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ちょっと面倒な西洋人名の「=(ハイフン)」の話

 先日紹介した書籍ですが、ページをめくっていたところ「誤植」を発見しました。


「グリオン」って誰だ

 初代イスラエル首相「グリオン」。正しくは、ダヴィド・ベン=グリオン(1886~1973)のことです。
 「ベン=グリオン国際空港」などがあるように、「ベン=グリオン」で一つの姓です。「グリオン」で検索しても出てきません。しかし、「=(ダブルハイフン)」があったので「ベン」を名だと勘違いしたのでしょう。

 私の原稿では「ベングリオン」と書いたのですが、「ベン」は編集段階で消されていました。気づかなかった…

 ゲラを送ってもらったのに見落とした私が悪いのであり、ミスをあげつらうつもりはありません。しかし、日本人にとって西洋人の表記ルールが分かりにくいのは確かなので、覚書として書いておきましょう。

西洋人名の構成要素

 西洋文化圏の人名は、日本でいう姓・名字に当たるラストネーム、日本でいう「下の名前」に当たるファーストネーム、その中間につくミドルネームからなります。

 米大統領ジョン・フィッツジェラルド・ケネディの場合、ジョンがファーストネーム、フィッツジェラルドがミドルネーム(母の旧姓をとった)、ケネディがラストネームです。

 詩人エドガー・アラン・ポーの場合、育ての親であるアラン家の姓がミドルネームになっています。

 教科書類などではラストネームのみで表記することが多いので、上記はファーストネーム、ミドルネームを取り去って「ケネディ」「ポー」となります。

ロイド=ジョージは切らない

 しかし、ミドルネームと勘違いしやすい姓もあります。
 英首相デヴィッド・ロイド=ジョージの場合、デヴィッドがファーストネームですが、「ロイド=ジョージ」が一つの姓です。父方と母方の姓を取った複合姓だからです。この人名を「ジョージ」と略すとおかしなことになります。

 作曲家ニコライ・リムスキー=コルサコフ、文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースなども同様です。目安として「姓と名の区切り」は「・」、「複合姓の区切り」は「=」や「-」の記号が使われていることが多いです。

切るべきでないパターンいろいろ

「=」で繋ぐのは、異なる姓が結びついた複合姓だけではありません。オランダ語の前置詞「ファン」がついた「ファン・○○」も一つの姓となります(画家のファン・エイク兄弟、サッカー選手のファン・ペルシなど)。

 作曲家のカミーユ・サン=サーンスや、作家のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの「サン」は聖人を表す「Saint」であり、省略不可です。

 スペイン語圏では、第一の姓を父方から、第二の姓を母方から受け継ぎます。小説家ガブリエル・ガルシア=マルケスの場合、ガルシアが第一姓、マルケスが第二姓です。ガルシアをファーストネームと勘違いして「マルケス」と略記してはいけません。

姓だけではなく名も?

 フランスなどでは、二つ以上の名を組み合わせた「複合名」も見られます。思想家のジャン=ジャック・ルソーの名がそれにあたります。「ジャン=ジャック」がひとまとまりなので、「ジャン・ルソー」「ジャック・ルソー」と書いてはいけません。

 哲学者ジャン=ポール・サルトル、映画監督ジャン=リュック・ゴダールなどの事例があります。 

ルールは厳密ではない

 しかし、複合姓をすべて切ってはいけないとも限りません。英首相ウィンストン・スペンサー=チャーチルは、「スペンサー=チャーチル」が姓ですが、もっぱら「チャーチル」と表記されています。
 画家フィンセント・ファン・ゴッホは、「ファン・ゴッホ」が正式な姓ですが、「ゴッホ」表記が定着しています。

 表記に迷ったら、検索して一般的な表記に合わせるのが無難です。

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