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一枚に掛ける手間 モノクロ手焼きプリント#4

フィルムをカメラに詰める。
ファインダーを覗き、シャッターを切る。
タンクにフィルムと液を満たし現像をする。
引き伸ばし機にネガと印画紙をセットし露光する。

アナログ写真をしているとこれらのプロセスを経て写真が出来上がる。デジタルとは比べ物にならないぐらいの手間が掛かる。
勿論ネガをスキャンすればそれでもう写真データとして使えるようにはなるのだが、折角モノクロフィルムを使っているというのもあってプリントしたものを完成形にしたいと思い夜な夜なプリントをしている。

トータルで言えば80枚ぐらいプリントしたのもありだいぶ感覚も掴め、そして初めてプリントをした時の感動とはまた別の楽しさも最近は感じるようになってきた。

プリントではカメラで撮影する時と同じようにどれぐらい光を当てるかがまた重要になってくる。露光時間が長いと全体的に濃く暗い写真となり、短いと薄く締まりの無い写真になる。そして露光時間と同時にコントラストも大事になる。コントラストはフィルターで調整するのだが、これも単純に濃くしたいから高いコントラストのフィルターにすればいいという訳でもなく、ネガの濃度によって何を選択するのがベストかが変わってくる。
とにかく一枚を仕上げるのにテストを必ず行ってからプリントする必要があるのだ。

これまでプリントした際のデータを残しているので、ある程度はどのぐらいの露光時間やコントラストで焼けるかの予想は付くのだが、ネガによっては「全体の仕上がりはこれぐらいでいいけど、ここはもっとこうしたい」というような細かい調整が必要になってくる。デジタルならトーンカーブをいじったりスライダーをいじるだけで終わるのだが、手焼きとなるとそうはいかずプリントの時に多少手を加える必要がある。
理想としては露出決定と現像によって完璧なネガを作る事だが、そうはまだまだいかないので覆い焼きなどをして調整をする。

この写真は看板の辺りのシャドウ、中央のハイライト、奥の人物のコントラストをポイントにしてプリントを行った。
まず印画紙の切れ端で段階露光を行ってテストを行う。
全体の濃度の中間ぐらいのグレーの露光時間が決まり、次に看板の辺りに切れ端をセットしてシャドウ部分の露光時間とコントラストをテストする。
これで全体の露光時間は当てはついたので印画紙をセットして露光してみる。
現像液に浸して像が浮かび上がるのを楽しみに待つ。
停止、定着と行い水洗。
セーフライトの下で見る感じだと、ハイライトの辺りが薄い気がするが…
電気を付けて灯りの下で仕上がりを確認してみると、やはり中央のハイライトが薄い。
ネガフィルムはハイライトの情報量が多いはず、だからもっと焼けば像が出るだろうと思って今度は全体露光をした後に中央部分だけ追加で露光。
現像液に浸して像が浮かび上がるのをまた楽しみに待つ。
今度はいい感じ!
停止、定着を行い水洗、明かりを点けて確認するとハイライト部分にさっきよりもしっかり蔦が確認出来る。

今現在プリントしている写真達はこうしてSNSで公開する為だったり、作品として今後作成する時の為のデータ取りという意味合いが強かったりするが、それでもお気に入りのネガは納得のいく仕上がりにしたいと思う。
デジタルならすぐに終わってしまう作業もアナログな手焼きは時間を掛けて仕上げることになり、それがどちらが良いという訳ではないのだが、それでも手間を掛けて焼き込んだ印画紙が写真として「手に取る事が出来る」というのはとても素晴らしい事だと思う。

手間を掛けない方法があるのに敢えて手間を掛けるという一見無駄に見える行為は、実はとても重要なのではないかと思う。人間が生み出してきたあらゆる文化自体、生物として生きる上では本来不要なものだ。だがそれこそが人間を人間たらしめるもので、無駄なことをするのは至って人間的なのだ。

だから最近よく言われるコスパ・タイパも結構だが、生活の中のどこかに手間があった方が豊かになれると思う。コーヒー一杯に手間を掛けるだけでもいい。そういう行いは何より楽しい。
私にとってはそれがアナログ写真であり、一枚一枚を手間を掛けて仕上げる事が写真と向き合い、人間らしい生き方をするということに繋がっていると感じる。


camera : LEICA M2
lens : Voigtlander NOKTON vintage line 50mm F1.5
film : Kentmere pan400
developer : ADOX D-76
paper : ILFORD MGRC

フィルム写真の文化の一助になるよう活動を続けたいと思います。フィルムや印画紙、薬品の購入などに使わせて頂きたいと思うので、応援の程よろしくお願い致します!