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公募の応募作品

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公募に応募して落選したものを供養しています。
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記事一覧

第32回「小説でもどうぞ」応募作品:nullの臓器

第31回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「選択」です。 個人的にはお気に入りの出来なのですが、安定の落選です。 なかなか難しいですね。 nullの臓器  ドナーカードの項目すべてにチェックを入れる。死んだあと、僕にとっては自分の内蔵など無用のものだからだ。 「ずいぶんとためらいがないんだね」  僕の話を聞いて、妻が少しだけ悲しそうな顔をする。その妻に、僕は当然のように微笑んで返す。 「当然だよ。死んだら無用のものっていうのもあるし、僕は仮にも医者だ。僕の臓器で

第31回「小説でもどうぞ」応募作品:放課後の化学実験

第31回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「ありがとう」です。 だいぶ個人的な恨みの詰まった作品にはなりましたが、書いてだいぶすっきりしました。 よかったらお楽しみください。 放課後の化学実験  僕と仲のいい生徒がいじめられている。  この子の担任に話しても、気のせいだといって取り合ってもらえないらしく、話せる相手が僕だけらしい。だから、僕はこの子の相談に乗っている。  クラス中から無視されたり、嫌がらせをされたり、悪口を言われたり。中学生くらいだとよくあること

第8回W選考委員版「小説でもどうぞ」応募作品:月のウサギに会いに行こう

第8回W選考委員版「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「悩み」です。 テーマ通り非常に悩んで仕上げた作品です。 いつもとちょっとテイストが違う感じに仕上がったかな~?と思っています。 お楽しみください。 月のウサギに会いに行こう  いつも悩んでいることがある。なにかというと、悩みごとが無いのが私の悩みだ。  なんだかパラドックスめいている。悩みがないのが悩みだなんて。悩みがないならそれに越したことはないのだし、ほんとうなら気に病む必要もないのだろう。  けれども、

第30回「小説でもどうぞ」応募作品:誘導尋問フォーチュン

第30回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「トリック」です。 トリックと言われるとどうしてもミステリーとかを連想してしまうのですが、ミステリーを書くのは無理すぎるのでこのように落ち着きました。 ぜひお楽しみください。 誘導尋問フォーチュン 「すごい、当たってる! そうなんですよ、昔こんなことがあって……」  目の前の客が、占いが当たっているとおどろきながらよろこんでいる。どうやら、私が訊ねた過去の出来事に心当たりがあるようだった。  そしてそのまま現在のことも訊

第29回「小説でもどうぞ」応募作品:役所の書類が倒せない

第29回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「癖」です。 癖と言われてもどう解釈するかなかなか難しいところでした。 とりあえずこんな風に解釈しましたよ。 役所の書類が倒せない  悪癖がなおらない。  私はとにかく書類の類いに手を着けるのが苦手で、どうしても溜め込んでしまう。  仕事の書類は同僚や上司がケツを叩いてくれるからなんとかやれるけれども、役所の書類はほんとうにダメだ。  年度末、確定申告の締め切りが近づいているのに全く手を着けていなくて非常にまずい。これは

第28回「小説でもどうぞ」応募作品:完璧じゃない幸福

第28回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「誓い」です。 誓いと言われても、普段なにか誓うようなことはないからなぁ……と、なんとかひねり出した感じです。 がんばった成果を見ていただけたらうれしいです。 完璧じゃない幸福  右目を失明した。  ある夏の暑い日、人混みを歩いていたら目の前にあった日傘にやられたのだ。  私の右目を日傘で刺したやつは、立ち止まった私に目もくれずそのまま逃げ去っていった。  今思うと卑怯なやつだけれども、その時は痛みと欠けた視界に混乱して

第7回W選考委員版「小説でもどうぞ」応募作品:不完全性定理の神さま

第7回W選考委員版「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「神さま」です。 わりとすんなり産めたのですが、残念な結果でした。 個人的には書きたいことを書けた感じです。 不完全性定理の神さま  週明けの月曜日、昨日行った教会で聞いた話を思い出す。かつて、神さまが存在する確率を計算した人がいるのだそうだ。  でも、どのように計算したのだろう。私は数学どころか数字に弱いので、そのあたり全く想像ができない。なので、数学に詳しい友人に訊いてみることにした。 「すいません、神さま

第27回「小説でもどうぞ」応募作品:自殺の理由

第27回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「病」です。 病というか、病気があまりにも身近なもの過ぎて、逆になにをどう書くか悩みましたね。 悩みましたが、書きはじめるとすんなりいきました。やったぜ。 自殺の理由  俺の兄貴は心の病で病院に通っている。なんでも、勤めていた会社でひどいいじめに遭って辞めたのが原因とのことだった。  兄貴をいじめたやつのことは許せないけれど、それはそれとして、病院通いをはじめてから、兄貴は昔のように元気に過ごしている。  だから、もうい

第26回「小説でもどうぞ」応募作品:アポロn号

第26回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「冗談」です。 冗談、私自身冗談というものが得意ではないので悩んだのですが、個人的には妥当な着地点にできたかなと思っています。 なお、実際のアポロ計画は20号で打ち切られているそうです。 アポロn号 「月に行ったアポロ11号の乗組員は、そこで真っ白なウサギを見つけたんだよ」  兄さんのその話に僕がおどろくと、兄さんは冗談だよと言ってくすくすと笑った。  兄さんは、宇宙のことを空想して、些細な冗談を言うのが好きだ。  火星

第25回「小説でもどうぞ」応募作品:胸の痣

第25回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「幽霊」です。 あまり書くテーマではないのでいろいろ悩んだのですが、なんとか産んだ感じですね。 もう少し尺があればもっと描写できたのでしょうが、良くも悪くも実力が出てしまった感じです。 胸の痣  ここは山奥にある貧しい農村。秋の収穫期を迎え家の働き手が収穫作業をする。その中に、やつれた私の弟も含まれていた。  私は本家であるこの家の長男だから、万が一のことがないようにと働きには出されない。ただ、次男である弟、それに分家の

第24回「小説でもどうぞ」応募作品:偶然で織られた必然

第24回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「偶然」です。 選考の方もおっしゃっていましたが、今回は全体的にあまりふるわなかったみたいです。私も例に漏れず。 苦手なテーマでもがんばりたいものです。 偶然で織られた必然  彼女と出会ったのは偶然だった。  趣味の集まりでたくさん人がいる中で、僕と彼女はたまたまお互いに目を留めたのだ。  その偶然をきっかけに、趣味の集まりで何度も会うたびに、僕たちは仲良くなっていった。  あの日も、趣味の集まりで彼女と楽しく過ごした。

第6回W選考委員版「小説でもどうぞ」応募作品:契約家族

第6回W選考委員版「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「家族」です。 相変わらず落選していますが、個人的にお気に入りですので、お楽しみいただけたらと思います。 契約家族  私の家族は契約でできている。  お父さんとお母さんは、国の制度を上手く使うためだけに結婚した。独り身でいるより婚姻関係があった方が便利なことが多いかららしい。夫婦の営みは無いと聞いている。  そして私は、小学生の時に児童保護施設から引き取られてきた。  お父さんとお母さんは、その時に私に契約を持

第23回「小説でもどうぞ」応募作品:ご趣味はなんですか?

第23回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「趣味」だったのでいろいろと悩んだのですが、このようになりました。 落選作品とはいえお気に入りのできですので、ぜひお楽しみください。 ご趣味はなんですか? 「ご趣味はなんですか?」  お見合いの席でそう訊ねられた。  困ったな。お決まりの質問だというのは知っているけれどもどう返したものか。  趣味が無いわけではない。むしろ没頭してしまう趣味があるのだけれども、これを話していいものか。  すこし悩んでから、僕はなるべく柔ら

第一回 あたらよ文学賞応募作品:無慈悲な夜の女王になれたら

第一回 あたらよ文学賞の応募作品です。 残念ながら一次選考通過ならず。 なので、こちらで公開しようと思います。 無慈悲な夜の女王になれたら  新月の日の夜中、煌々と電気を付けた自室でパソコンと向かい合う。公募に応募する小説の執筆をしているのだ。  プロットのノートを目の前に広げているのに、なかなか手が動かない。詰めが甘かったのか、疲れているのか、どちらだろう。どちらにせよ、手が動かないことには変わりが無い。どうしたものかと思いながらもパソコンの画面をじっと見つめる。  す