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「仕立て屋伯爵」第6話
第6話
それから間もなく、母上とメルシエ侯爵は結婚した。
母上は再婚ということで周囲から少々不満の声は出たけれども、母上は父上の死後ずっと慎ましやかにしていたのだから、再婚をしても貞淑でいるだろうと、メルシエ侯爵が言いくるめていたようだ。
そうなると、今度は侯爵家を誰が継ぐのかという話になる。
真っ先に候補に挙がったのは俺だ。今は伯爵だけれども、いずれメルシエ侯爵が退くときは、俺が侯爵位
「仕立て屋伯爵」第5話
第5話
メルシエ侯爵からパーティーの誘いが来て一年。あの時と同じ春の日に、パーティーに出席しないかという手紙が届いた。
手紙は俺宛だったけれども、あいにく俺は屋敷を空けていたので、代わりに母上が受け取ったようだった。
母上はその手紙を机の奥底へとしまい込もうとしたらしいのだけれど、兄さんが珍しくめざとく見つけてこう言ったらしい。
「今ちょうど、ソンメルソがドレスを縫ってくれていますし、ぜひ
「仕立て屋伯爵」第4話
第4話
冷たい風が作業場の窓を叩く。窓辺でドレスを縫うカミーユを陽の光が照らしているけれど、あたたかとは言いがたい色合いだ。
俺がスカートを縫う手を止めて窓の外を見ると、道の上をかさかさと風に吹かれた枯れ葉が転がっていく。俺がこの店に来て、すでに半年が経っていた。
俺が縫製の仕事を手伝えるようになって、やっと四ヶ月といったところだろうか。実は、俺は自分の賃金がどの程度なのか知らない。それで
「仕立て屋伯爵」第3話
第3話
街路樹が青々とし、強い日差しが降り注ぐようになった頃。俺がカミーユの仕立て屋で運針の練習をはじめて二ヶ月ほど経った。
相変わらずカミーユは、運針と型紙、それにトワルを組む練習をする俺を傍目に、作業場の中でもいちばん明るい窓辺で依頼品のドレスを縫っている。
今となっては服を縫うなんて簡単なことだとは口が裂けても言えなくなったけれど、それでも仕事の手伝いをさせてもらえないことの不満は膨
「仕立て屋伯爵」第2話
第2話
目の前に湯気の立っている料理が並ぶ。こんなものははじめて見たと思いながら、昼間のことを思い出す。
それは仕立て屋のカミーユの元で働くことを承諾した翌々日のこと。早速必要そうな荷物をまとめてカミーユの店に行くと、そこにはすでに俺用の部屋が用意されていた。俺用の部屋は、カミーユの自宅兼仕事場である家の二階にある。見た感じ、家族全員分に足りるほど部屋数がないけれど、どうしているのだろう。
「仕立て屋伯爵」第1話
あらすじ
母に思いを寄せる侯爵からパーティーの誘いが着た。きっと未亡人の母にプロポーズするつもりだろう。母も侯爵に思いを寄せているはずなのに、没落貴族になったからかパーティーの誘いを断ろうとする。
ドレスがないとパーティーに行けないと言われた主人公は、ドレスを仕立てて母の逃げ口上を防ごうと仕立て屋に向かう。
けれども没落貴族の主人公には新しいドレスを仕立てるだけのお金がない。どうしたものか
文学オンリーイベント 青空文学市場に参加します
6月1日~2日に開催されるwebイベント「文学オンリーイベント 青空文学市場」に参加します。
イベントが終わったばかりでせわしないですが、文学フリマ東京で買い逃しのあった人はぜひお越しくださいね。
開催情報は以下の通りです。
文学オンリーイベント 青空文学市場
イベント開催日
2024年5月1日20:00~2日23:50
開催場所
pictSQUARE webイベントです。
スペースはえ
あなたのセカイの物語に参加します
5月25日~26日に開催されるwebイベント「あなたのセカイの物語」に参加します。ご自宅から気軽に参加できますので、ぜひのぞきに来てくださいね。
開催情報は以下の通りです。
あなたのセカイの物語
イベント開催日
2024年5月25日20:00~26日19:50
開催場所
pictSQUARE webイベントです。
配置は「え2 インドの仕立て屋さん」
このあたりです。
今回は頒布物以外
赤十字社に送金しました
この企画の件ではお久しぶりです。
能登半島地震の被災地への義援金を、日本赤十字社に送金しました。
今回はそのお知らせです。
とりあえず、振り込み明細ドーン。
この度、3000円を送金しました。
手数料諸々が引かれていないので計算が合わないと思われるかもしれません。
手数料を引いていない理由は、
「イベント販売分は手数料がかからないのでそのまま送れる」
です。
今回の送金分は、リアルイベ
第31回「小説でもどうぞ」応募作品:放課後の化学実験
第31回「小説でもどうぞ」の応募作品です。
テーマは「ありがとう」です。
だいぶ個人的な恨みの詰まった作品にはなりましたが、書いてだいぶすっきりしました。
よかったらお楽しみください。
放課後の化学実験
僕と仲のいい生徒がいじめられている。
この子の担任に話しても、気のせいだといって取り合ってもらえないらしく、話せる相手が僕だけらしい。だから、僕はこの子の相談に乗っている。
クラス中から
文学フリマ東京38に参加します
5月に開催される「文学フリマ東京38」に参加します。
急遽不参加になった亀城祭新刊も持って行きますので、ぜひお越しくださいね!
開催情報は以下の通り。
文学フリマ東京38
第一展示場 G-22「インドの仕立屋さん」
イベント開催日
2024年5月19日 12:00~17:00
開催場所
東京流通センター 第一展示場・第二展示場
最寄り駅
東京モノレール「流通センター」駅
配置図はこん
第8回W選考委員版「小説でもどうぞ」応募作品:月のウサギに会いに行こう
第8回W選考委員版「小説でもどうぞ」の応募作品です。
テーマは「悩み」です。
テーマ通り非常に悩んで仕上げた作品です。
いつもとちょっとテイストが違う感じに仕上がったかな~?と思っています。
お楽しみください。
月のウサギに会いに行こう
いつも悩んでいることがある。なにかというと、悩みごとが無いのが私の悩みだ。
なんだかパラドックスめいている。悩みがないのが悩みだなんて。悩みがないならそれ
第30回「小説でもどうぞ」応募作品:誘導尋問フォーチュン
第30回「小説でもどうぞ」の応募作品です。
テーマは「トリック」です。
トリックと言われるとどうしてもミステリーとかを連想してしまうのですが、ミステリーを書くのは無理すぎるのでこのように落ち着きました。
ぜひお楽しみください。
誘導尋問フォーチュン
「すごい、当たってる! そうなんですよ、昔こんなことがあって……」
目の前の客が、占いが当たっているとおどろきながらよろこんでいる。どうやら、私