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タイの当たり前が、日本の当たり前ではない。そこから起きる小さなトラブル。

「郷に入っては郷に従え」

よその土地へ行ったらならば、その地の風習を尊重し従うのがよい。これはもちろん日本に限った考え方ではなく、英語には ’’When in Rome, do as the Romans do.’’ そしてタイ語にも ’’เข้าเมืองตาหลิ่ว ต้องหลิ่วตาตาม’’(意味: よその国では片目をつぶって見えないふりし、その場所のやり方に従うべきだ) という諺があります。

文化の違いを理解し、その土地のマナーに沿って行動することは、旅をする上で大切な要素。訪日タイ人のお客様について例をあげると「トイレでは用を足した後、紙はゴミ箱に捨てずに水に流す」「電車内での通話はマナー違反」「ゴミは分別して捨てる」ことなど、タイと日本の違いを体感する最も基本的なルールです。

しかし、訪日インバウンドの現場では、そのように一般的に共有されたマナーやルール以外の部分で、タイの当たり前が日本の当たり前ではないことから、小さなトラブルが起きているのも事実です。そこで今回は、訪日タイ人を案内するガイドがよく遭遇する3つの事例とその対処方法について紹介します。

バスは急には止まれない

大型バスでグループのお客様に同行中。遠くにコンビニの看板が見えてきました。するとお客様からこんな声。「ちょっとあそこのコンビニで止まって」もちろん、日本では観光バスが急に路上駐車してお店に立ち寄ることはできません。タイではそのあたりの規制が比較的緩いため、できてしまう。日本では、交通ルール上、止まれないことを説明すれば分かっていただける方がほとんどですが、中には「バス代を払っているのは自分たち。どうしてそんな簡単なこともできないんだ」と怒るお客様もいらっしゃいます。

当然、気まずくなります。でもここは郷に従っていただくしかありません。そして、「ここでは止まれませんが、ホテルから歩いてすぐのコンビニにご案内しますね。」などというように、お客様の要望を別の形で叶えられるようフォローすることを心がけています。

冬に冷房はつけられない。

冬のツアー、無事一日の行程を終えて、ホテルにチェックイン。お客様がそれぞれにお部屋に入られた直後、問い合わせでよくあるのが「冷房を入れてほしい。」という声です。タイはデパートもホテルも1年中冷房が効きっぱなしの国。もちろん日本に来たら気候は違いますし、冬は寒いに決まっています。それでも、いざ日本の暖房に接すると、まとわりつくような暖気に「息苦しい」と訴えられ、冷房を所望するタイ人のお客様が多いのです。

大抵のホテルや旅館では、空調がセントラルコントロールになっていて、個々の部屋で設定が出来ず、冬に冷房をつけることが難しい場合がほとんどです。その場合、窓が開けられるところでは少し開けて風が通るようにしたり、扇風機を借りられるところでは借りて対応しています。こればかりは感覚の違いであって、期待に添えなかったとしても仕方ありません。ただしやはり理由の説明と、何かしら対処しようとする姿勢は大事です。

追加はそんなに簡単ではない。

旅館での食事の時間。数々の品々からなる会席料理に目を輝かせるタイ人のお客様。特に人気なのが焼き物のお肉です。鉄板に火をつけ、ジュージューと焼いていただく地元産の牛肉や豚肉。その美味しさに舌鼓を打ったお客様からよく聞かれるのが「お肉を追加したい」という声です。「追加料金を支払うから」と切望されても、用意してある食材の数の都合や、そもそも追加料金の設定がないことなどから、対応できない場合がほとんどです。

実はこういった例は、旅館に限らず大型レストランの団体食などでもよく起こります。「美味しいからお金を払って追加したい」一見、当たり前に思える欲求も場所によっては叶えられない。理由を説明した上で、そのことを理解していただくしかありません。説明する際に必ず、お店の方からの「期待に添えず申し訳ありません」と「有難うございます」の気持ちをお客様に伝えるようにしています。タイ人に食べ放題の焼肉ビュッフェが人気な理由が、この事例からも分かっていただけるのではないでしょうか。

以上、挙げた3つの事例のように、タイの当たり前と日本の当たり前の違いから生まれる小さなトラブル。今後はコロナ対応などで、新たに起こりうることも想定していく必要があります。そして、これまでもこれからも、トラブル対応に共通するのは、闇雲に「できません」ではなく、これこれこういう理由でできないと説明すること。それからお客様の声に耳を傾け、理解しようとする心構えではないでしょか。日本の当たり前も、必ずしも正しいとは限らないからです。インバウンドのお客様の声は、ときに日本の当たり前を客観的に見直す機会を与えてくれます。

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