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映画『BLUE GIANT』 | 人生を賭けられる何かに出会うということ

圧倒的に眩しく、羨ましく、純粋に尊敬する気持ちと、何もない自分に少しがっかりする気持ちと、真っ直ぐに進むパワーと明るさ、そしてどうにもならない残酷さが1つになったような映画でした。


2013年に石塚真一が「ビッグコミック」で連載を開始、第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 大賞、第62回小学館漫画賞など多数受賞した『BLUE GIANT』。
昨年映画化された『BLUE GIANT』も公開から2ヶ月ほどで興行収入10億円を突破。日本アカデミー賞でも「最優秀賞音楽賞」と「優秀アニメーション作品賞」を受賞しました。


原作の漫画を読んでおらず、日本アカデミー賞受賞してたなということだけで見てみたのですが、本当に面白かったです!!!

……「本当に面白かった」って、なんかあんまり面白そうに聞こえないですね。うーん、どうしたらいいんでしょう。自分でも引くどほどありふれた表現ですけど、本当に面白かったんで許してください。何度でも言っちゃいます。



本当に面白かったです!!!!!



最近一緒に映画を見ても絶対途中で寝てしまっていた夫が超久しぶりにラストまでちゃんと見て、「これは面白かった!全然眠くならなかった!」と言っておりました。

あらすじはこちら。

ジャズに魅了され、テナーサックスを始めた仙台の高校生・宮本大。雨の日も風の日も、毎日たったひとりで何年も、河原でテナーサックスを吹き続けてきた。卒業を機にジャズのため、上京。高校の同級生・玉田俊二のアパートに転がり込んだ大は、ある日訪れたライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈と出会う。「組もう。」大は雪祈をバンドに誘う。はじめは本気で取り合わない雪祈だったが、聴く者を圧倒する大のサックスに胸を打たれ、二人はバンドを組むことに。そこへ大の熱さに感化されドラムを始めた玉田が加わり、三人は“JASS”を結成する。

※以下、できるだけネタバレしないように書いたつもりですが、どうしたってネタバレしちゃってます。まだご覧になってない方はご覧になってからまた来てください!

劇中、何度も3人の奏でる音楽が鳴り響き、その音楽がどういうものかありとあらゆる表現で描かれます。
実写では到底表すことのできない、そのアニメーションならではの表現力に脱帽。彼らが奏でる音楽がいかに素晴らしいか、それを演奏している本人がどんな感情なのか、どうしてその音を出せるのか、その音楽がそこにいる人たちにどう届いているのか、あらゆる表現で伝えてくれます。


例えばこれが実写だったら、音楽のシーンはもっと短くなっていたんじゃないかと思います。
音楽の素晴らしさを伝える方法は限られますし、こちらに伝わるものももっと少なくなってしまったかもしれません。
アニメだからできること、アニメでやる意義がある映画でした。


あらすじにもありますが、これは2人の天才(長年努力してきた末にたどり着いた天才と、情熱と才能でたった3年でたどり着いた天才)と、普通の1人の大学生が一緒にジャズをやる話です。

多くの人は情熱と才能がある主人公•宮本大よりも、大の友達である玉田に感情移入したんじゃないかと思います。

2人の天才に混ざった1人の凡人。
大に影響を受け、まさに今ドラムを始めた素人。
才能がない人間が始めるにしては遅いし、このタイミングで始めるにしては才能が足りない。
天才2人と組むには絶望的な状況。

初めてのライブで自分の力のなさを痛感した玉田は、もはや『あしたのジョー』の燃え尽きた矢吹丈でした。
そりゃあ天才とやったらそうなりますよ。2人は天才で、自分は凡人。いくらやったって追いつける気がしません。

そんな玉田を見て、ピアニストの雪祈は玉田を辞めさせた方がいいと大に言います。

雪祈 「(玉田のミスは)3曲目までで135回、それ以上は数えてなかった。俺たちのためにあんな思いさせていいわけ?」

……心折れます!私だったら折れます!
自分はやりたかった、でも2人には迷惑かけられないとかなんとか言い訳して、私なら辞めていると思います。
それでも玉田は諦めませんでした。

玉田「やらされてんじゃねぇ、俺がやるんだよ。宮本大と最高の演奏をしたんだ」

玉田ぁーーーー!!!!!!
おい、もうこれお前が主人公だよ!!!
と思えた瞬間。

諦めずに努力を続ける玉田、そして自分にはこれしかないとジャズを極める大と雪祈の姿は、私を含めて「何か」に人生を賭けたことがない人にとってはとんでもなく眩しくて、同時に羨ましいものだと思います。



人生を変えるほどの「何か」に出会う人はどれくらいいるんでしょうか。
仮にその「何か」に出会ったとして、そこに人生を賭けられる人は、どれくらいいるんでしょうか。



突然ですけど、私、学生の頃、脚本家になりたかったんですよ。
高校生の頃、模試で一度だけ、有名な脚本家を輩出してる大学の芸術学部を志望校に書いたことがあります。親に見つかって「何考えとんじゃ!」と言われ(そうは言われてないですけど)、正直私自身もそこに行っても成功できるとは限らないなと普通の大学の文学部に行きました。
大学生の頃、テレビ局主催のシナリオコンクールの最終選考まで残った時、自分にも可能性があるかもしれないとバイト代で貯めた貯金でシナリオスクールに通おうとしました。で、「お金もったいないんじゃない?」「独学で最終選考までいったんだから独学でいいんじゃない?」と周囲から言われ、確かにそこに行ったからどうにかなるわけじゃないとか、お金はもったいないかもとか、それに通ったらサークルに行けなくなるとか、様々な言い訳を並べて私はまたやめました。
そして普通の企業に就職。車を使う仕事だったので昼間睡魔に襲われては大変だと思い、夜にシナリオを書くを辞め、休日は友人と遊びまくり、気がつけば全く脚本を書かなくなっていました。

私は、賭けるのが怖かったんです。
賭けて、それが万一ダメだった時のことを考えると怖かった。頑張って頑張って、全てをそれだけに賭けてしまったら、それがなくなった時に、何もなくなってしまうと思っていました。


そして、この映画でも、それは訪れます。


才能がある人が必ず成功するとは限らないし、努力は必ず実るとも限らない。
夢のような時間もずっとは続かない。
それまでの時間が明るければ明るいほど、その残酷な現実の暗闇は深い。


それでも、何かに賭けた人生は絶対無駄にはならないんだと彼を見て知りました。

あの音は、それまで彼が努力してきたからこそ出せた音だし、彼の音だからみんなを感動させることができた。音楽を奏でている時の高揚感と自信は彼の中でこの先も消えることはないし、努力を続けてきた時間が、この先の彼のことも励まし、救ってくれる。そうだと信じたい。


どんなに濃い時間を過ごしたとしても、成長を妨げるなら一緒にはいられない。
最初に会った時に「踏み台にする」と言った彼が、踏み台になった。相手のために穏やかに、きっぱりと別れを告げ、自ら最高の踏み台になった彼を見て、彼の過去と今が繋がりました。
彼の行動と考え方は、音楽に賭けてきた時間が作り上げた「彼」だし、この先もし音楽をやめるような未来があるとしても、彼がこれまで音楽に費やしてきた時間は彼の人生で無駄なことではなかった。

映画では今後の彼について明確にはなっていなかったですけど、どんな道を選ぶにしろ、ジャズという音楽を彼がずっと好きでいてくれたらいいなと思います。


圧倒的な音楽と、情熱の限りを音楽に注いだ青春のきらめきと力強さを感じることができる『BLUE GIANT』。
ジャズという音楽に出会い、ジャズに全てを賭けた3人の濃密な1年半の物語が、これからも沢山の人に届きますように!


おしまい。

前情報なしで見たので、見終わってから声優が山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音がやっていたことを知りました。全然、顔チラつかなかった!
そして間宮がいい映画に出てて嬉しかったです。
まみやーーーー!!!!


『真夏のシンデレラ』(2023)7話より


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