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2023 in Review 2023 年はトランプが大統領選で勝利する確率が高いことが判明した年である!

 本日翻訳して紹介するのは、12 月 28 日に the New YorkerWeb 版に投稿された Susan B. Glasser のコラムでタイトルは"The Year We Stopped Being Able to Pretend About Trump"(トランプを無視することができなくなった年)です。


 Susan B. Glasser はスタッフライターです。毎週のように政治関連のコラムを投稿しています。スタッフライターなので the New Yorker の専属だと思いがちですが、他の媒体でも記事を書いているようです。今回翻訳したコラムは、2023 年を振り返ったものです。彼女は、この 1 年でトランプが 2024 年の大統領選で勝利する確率が高まったと評しています。

 まあ、誰も 2023 年年初の頃のことなど覚えていないと思いますが、その時点ではトランプは共和党の候補者指名争いで勝利する可能性はそれほど高くないと見られていました。フロリダ州知事のデサンティスの人気が上昇中で、選挙資金もかなり獲得できていました。しかし、年末の時点では、状況が大きく変わっています。おそらく、トランプは共和党の候補者指名争いを余裕で勝ち抜くでしょう。そのことを彼自身も十分に認識していて、11 月末に行われた共和党の公開討論会にも参加しませんでした。

 さて、この 1 年でどうしてトランプの優勢が強まってしまったのでしょうか?その理由は 3 つあります。まず、共和党内のライバルたちが不甲斐無かったことです。今やデサンティスは能無しのレッテルを貼られています。次に、バイデンの失策もありました。これは 2023 年に限ったことではないわけですが、彼は後進に道を譲ることを拒みました。本来は、さっさと後継指名して、禅譲すべきなのです。しかし、長年切望していた大統領職に苦労して就いたことで、その座を去るのが惜しくなったのでしょう。いわゆる老害です。まあ、どんな組織でも年寄りが自分が居なければ上手くいかないと思い込んで居座ることがよくあるわけで、案外、その影響は大きかったりします。さて、もう 1 つの理由は、検察がトランプを起訴しまくったことにあります。これが悪手だったのです。これで、トランプ支持者の結束が強まってしまいました。

 2023 年末時点の 2024 年の大統領選の各種予想ではトランプがバイデンよりもやや有利なようです。しかし、これが必ずしも当たるわけではありません。上に記したとおり、2023 年の年初にはトランプ支持がこれほど伸長するとは予測されていませんでした。また、2023 年には景気後退局面入りすると予測されていましたが、有り難いことにその予想は外れました。ガザで紛争が発生するなんて誰も予想していませんでした。そう、現時点で合理的であると思われる予想といえども、それほど当たるわけではないのです。私は、トランプが大統領に再選されないことを祈るのみです。

 では、以下に和訳全文を掲載します。詳細は和訳全文をご覧ください。


2023 in Review

The Year We Stopped Being Able to Pretend About Trump
トランプを無視するふりをすることができなくなった年

The story of 2023 wasn’t the search for another Republican leader—but the Party’s embrace of the one it already has.
共和党は 2023 年にトランプの代わりとなる大統領選候補者を見つけられなかった。しかし、共和党員の大多数が熱狂的に支持している人物が 1 人いることを確認できた。



By Susan B. Glasser December 28, 2023


1.2023年はトランプ再選の可能性が高まった年

 4 年前、ドナルド・トランプが大統領選に勝って大統領職をもう 1 期務めるか否かが注目されている年の年初に、私はドイツ人の友人であるブルッキングス研究所( the Brookings Institution )のコンスタンツェ・シュテルゼンミュラー( Constanze Stelzenmüller )に、トランプ大統領の破壊的な在任期間が引き起こした絶え間ない不安を言い表すドイツ語の言葉を教えてほしいと頼んだ。彼女は、困難な状況を巧みに示す 33 文字からなる、実に口当たりの良い単語を返してきた。それは、" Trumpregierungsschlamasselschmerz (トランプ政権混乱の痛み)"である。親切にも、彼女はこれを" Trumpschmerz (トランプの痛み)"と短縮しても構わないと教えてくれた。これは英語で言うと” Trump-worry ”に近いかもしれない。実に端的に上手く状況を言い表している。私は、” Trumpregierungsschlamasselschmerz ”という語の定義を「トランプ大統領が引き起こす不具合をじっくり見続けることから生じる継続的な魂の痛み」とした。再び我々は、その痛みを感じ始めている。2024 年、アメリカ人は再び" Trumpschmerz  (トランプの痛み)"に苦しめられるかもしれない。

 今年( 2023 年)の年初の時点では、状況は違っていた。" Trumpschmerz  (トランプの痛み)"に再び苦しむ状況を避けることが可能だった。その時点では、2024 年の大統領選はジョー・バイデンとトランプとの再戦にはならないだろうという期待があった。その期待はかなり合理的なものだったし、再戦となる可能性はそれほど高く無いと思われていた。トランプが再出馬することは容易ではないと思われていた。トランプは、2020 年の選挙結果を覆そうとした前代未聞の試みの報いを受けることになると見られていたし、共和党指名争いで強力な対抗馬の後塵を拝する可能性もあった。一方のバイデンは、大統領就任後 1 年間は非常に不人気だった。トランプを除けば、近年では史上最低の人気だった。また、非常に高齢で、アメリカの大統領として既に史上最高齢であったので、2 期目を目指さず、若い民主党リーダーのサポートに回ると見られていた。しかし、そうはならなかった。

 今年( 2023 年)のアメリカ政界で最も異常に思えた出来事は、間違いなく、トランプが 4 つの別々の刑事事件、91 件の重罪容疑で起訴されたことであった。彼は犯罪で起訴された初めての元大統領であるだけでなく、2023 年暮れには連邦政府から彼が先導した議会襲撃はクーデターであったと非難されている。しかし、今から 1 年前の時点ではトランプが告発されるとは誰も予測していなかった。それ故、彼が起訴されたことによって、政治的混迷が収まるどころか、さらに混乱する結果となった。裁判は 2024 年の選挙に影を落とし、結果を左右することになるのか?判決は大統領選前に出るのか?もし有罪判決が下ったとして、彼が大統領選で当選したらどうなるのか?間違いなく言えることは、これまでのところ起訴は彼と共和党にとって政治的にはプラスであったということである。2024 年の予備選挙開始まであと数週間と迫った今、トランプは共和党指名争いで圧倒的なリードを築いているように見える。ファイブサーティエイト( FiveThirtyEight )が実施した世論調査によると、2023 年初め頃には共和党支持者でトランプを指示する者は約 46% だった。それが今では 61% を超えている。

 1 年前、フロリダ州知事ロン・デサンティスは、前回 0.5 ポイント以下の僅差で勝利した州知事選で民主党候補に 19 ポイント差をつけて再当選し、選挙資金を 1 億ドル以上獲得していた。そのため、共和党指名者争いでトランプを打ち負かす可能性が高いと見られていた。しかし、現在、彼が競っている相手は元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュである。つまり、彼の立候補は完全に失敗であったことが判明しつつある。トランプは共和党討論会でライバルたちと壇上に上がる必要さえなかった。討論会でライバルたちは前大統領を追い上げる立場だったが、前大統領の支持層が離反するのを警戒し、批判に及び腰だった。8 月に行われた 1 回目の討論会では、ライバルたちのそうした姿勢が鮮明になった。FOX ニュースの司会者ブレット・バイアー( Bret Baier )が起訴された元大統領を支持する者は挙手をするようを求めたのだが(バイアーはトランプを「部屋にいない象(the elephant not in the room)」と呼んだ)、事実上、全員が挙手した。言うまでもないことであるが、挙手しなかった 2 人、クリス・クリスティ( Chris Christie:前アーカンソー州知事)とエイサ・ハッチンソン( Asa Hutchinson:前ニュージャージー州知事 )には全く勝ち目はない。

 2023 年の末時点でトランプに批判的な立場にありながら共和党指名争いで運気が上昇している候補が 1 人だけいる。前サウスカロライナ州知事のニッキー・ヘイリー( Nikki Haley )である。トランプ政権時に国連大使を務めていたにもかかわらず、彼女はしばしば、トランプ以前の共和党の潮流を体現している人物だと言われている。つまり、文化戦争(伝統主義者・保守主義者と進歩主義者・自由主義者の間における価値観の衝突)を煽らず、MAGA 信奉者でもなく、タカ派であると言われている。しかし、ヘイリーは、必ずしも共和党の良い面を体現しているわけではない。むしろ、彼女は、偉大なエイブラハム・リンカーン( Abraham Lincoln )が発展させた共和党がトランプに与し、いかに堕落しているかを証明する人物でもある。先日( 12 月 27 日)にニューハンプシャー州で開催されたタウンホール形式のイベントでヘイリーは南北戦争の原因は何かと有権者に尋ねられた際に、「政府がどのように運営されるか、人々ができることととできないことの自由に関する問題が原因だった」と答えた。この回答に対して、質問をした有権者は、奴隷制についての言及がないことに驚きを示した。彼女はそれに応じて言った。「奴隷制について私に何を言わせたいのか?」

 もちろん、トランプは、ヘイリーを批判するチャンスを逃さなかった。彼女の南北戦争に関する迷言に反応して、彼は「こんな人物に大統領職を目指す資格は無い。」と批判した。なお、12 月 28 日(木)の朝、ヘイリーは「無論、南北戦争は奴隷制度に関するものだ。」と述べて前日のコメントの撤回に腐心した。一方、トランプはいつものように政治屋らしい発言で 1 年を締めくくった。クリスマス当日に、トゥルース・ソーシャル( Truth Social:トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループによって設立されたソーシャル・メディア・プラットフォーム)に敵対勢力に向けたメッセージを投稿した。それは、「MAY THEY ROT IN HELL"(地獄でくたばりますように)」というものだった。続いて投稿されたメッセージは、「AGAIN, MERRY CHRISTMAS"(もう一度、メリークリスマス)」というものだった。直前の投稿と不釣り合いではあるが、トランプらしく脳天気な投稿で 1 年を締めくくったのである。


2.トランプが優勢になった理由

 驚くべきことにトランプは起訴されても全くダメージを受けていないようである。3 月第 1 週に、司法省のジャック・スミス( Jack Smith )特別検察官に起訴される数カ月前のことだが、トランプは保守主義活動家集会(Conservative Political Action Conference:共和党の主な大統領候補が一同に会する一大イベントで、各種保守主義活動団体も勢揃いする。略号 CPAC )で講演した。彼は、自分とその支持者が抱くあらゆる不満に対する「報復( retribution )」を旗印にして選挙戦を戦うことを約束した。2023 年の春から夏にかけてトランプに対する起訴が相次いだが、そのことがむしろトランプに有利に働いている。これは多くの政治評論家の意見の一致するところである。彼は、自身が迫害されているというナラティブを軸に据えて選挙戦を戦うという戦略に打って出た。彼は元々、つまり次々と起訴される前から、報復することに執念を燃やしていた。2024 年の大統領選で仕返しをすることが彼の悲願なのである。彼はたくさん悪事を働いてきて次々と起訴されているわけだが、それほどダメージは受けていない。彼は、繰り返し”不正選挙( rigged election. )”と主張することで巧みに論点をずらしている。とにかく、彼は訳の分からない主張をして有権者の視点をずらすことが得意である。2021 年 1 月 6 日に国会議事堂を襲撃し、そのために刑務所に送られた支持者たちを殉教者と崇めている。また、"ディープ・ステート( deep state :闇の政府の意。トランプの定義によれば、反トランプの陰謀を企てる裕福な権力者たちの秘密組織)"の陰謀によって自分が虐げられていると主張している。

 CPACで講演した際の彼のメッセージは、2023 年の後半と同様、シンプルなものであった。“This is the final battle.(これは最後の戦いである)” というもので、自分をメシア(救世主)のように見せようとしているところもある。聴衆はそのメッセージを聴いて歓声を上げ、拍手喝采した。彼らは共和党支持者の大半と同様、ネバー・トランパー( Never Trumper:何が何でもトランプを認めない人)ではなく、トランプ信者だった。共和党は 2023 年にトランプの代わりとなる大統領選候補者を見つけられなかった。しかし、共和党員の大多数が熱狂的に支持している人物が 1 人いることを確認できた。
 
 おそらく、2024 年に我々はトランプが引き起こす騒動によって痛みを感じることとなるだろう。2023 年にトランプは、敵失によって恩恵を受けた部分もあった。デサンティスは、2023 年初期にはフォックス・ニュースでの宣伝の効果で共和党献金者層からの期待も高まっていた。それにもかかわらず、カリスマ性の無さと貧弱な政治的判断力が露呈する結果となり、大統領選出馬に相応しい人物でないことが証明されてしまった。彼は、性的少数者について学校で教えることを制限する措置を打ち出してディズニーから批判されて対立していた。それでディズニーワールドに与えていた自治権等の特別対応の制限を検討していた。ミッキーマウスに攻撃を仕掛けたって候補者指名争いでのメリットなんて何も無い。いやはや、そんなことも分からない人物がホワイトハウスを目指していたのである。とても正気の沙汰とは思えない。

 バイデンには誤算があった。それは、バイデン自身についてである。バイデンは、前任者であるトランプと共和党によってもたらされる脅威について常に真剣に考えてきた。だから、そこには誤算は無かったのである。しかし、バイデンは、40 年もの間、大統領職を熱望し続けた。実現可能性が低いと思うこともあったが、3 度目の挑戦でようやく勝利を収めた。だから、その座を若い民主党議員に譲るという発想ができないのである。彼は、大統領選でトランプと争って勝てるのは自分だけであるという信念を持っているようである。しかし、世論調査の度に彼の支持率は悪化しており、その信念は根拠を失いつつある。2023 年の末時点の 2024 年の大統領選を想定した各種世論調査では、おおむねトランプがバイデンを上回っている。リアル・クリア・ポリティクス( Real Clear Politics )の調査では、2.3 ポイント差でトランプが上回っていた。

 とはいえ、トランプの勝利が確実なわけではない。2024 年にトランプが勝利するという予測は、2023 年年初の不況予測と同じように外れるかもしれない。ここ数年間、トランプに振り回される世界で私が学んだのは、最善を望むことが必ずしも勝利につながる戦略ではないということである。今、アメリカの民主主義が危機に瀕している。大統領選の結果を予測するのは不可能である。結果が出るのを恐怖に震えながら待つしかない。長い 12 カ月になりそうである。♦


以上

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