広げたことにより、多くの人が電子レンジに感じる恐怖を拭い去ることができました。そして、この小さな金属製の四角い箱が実際に料理する際に非常に役に立つことを確信するようになりました。そして、電子レンジは予想に反して、コンロ(stoves)や冷蔵庫(refrigerators)と同様にアメリカの家庭のキッチンの必需品となったのです。

 さて、インスタント・ポット(Instant Pot)は、キッチン用品の多様な系譜の中のどこ辺りに位置づけられるものでしょうか?それが発売されたのは2010年のことです。カナダの技術者が開発したものでした。インスタントポット(Instant Pot)は、ベグ・オー・マティック(Veg-O-Matic:アメリカで広く普及した非電動式のフードプロセッサ)と同様に多用途に使えるものでした。圧力鍋として使えるのはもちろん、スロークッカー、炊飯器、蒸し器、保温器、卵焼き器、哺乳瓶消毒器、ヨーグルトメーカーとしても使えました。まさしくマルチタスクをこなす四角い箱でした。その便利さが噂で広がって、広告を一切出さなかったにもかかわらず、この製品のファンは数万人に達しました。CNBC(アメリカのニュース専門放送局)によると、2017年時点でインスタント・ポット(Instant Pot)のFacebookグループには75万人の会員がいました。また、Amazonでこの製品のページを見ると3万9,000件以上のレビューが寄せられていました。この製品が大人気となったのは、当然と言えなくもありません。価格もリーズナブルな上に、手早く調理が可能ですし、様々な用途に使えるわけですから。しかし、同時に、驚くべきこともあります。というのは、この製品の主たる用途は圧力鍋なのですが、そもそもアメリカでは圧力調理がそれほど人気を博したことは無かったからです。圧力調理という技術は古臭いものと考えられていて、なおかつ、爆発する危険性を伴うと見なされているのです(ブランドや商標の専門家に言わせると、”インスタント(instant) “という単語はまさに消費者が欲するものを連想させるのに対し、”圧力 (pressure)”という単語はまさに消費者が望まないものを連想させるそうです)。

 「私はアーリーアダプター(early adopter:製品、技術を早期に導入する初期の顧客)ではありませんでした。」と、メリッサ・クラーク(Melissa Clark)は先日語っていました。彼女は、ニューヨークタイムズ(Times)のコラムニストで、フードライターとして料理本を何冊も出しています。彼女は言いました、「ニューヨークタイムズが私に依頼したのは、インスタント・ポット(Instant Pot)を試しに使ってみて、どうして人気が沸騰しているのかを調べてほしいということでした。」と。彼女は旧式の圧力鍋(私が見たことがないような年代物)を所有していたのですが、インスタント・ポット(Instant Pot)に対してはいくぶん懐疑的でした。しかし、彼女はすぐにそれを気に入ったのです。「このインスタント・ポット(Instant Pot)という製品は、本当によくできているわ。とても便利よ。」と、彼女は言っていました。彼女は非常に深くその製品を愛していて、インスタント・ポット(Instant Pot)の料理本をすぐに書き上げました。タイトルは、「Dinner in an Instant(未邦訳:「たちまちディナー」の意)」です。それは、彼女が書いた40数冊の料理本の中で最も人気があります。

 さて、インスタント・ポット(Instant Pot)に何が起こったのでしょうか?あれほど愛されていたものが、なぜ突然人気を失ってしまったのでしょうか?キッチン用品としては異例の人気を誇っていたのですが、どうして急速に陳腐化してしまったのでしょうか?いずれ、どこかのビジネススクールが、インスタント・ポット(Instant Pot)が急速に廃れたことをケーススタディーとして研究するかもしれません。そして、単に製品が素晴らし過ぎたという結論を導き出すかもしれません。何と言ったって、インスタント・ポット(Instant Pot)社のDuo 7-in-1という製品を90ドルで購入したら、あなたはその後一生困らないわけです。それは全く壊れないし、すり減ることもありません。また、インスタント・ポット(Instant Pot)社は、新たな機能を追加したり、製品のバージョンアップをしませんでしたので、顧客がもう1台買い足したいとか、買い替えたいと思うことはないのです。消費者がインスタント・ポット(Instant Pot)を購入するのは、1度きりなのです。一度買えば十分満足できます。しかし、そのことは、製造メーカーからするとデメリットでしかありません。成長はいずれ止まり、利益も増えなくなるからです。クラークが指摘していたのですが、多くの料理用機器が誰でも簡単に使えるのとは対照的に、インスタント・ポット(Instant Pot)を使うにはそれなりの手間がかかります。クラークは言いました、「インスタント・ポット(Instant Pot)は手間暇を惜しまず料理する人のための道具です。これを使えば、誰でも簡単に料理ができると思っている人がいますが、そんなことはありません。」と。ベストセラーとなったサイモン・ラッシュの料理本「The Ultimate Instant Pot Cookbook(未邦訳:「究極のインスタント・ポット料理本)の意)」には、魅力的な文言が散りばめられていて、インスタント・ポットを使えば何の努力をせずとも料理が格段に上達するというようなことが書かれています。しかし、それは全く事実ではないのです。クラークは、インスタント・ポットはジョージ・フォアマン・グリルよりは長く使われるものの、決して電子レンジのような地位にたどり着くことはないだろうと予想しています。その予想は、あくまでインスタント・ポット(Instant Pot)を手掛けているインスタント・ブランド(Instant Brands)社のリストラが順調に進められて、新たに1億3,200万ドルの資金を調達して会社が無地存続できることが前提です。

 インスタント・ブランド社が悪戦苦闘している最中ですが、インスタント・ポットに代わって消費者の関心を奪うべく様々な製品が市場に投入されるでしょう。ミニワッフルアイロン(mini waffle iron)、AIオーブントースター(A.I. toaster oven)、高解像度スクリーン付スマートまな板(smart cutting board with a high-resolution screen:材料を切っている際にレシピを見るために顔を上げる必要がなくなる)などです。さて、あなたのキッチンのニンジン削り器(carrot sharpener)の横には、どんなアイテムが収納されることになるのでしょうか?クラークは慎重に言いました、「もうそろそろ、エア・フライヤー(Air Fryer:油を使わずに揚げ物ができるフライヤー)の人気が下火になる頃でしょう。」と。 ♦

以上


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