見出し画像

「金欠ボーイズ 笑いごとじゃない」9話

8話へ


【9話 渡る世間は金次第】


   宇田川、警戒心むき出しのナナを伴って下手から退場。
   入れ替わりに、下手から林田が軽い足取りで登場。

林田 おつかれーッス。

我孫子 お前か。

林田 林田っす。部屋にいなかったんでこっち来てみました。

我孫子 あ、そう。

林田 あれ、お呼びじゃないみたいな。

我孫子 ちょっとごたごたしてるもんで。

林田 ちょっとちょっと、新コンビ結成の祝賀会じゃないすか。アゲていきましょうよ。

我孫子 祝賀会じゃないから。ネタ合わせして相性とか見るんだよ。

林田 どっちでもいいけど。

我孫子 どっちでもいいけどって、それが先輩に対する……。

林田 大丈夫大丈夫大丈夫。そういうの気にしない方なんで。

我孫子 ……そういや、お前って親が歯医者って言ってたっけ。

林田 なんすか、いきなり。

我孫子 だよな?

林田 まぁ。両親ともみたいな。あと二人いる兄貴も。死んだじいちゃんも歯医者っていうね。

我孫子 一族で。

林田 おれも一応歯科大行ったんすけど、お笑いの方が面白そうで。モテそうだし、手っ取り早く有名になれるかなって。だいたい、毎日毎日人の口の中見るなんて頭おかしいでしょ?

我孫子 歯科医の一族だったりすると、金に困ったこととかないだろ。

林田 ま、ぶっちゃけ?

我孫子 お前の財布は金でパンパンに膨れてる。

林田 カードっす。現金もあるけど。

我孫子 いきなりだが、金貸してくれ。

林田 金? 金の話?

我孫子 少し融通してくれ。頼む。

林田 (警戒するような目つきで)親の金? おれの金?

我孫子 どっちの金でも。すぐ返すから。……まぁコンビ組むんだから、いつとかはっきり決めなくてもいいだろうけど。

林田 どれくらい?

我孫子 とりあえず十万。いや、二十。

林田 二十。え? それけっこう言っちゃってない?

我孫子 林田、お前を見込んでのことだ。

林田 それ、ちょっとマジ光栄。……ま、いいすよ。

我孫子 マジか! よし。よしよし。

林田 手持ちあったかな(とポケットを探ると札束が出てくる)。

我孫子 出たな出たな出たな!

林田 はい、手出して。(羽振りよさげに渡して)これでどうだっ!

我孫子 うおーっ(と歓喜するが、まもなく何か変だと気がつく)……なんだこれ?

林田 何って?

我孫子 (一枚透かして)金じゃない。

林田 金、金。モノポリーの金。

我孫子 は?

林田 二千ドル。一ドル110円計算で22万円。ちょっとあげすぎかな。

我孫子 ふざけろよ、この野郎!(とお札を床に叩きつける)

林田 ちょっと何?

我孫子 こんなもんいるか!

林田 いや、ギャグだし。ギャグ。

我孫子 全然面白くねぇよ!

林田 あれ? 本物のお金が欲しいわけ?

我孫子 当たり前だろうが!

林田 そういうこと?

我孫子 そうだよ。

林田 ただで?

我孫子 (言葉に詰まって)……そりゃまぁ、はっきり言っちゃうと。

林田 それはちょっとあげられないなぁ。え? ただで? 無理無理。ちょっと無理。だって、お金はトラブルのもとだから。

我孫子 そのトラブルを解決するために必要なんだ。

林田 めっちゃ分かる。でも、そのやり方だとまた新しいトラブルが生まれて、いつまで経っても解決しないから。トラブルがあっちからこっちに移るだけ。

我孫子 そんなまともな回答、期待してないから。

林田 それなら消費者金融で借りても同じでしょ。

我孫子 そしたら返さなきゃいけないだろうが。

林田 確かに。それデカいよねー。

我孫子 だろ? だからお前に頼んでるわけよ。

林田 ……あれ? なんかおれ、カモられそうになってる?

我孫子 そんなわけないだろ。頼む、一生のお願い!

林田 それじゃあちょっと無理だなー。

我孫子 ……土下座?

林田 やってくれてもいいけど、やっぱ貸せないな。

我孫子 お前、そういう奴か。

林田 それおかしくない? ただで二十万よこせって脅されて、言うこと聞かないと「そういう奴」呼ばわり? 業界の不条理出たー。先輩後輩あるある。

我孫子 (打ち切って)分かった分かった分かった。脅したりとかしてないから。この話は終わり。終わり、もうしない。お前はおれに金を貸したくない。

林田 そう。

我孫子 二十万が手に入らなくておれがどうなろうと、どうでもいい。

林田 その通り。おれもそれが言いたかった。

我孫子 ……あっそ。

林田 この話は終わり。

我孫子 おしまい。完全に終わり。

林田 ザ・エンド。

我孫子 ジな。ジ・エンド。

林田 (自分でウケて)それそれ。やばい。めちゃウケ。

我孫子 ……で、何の話だっけ?

林田 おれたち二人で新しいコンビを組む。

我孫子 そうだ。すっかり忘れてた。すっかり忘れてた。すっかり忘れた(わざと何度も繰り返す)。

林田 我孫子さんが誘ったんすよ。

我孫子 よく覚えてない。

林田 「誰にしようかな天の神様の言う通り」って楽屋でやったじゃないすか。相方見つかってないヤツ集めて。

我孫子 それでお前に当たったわけか。おれもツキに見離されたな。

林田 (聞いてない)コンビの最初の仕事っていったら、やっぱりあれでしょ。

我孫子 あれ?

林田 (宣言)はい、コンビ名決めます!



*10話へ


いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。