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#84 本研究で作成する産業連関表の特徴に合致した産業連関表を作成している先行研究

産業連関表の作成にあたっては、投入と産出が整合するように調整され、いわば「制御値」として極めて重要な位置付けにある「生産額」の推計が極めて重要な位置を占めます。

#79から、三好(2020)を紐解きながら、ノン・サーベイ法による生産額の推計の下準備を行ってきました。

三好ゆう(2020)『ノン・サーベイ法による市町村産業連関表の作成と課題―京都府内全26市町村の「市内生産額」の推計から―』福知山公立大学研究紀要2020,4巻 1号 ,pp.185 - 208

本研究で作成する産業連関表の特徴との比較

三好(2020)で作成する産業連関表の特徴

三好(2020)で作成方法が述べられている産業連関表には、次のような特徴が挙げられます。

  • 作成対象年が、作成基準年である。

  • 作成対象圏域が、市町村レベル

  • 部門分類が、結合中分類

本研究で作成する産業連関表の特徴

それに対して、本研究で作成しようとしている産業連関表には、以下に挙げるような相違点があります。

  • 作成対象年は、作成基準年(原則として西暦末尾が「0」及び「5」の年)ではない

  • 作成対象圏域は、市町村レベルではなく、都道府県レベル

  • 部門分類は、結合中分類ではなく、結合小分類

なので、三好(2020)の方法では、目的とする産業連関表を作成するのは難しいのではないかという疑問が湧いてきました。

田畑氏の研究論文を読み返す

そこで、修士課程時代に読んだ以下の学位論文で、上述の相違点を考慮に入れた産業連関表を作成していたのではないかと思い、該当部分を読み返すことにしました。

田畑智博(2005)『循環型地域社会形成支援のためのマテリアルバランス表の開発 及びその適用に関する研究』

上記の学位論文は、修士課程時代に田畑氏から私信で送ってくださったものです。

また、上記の学位論文と同様のタイトルの学術論文もあり、こちらはインターネットで公開されています。

田畑智博、井村秀文(2006)『循環型地域社会形成支援のためのマテリアルバランス表の開発とその適用に関する研究』環境科学会誌19巻4号,pp.329-343

田畑氏が作成した産業連関表と本研究で作成する産業連関表との比較

1990年の愛知県産業連関表を、1994年に延長推計するとともに、1995年の愛知県産業連関表を、1999年に延長推 計した。延長推計の方法として,ここでは,大阪府が延長産業連関表を作成した際の方法を用いた。

田畑智博、井村秀文(2006)『循環型地域社会形成支援のための
マテリアルバランス表の開発とその適用に関する研究』

推計(作成)した愛知県産業連関表の年は、作成基準年ではありません。また、作成対象圏域が都道府県となっています。本研究で作成しようとしている産業連関表の3つの特徴のうち、2つが合致しています。

産業35部門について県内生産額の推計を実施した。

田畑智博(2005)『循環型地域社会形成支援のための
マテリアルバランス表の開発 及びその適用に関する研究』

しかし、田畑氏の研究では、延長推計した愛知県の産業連関表の部門数は35で、結合小分類どころか、結合中分類よりも少ないです。

大阪府の延長産業連関表と本研究で作成する産業連関表との比較

そこで、田畑氏が延長推計の方法として採用した、大阪府の延長産業連関表を見てみることにします。

平成25年(2013年)大阪府産業連関表(延長表)報告書

すると、大阪府の延長産業連関表の部門数は、最大で190部門(結合小分類)となっています。また、作成対象年が作成基準年ではありませんし、作成対象県域が都道府県となっています。

先行研究における県内生産額の推計方法

次に、産業連関表の作成において極めて重要な位置を占める、県内生産額の推計方法について見てみることにします。

田畑氏の研究における県内生産額の推計方法

まずは、田畑氏の研究の方から。

但し、資料の制約から愛知県の県内生産額を求めることが困難な部門については、全国値より推計する方法を採用した。各産業について、県内生産額の推計方法を表5-2-5に示す。

田畑智博(2005)『循環型地域社会形成支援のための
マテリアルバランス表の開発 及びその適用に関する研究』
表84−1 各産業についての県内生産額の推計方法(田畑(2005)を一部改変)

田畑氏の場合、統計資料に1999年(作成対象年)の県内生産額の記載があるものについては、それらの値を利用することにしています。

また、資料の制約がありそれらの値が得られない場合は、指標(県民経済計算や全国延長産業連関表)の伸び率を、1995年の愛知県産業連関表の県内生産額に掛けることで推計しています。

大阪府延長産業連関表における生産額の推計方法

次に、大阪府延長産業連関表における県内生産額の推計方法です。

推計にあたっては基本分類で行い、極力平成 23 年大阪府産業連関表(基本表)の推計方法に準じた。推計方法は、生産数量×単価、資料の売上金額等を直接使用、指標(従業者数等)の対全国比×平成 25 年延長産業連関表(経済産業省)生産額などによった。また、必要に応じて指標(従業者数等)の伸び率で平成 23 年大阪府産業連関表(基本表)生産額を延長した。

平成25年(2013年)大阪府産業連関表(延長表)報告書

推計方法として、以下の4つを挙げています。

  1. 生産数量×単価

  2. 資料の売上金額等を直接使用

  3. 指標(従業者数等)の対全国比×平成25年(作成対象年)延長産業連関表(経済産業省)生産額

  4. 指標(従業者数等)の伸び率で平成23年大阪府産業連関表(基本表)生産額を延長

また、府内生産額の推計に利用した主な統計調査、資料も記載されているのがありがたいですね。

図84−1 大阪府延長産業連関表の生産額の推計に利用した主な統計調査、資料
(平成25年(2013年)大阪府産業連関表(延長表)報告書より)

今一度、2011(平成23)年の岩手県県内生産額を推計する

#72〜#78において、0110(米)に始まり、1711(家具・装備品)まで、2011(平成23)年における岩手県の産業別の県内生産額を推計しています。

次回から、田畑氏および大阪府の推計方法に基づき、今一度、0110(米)から、県内生産額の推計をしてみることにします。

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