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お客様に教えていただいたこと

「赤坂見附にお気に入りのワインショップがある。名前は知らないけれど。」

コロナ前は毎シーズン日本を旅行されていたというタイ人のお客様。久しぶりの日本に到着後、東京都内に向かう車内で、今回の訪日「最大の目的」ショッピングについて、そんな風に切り出された。

お客様の記憶と照らし合わせて判明したのが、日本有数の品揃えを誇る創業1624年の老舗酒店だった。土地柄、専ら飲食関係の方による利用が多く、知る人ぞ知る酒店だという。お客様は、以前、赤坂のホテルに宿泊された際、散策の途中に偶然見つけたそうだ。

赤坂見附の繁華街の一角にあるこの酒店は、一見どこにでもありそうな町のお酒屋さんだ。地下に圧巻のワインセラーが広がっているとは、外観からはとても想像できない。まるで秘密基地に足を踏み入れたような感覚だった。そして、ゆっくりと時間をかけて、フランス産最高級ワインを数本を厳選し購入された。その目利きの高さはお店の方も唸ったほどだ。

円安の影響で「フランスで買うより、タイで買うより、日本で買うのが一番安い」という。そしてさらに、「デパート価格ではないこのお店で買うのがお買い得なんだ」と。日本のことも、ワインのことも、熟知された方の言葉だ。

このワイン好きのお客様、日本でゴルフウェアを購入されることも楽しみにされていた。

「アメリカでゴルフシャツを買うとお尻が隠れてしまう。その点、D社のは着丈がちょうどいい。着心地も最高だ。しかも、有名なブランドと違って、他の誰ともかぶらない。D社は日本の会社だろう?」

新宿のゴルフショップで、大量のゴルフシャツを購入された際に、私にそうたずねたお客様。D社が日本のメーカーだと、恥ずかしながらこの時に初めて知った。

外国人のお客様が知りたい日本の情報を、知りたいと思うタイミングで提供することは、通訳案内士の大切な役割だ。しかし、実際には、こんな風にお客様から教えていただくことも多い。教えていただいたら、きちんと自分の引き出しに蓄えて、次に活かさなくてはいけない。

このお客様より今回の滞在中、日本についてこんなご意見を頂いた。

日本の好きな点は、時間通りに物事が運ぶところ。例えば宅急便。指定した時間にきっかり届く。新幹線は時間通りに発車する。渋滞が多くて、気まぐれなタイでは考えられない。本当にアメージングだ。

逆に、日本の嫌いな点は、サービスに時間がかかり過ぎるところ。レストランで、注文した飲み物が出てくるのに15分もかかったら、さすがに待ち切れない。早くショッピングの続きをしたいからね。日本のサービスは丁寧だけど、スピード感があればもっといい

久しぶりに訪れた日本でも、そんな風に日本を観察されたようだ。日本人の1人として、考えさせられる場面がたくさんある。

帰国日の前日、夕食後に最後のショッピング。新宿にオープンしたばかりのアウトドアショップで、テント内で長時間使用できるライトや、小型の扇風機など、数点のキャンプ用品を購入。コロナ禍でトレッキングやキャンプも始めたとのこと。タイでも富裕層を中心にこうしたアウトドア志向が高まっている。

22時の閉店が近づき、店内に「蛍の光」が流れ始めた。お客様に「そろそろ閉店ですよ。日本ではこの曲が聞こえてきたら、やんわりと早く帰れってことですよ。」と伝えると、「初めて知った!」と驚かれた。今回アテンドさせていただいた1週間で、私がお客様に提供できた一番有益な情報はこれだったかもしれない。


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