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茶道の初釜 - 新春を祝うしつらえ -

新年明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いいたします。

去年はコロナや戦争に続き、円安による物価の高騰など、世界的にも日本的にも大変な一年でしたが、今年は良い方向に巡ることを期待しております。
さて、そんなことを願いながら、先日7日に初釜式が行われました。

初釜とは茶道の正月行事で、新年に初めて釜に火をかけることから「初釜」と呼んでいます。と同時に、皆さんが年末年始に行っている正月行事と同じくして、今年を無病息災で過ごせることも祈るわけです。

そして、正月行事となるため茶室のしつらえも、普段とは異なるものが登場します。いわゆる、おせち料理の黒豆を「まめに生きる」的な意味を味わいながら楽しむ感覚です。

さらに、初釜も年に一度しかないため、
その年ならなではの様々な一期一会が味わえるのです。

本日はそのことについて触れてみたいと思います。

茶席の楽しみ - 
一座建立(いちざこんりゅう)を実践する

亭主(茶を点てる人)と客(茶を喫する人)の心が通い合うように、お互いに協力によって茶席を良いものにしよう、ということを「一座建立いちざこんりゅう」といいます。

つまり、亭主は、客に礼を尽くすため、自分の心を歴史や季節などを取り入れた思想をもって掛軸や花、香合、茶碗、茶杓の銘、菓子などの茶道具に反映させる必要があります。

そして、客側は亭主が誂えた茶室の全体の空気感をはじめ、亭主が茶席に込めた意味を先ほどのそれらから探ります。この感じ取る力が客に必要とされ、言うまでもなく、相当な知識が要求されるわけです。

これらを正客と呼ばれるその茶会で茶を一番最初にいただく人が、他の客を代表して亭主と会話するのです。

茶席の楽しみ - 
茶道が歴史や知識の総合芸術

ここで亭主に一例を分かりやすく挙げてみたいと思います。
あなたのために点てられたお茶の茶碗がオレンジ色だったとします。
そして、その後の亭主との会話でそのお茶碗の銘が「法隆寺」であると分かったとします。

わかりやすい例なので、ピンと来た方も多いと思いますが、
これらは、正岡子規の「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」の俳句で結びついています。この俳句を理解してこそ、「このお茶碗でお茶を飲むことで、法隆寺の鐘のような無常観を味わえる」的な解釈ができるわけです。

前置きが長くなりましたが、このような背景に潜んだ意味を、今回の初釜になぞらえてご紹介します。

初釜 - 床(掛軸)

茶室で最も大切にされているのは掛軸です。
茶道では床の間に飾ることから掛軸を「床(とこ)」と呼びます。
そして、その掛軸は水墨画などではなく、禅僧が書いた「墨跡」とよばれる禅語が掛けられるのが一般的です。
茶道ではにじり口から茶席に入ると、まず最初にこの掛軸を拝見します。

今回の床は「蓬莱山」でした。蓬莱山とは、いわゆる富士山のことです。
中国の伝説に、東にあって、仙人が住む不老不死の霊山であると呼ばれてきました。日本でも「不死の山」だから富士山とつけられたなどの逸話や、「一富士二鷹三茄子」と初夢の縁起物で担がれているため正月に相応しい床だと新たな気持で拝見しました。

初釜 - 花入と花

茶道では「わび」や「さび」を重視することから、昔のものを使うことが多いのですが、正月は少し異なります。
特に、花入れと蓋置は青竹と呼ばれる新しい青々した竹を用います。

そして、この青竹には「結び柳」と呼ばれる柳の枝を垂らして生けるのが一般的です。柳は二、三本束ね、輪をつくり一陽来復を祝う心を表現しています。

一陽来復
冬が終わり春が来ること。新年が来ること。
悪いことが続いた後で幸運に向かうこと。

三省堂 新明解四字熟語辞典

そして、青竹の花入には、茶席でよく用いられる白い椿が華やぎ、花が一層引き立って見えます。

初釜 - 香合

香合は、茶室で香を焚くための、お香を入れる器です。
夏(風炉の時期)と冬(炉の時期)で扱う種類が異なり、冬の時期は主に粉末にした香料に蜜や梅肉を加えて練り上げた練香(ねりこう)を使用します。

今年の干支にちなんで卯の香合が置かれていました。この香合は先生の自作の楽焼で、十二年に一度しか出番がないことを考えると非常に感銘深い趣きです。

初釜 - 香合

表千家の家元ではきまって常磐(ときわ)饅頭を初釜にいただきます。
「松樹千年の翠(みどり)」という禅語が指すとおり、中の若草色の餡はいつまでも色褪せることない松の色を想像します。

お茶の緑を邪魔しないかのように白く包まれたその姿は、
まさに雪の中からの草萌えを彷彿させる、正月にふさわしいお菓子です。

また干菓子は卯のモチーフにした和三盆とせんべいで、これも今年ならではの趣きでした。

初釜 - 茶碗

茶碗は、主茶碗、替茶碗ともに初釜式に相応しい、千家十職の楽茶碗が出てきました。千家十職とは、茶道を確立させた千利休の家系を茶道具により支えている(職家)十の職人を指します。
なので、楽茶碗の「楽」は萩茶碗や瀬戸茶碗と異なり、地名を指すのではなく人の名字を指します。

そして、「一楽、二萩、三唐津」と呼ばれるように、茶人が用いる茶碗の格付けとして楽茶碗が正式な場に重宝されてきました。
さらに、黒茶碗が赤茶碗よりも格式が高く扱われ、主茶碗には黒を使うことが推奨されています。

初釜では、黒は七代長入の「岩波」と銘された茶碗、赤は十一代慶入の銘のない茶碗が出されました。どちらも風情がある景色をもった茶碗で、年始めに身の引き締まる思いで茶をいただきました。

おわりに

いかがでしたでしょうか。
今回初釜の一部をご紹介させていただきましたが、このように、茶道には催事や季節を大切にし、亭主と客がともに心を通わせる伝統が残っています。茶道もそうですが美術や芸術などは、単に作品を観賞するだけでなくその背景にある文化や伝統、作者の作意などを感じ取ることで、より一層その作品が味わい深くなります。

しかしながら、茶道は茶禅一味と呼ばれる「茶と禅は同じである」という思想に基づいています。悟りに知識が必要ないだけでなく邪魔するのと同様、茶にも純粋に茶を楽しむ心が求められるわけです。
言い換えると、単純に茶を楽しいと思えればそれで良し、という考えです。

このように茶道はその人の志向の通りに楽しめる要素がありそうです。
単に抹茶好きの人、単に歴史好きの人、単に骨董品が好きな人など幅広い方が楽しめるものだと思っています。

最後に、今年一年の皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

喫茶去

Instagramの開設について

最後に、少し紹介させてください。
色々な背景から茶道をはじめとする日本の伝統・文化について発信ができればと考え、Instagramも開設しました。

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茶道をはじめ、禅や日本の文化、衣食住にまつわる情報を発信していければと思います。ぜひ、ご興味があれば、フォローいただけると幸いです。

宜しくお願い致します。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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