見出し画像

カメラと共に未知の銀世界へ

最近何かを目の前にしてドキドキしたりワクワクしたりする事はあっただろうか。
大人になり生活が固まってきてしまうと、そういった事が少なくなってしまう気がする。新しいことも減ってしまうし、そうして生活しているとどんどん心の反応が鈍くなって感動しにくくなってしまうという悪循環。
良くないなぁと思いながらも、とりあえず生きる為に生活をする日々。

しかしそんな日々でも時として目の前に心を突き動かす何かが現れてくれる。


広島の私の住む地域はあまり雪が降らない。毎年降っても積もる程にはほとんどならないので、雪が降るとどうこうというのは経験がなかった。だが、今年はクリスマス前ぐらいに寒波が襲った影響で大雪になった。滅多に見ないぐらいの。広島としても珍しいし、僕の人生の中でも住んでいる場所がこんなに雪で埋まるのは初めての経験だった。

朝起きて、いつもより薄暗いなと思いながらカーテンを開ける。すると外は屋根も道路も真っ白。それだけでなく、現在進行形で大粒の雪が降っている。カーテンの向こうは今まで見たことがない世界になっていた。

これには驚いた。と、同時に心が突き動かされるのを感じる。
「外に出て写真に撮らないと!」
雪国に住んでいる人にとっては普通の景色になるのだろうが、雪国に遊びに行った事すらない私にとっては全く未知の世界。カメラを持ってこの未知の世界を歩きたいという気持ちがどんどんと湧き上がる。
ではどこを撮ろうかと考える。街中に出て足跡やタイヤの跡が残る白い景色を撮ろうか、海沿いに出て寒さを強調した写真を撮ろうか。などと考えていると頭にパッと、尊敬する写真家である土門拳の「雪の室生寺」の写真が頭に浮かぶ。

そうだ、寺を撮ろう。三滝寺に行かなくては。

あまり深い意味はないがこういった時はインスピレーションが大事だ。三滝寺は1シーズン毎ぐらいのペースで訪れているお寺で、歩いて40分ぐらい。敷地も広く山の中にあるので自然豊かで全体が美しいお寺だ。危ないかもしれないが、今回も歩いて向かう事にする。雪の道中も楽しみたい。

準備が整い玄関を出て、見慣れたいつもの街が見慣れない姿になっている事を改めて確認し、胸が高鳴る。視界の中の白の面積がはるかに多い。雪と頭に被ったフードの所為で視界が悪い。足元は凍って滑りやすくなっている。歩くだけで普段使わない筋肉を使っている気がする。だが、そんな状況を楽しんでいる自分もいる。

カメラはX-Pro3にSIGMA 30mm F1.4を付け、カバンの中にはXF14mm F2.8, XF23mm F1.4, SIGMA 56mm F1.4も入っている。どんな写真が撮りたくなってもいいようにレンズは一通り持ってきた。X-Pro3は防塵防滴-10°までの耐低温機構が備わっているので、こんな環境でも安心して持ち出せる。レンズに関しては防塵防滴に関して若干心許ないが、経験上そこまで簡単には壊れないと思っているのと、それを気にするよりも写真を撮ることが一番重要だと思うので(勿論、常時雪晒しにならないように気にはするが)持ち出す事にする。

歩いていると身体とカメラに雪が積もっていくので、カメラを腕で隠すようにしながら歩みを進める。しかしいい光景が沢山あるので、その度に止まって写真を撮る。


SIGMA 30mm F1.4 DC DN | Contemporary
SIGMA 30mm F1.4 DC DN | Contemporary
SIGMA 30mm F1.4 DC DN | Contemporary


この土手に登れば大きな河川敷が待っている。
いつも歩いている川沿いの道がどうなっているのか。
この場所に立ってみてこの先がどうなっているか想像するとワクワクする。


SIGMA 30mm F1.4 DC DN | Contemporary


こうして写真を撮っていると、何に対してもいまいちリアクションが出ない時の心が嘘のように思えてくる。日々の疲れも憂鬱な気分も消え、目の前の未知の世界に心が動いているのを感じる。
人によっては安定した日々を過ごし、刺激なんてほとんど必要ないという考えもあるだろう。だが私にとっては安定した日々よりも未知の世界に飛び込んで行く方がよっぽど心が正しい状態にあると感じられた。
そして「安定していて、たまに刺激があるぐらいが丁度良い」という考えもまたあるとは思うが、常に未知の中に身を置く事の方がよっぽど楽しいのではないか、と思える。たとえそれで肉体的に疲れたり怪我をしたり、死ぬような思いをしたとしても、きっとそうだろう。

実際、大雪の中で一人河川敷で立っていると、いつもよりも死や孤独を近くに感じた。冷たい手足、悪い視界、音もほとんど聞こえない。滑ったら頭を打って死ぬかもしれないし、動けなくなったりしてもすぐは見つけてもらえないだろう。
だがそれによって逆に自分は生きている事を感じられた。


SIGMA 30mm F1.4 DC DN | Contemporary
XF14mm F2.8 R
SIGMA 56mm F1.4 DC DN | Contemporary


雪の中写真を撮っていると五感をフルで使いたい衝動に駆られ、頭に被っていたフードをパッと取ってしまう。すると視界が広がり寒さを頬で感じ、音がない事も先程までより強調される。

世界が広がった感覚にハッとする。
自分は生きている事を感じられる。

目的地である三滝寺まではまだ歩かないといけない。
だがいつもよりも強く生きた感覚を持って歩みを進める事が出来た。


SIGMA 56mm F1.4 DC DN | Contemporary


この記事が参加している募集

カメラのたのしみ方

フィルム写真の文化の一助になるよう活動を続けたいと思います。フィルムや印画紙、薬品の購入などに使わせて頂きたいと思うので、応援の程よろしくお願い致します!