見出し画像

勇者のように思えた彼

自分は高校を卒業して、すぐに就職した。
ただ自分の意思で会社を選んだつもりだったが
やっているうちにあれ?なんか違う…となり
1ヶ月半ですぐに辞めた。

そこからずっと非正規雇用で働いている。
カッチリした言葉を使ってみたかっただけで
所謂フリーターだ。
1年ほどニートを経験した事もある。

バイトも工場、派遣、清掃、スーパー、飲食と様々な職種をやってきた。
そのバイトで何人もの人と出会ってきたが、
一番印象的だったのは
スーパーの時に出会ったの大学生だった。

自分は昼~夕方の時間帯の勤務で
その大学生は朝~昼の時間帯の勤務希望だったが
研修で初めの1、2日は昼~夕方に入る事になり
自分がレジ、品出しについて教える事になった。
いかんせん説明ベタが故に上手い事教えられていたかは分からないが、とても真摯に話を聞いてくれて飲み込みも凄く良かった事を覚えている。

教えている中で少し雑談をした時に
彼は「大学2年生なんです」と言っていた。
彼と軽く雑談した時に
とても物静かで賢そうな印象を受けた。

それから数日、レジと品出しの一連の流れを
教えたのち彼は午前の時間帯で働き始めた。
月1で自分は早出する事があったのでその時には
一緒の時間帯に働く事はあったが、それ以外は
基本午前、午後の入れ替わりの挨拶程度だった。

そんなある日、普通に出勤すると
職場で事件が起こっていた。
あの物静かそうな彼がお客さんへの
接客態度があまりよくなかったらしく
お客さんがそれを咎めたところ
「うるせぇ!」と言い放ったらしい。

正直信じられなかった。
別に彼の事を深く知っていた訳ではなかったが
なんとなくそんな事は言わないと思っていた。

その事実を耳には入れたが、
自分に実害はないと思っていたら思わぬ飛び火を
食らう事になる。
午前にその一件が起きた後、そのお客さんが
午後に店舗に電話を掛けてきたのだ。
何故、店長が居ない日に限って…と思ったが
お客さんはカンカンに怒っていた。
「本部にこの事を報告するから
電話番号を教えろ!」との事だった。
「自分で調べて、電話しろや」とは言えないので
電話番号を教え、電話越しに低頭平身で
応対していたため
30分ほどで怒りを収めていただけた。
いや、30分も電話してたってやっぱ長ぇな(笑)

しかし、その事件を起こした大学生は
店長に一件の流れを聞かれたのちに
数週間後に辞める事になった。

その大学生は2ヶ月程度しかそのスーパーには
居なかったのだが、痛烈な印象を残した。

やっている事は全く容認出来るものではないが
相手がどんな態度を取ろうとグッと堪える事が
当然であると考えていた自分には彼の行動が
あまりに衝撃だった。
見た目と行動が相反していたのもあると思うが
この場を丸く収めようとするのではなく
思った感情のままに行ってしまおうという判断。
なんだか自分がちっぽけに思えた。

現在進行形で接客のバイトをしているが、
カチンと来る事なんて山のように日々訪れる。
その都度「うるせぇ」と言ってやろうかと
喉元まで出そうになるが、グッと堪えている。
そりゃ、当たり前だ。
ただでさえめんどくさい相手にめんどくさい一件を追加する事になるのはごめんだ。
きっと自分にはそんな事は一生出来ない。

めんどくさい事になったとしても
「うるせぇ」と言い放てた大学生の彼の心は
自分にとって"勇者"なのかもしれない










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?