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天橋上的魔術師

 先日読んだ本が素晴らしかった。久しぶりに時間を忘れて本の世界に入り込み、黙々と考えを巡らせながらページをめくることができたように思う。せっかくだから感想等々シェアしたいと思う。

  舞台は1979年の台北で、当時存在した中華商場という雑居施設?のような場所を舞台とした短編小説集である。イメージとしては綺麗で規模の小さな香港の九龍城砦の様な感じだろうか。当時の台湾は国共内戦によって大陸から数多くの中国人が台湾に流れ着いてきたころの空気がまだ色濃く残っており、ここ中華商場にも大陸各地から来た中国人が生活を営んでいたらしい。

 そこは台北という都市に忽然と出現したカオスであり、台湾という日常と非日常の境目であり、それ自体が一つの日常であったのだとも思う。人々の日常の中で、何かが起こる土壌がそこにはあった。それをより日常的かつ非日常的に、最も具現的に魅せるために魔術師という存在が物語の中に産み落とされたのだと思う。

 ちなみに、中華商場は台北駅と西門のちょうど中間位にあったと思っていただければよい。台北駅から西門に至る大通りはかなり道幅があり、今では多くの車が行き交う台北の大動脈といえよう。かつてはその大通り上に中華商場が存在していたのである。

 閑話休題、中華商場というカオス的日常のシーンに、魔術師という更に非日常的な存在が挿入されることで、物語には一種の陶酔的な雰囲気が漂うようになったと感じた。それはある種の現実とのズレであり、それでいて非日常的すぎないズレであり、そのズレの大きさ、タイミングがちょうどよい塩梅で、文字を目で追いながら酒に酔っているかのような、心地の良い陶酔感を味わうことができた。まさに、文学のなせる業である。

 こういった、超現実を現実の一環として表現する小説における手法をマジックリアリズムと呼ぶらしい。私はそんなジャンル一度も聞いたことがなかったが、これからぼちぼち読んでみたいと思う。

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