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ハイスペ飲み会の視点②

前回の続きである。

「いつもここで飲んでるの?」

ハイスぺイケメンがレモンサワーを飲みながら聞いた。
ハイスペ、同僚、俺の男3人で飲んでいた俺らは、二次会(それとも女子とはここで初めて合流するから一次会と呼ぶべきか?)のために俺が抑えた店で1杯目のドリンク飲んでいた。

店内は未だ客も少なく、カラオケをしている客もいないのでシックな雰囲気だった。店内は間接照明がメインで程よく薄暗いが、暗いと感じるほどではないレベルに照らされている。
俺らが座っているコの字型のボックス席は、高級家具ブランドのカッシーナ製のソファーとテーブルからなっていて、ひじ掛けとテーブル角に鋭角な金属を使ったデザインが特徴的だった。酔っぱらって頭をぶつけたら流血しそうだ。
ただ、座り心地は高級ブランドの名に恥じずすこぶる良く、赤い座面は黒と少し緑がかったガラスを基調としたバーの内装とシックに共鳴していた。

おさまりの良いこのボックス席は、この店の形に合う特注品だとオーナーが自慢していた。ソファーの壁側には扇情的な女性の裸体のフォルムを模した平面的なアートがいくつかけられており、ほの暗い店内でどこからか来ている明かりがそれを照らしていた。

ここは六本木の会員制のカラオケバーである。

この店に入るのには、先ずウェブで公開されていない電話番号かラインで店に連絡して予約を取り、その後に入り口でインターフォンを鳴らして顔を見せないといけない。明確に会員権等があるわけではないが、常連だけしか入れないバーなのだ。もっとも、そういう「会員制」の店は六本木にごまんとあるので、そのうちの一つである。

但し、常連が呼ぶキャスト、ゲストと言ってもいいが、は勿論入店できる。それがこのカラオケバーの暗黙のルールだ。

この店に来る常連は、所謂名の知れた大企業勤めか青年実業家のような類の人、偶に政治家や芸能人だ。常連のほとんどが男。

勿論男だけで来ないので、毎回女性は一緒に連れてくる人が多いが、この女性たちはほぼ常連としての扱いを受けることはない。
常連が連れてきたゲストを常連候補として店に紹介するときは、店長や店員に声をかけて紹介する。そうすると店長か店員が名刺を出す。それが合図で、きちんとした紹介をした人は以降常連の扱いになり自分だけで店に入ることが可能だ。

そして、こうした常連の男性が”よくわからない女性”をとりあえず呼ぶような会の時は、そうした女性を絶対に店員に紹介しない。誰に教わったわけでもないが、不思議だが、誰も紹介しない。そして店員もその空気を感じ取って名刺を出さない。

勿論、こんな店は六本木や港区には腐るほどある。さっき言ったように、こういう半会員制みたいなシステムもざらにある。


前置きが長くなったが、ハイスペが俺に「ここ良く来るの?」と聞いたのには理由がある。この店はちょっと他の店と違うのだ。

一つは、女店長の美貌。
さっきハイスペにレモンサワーを、俺の同僚にハイボールを、俺に薄めのハイボールを渡してくれた女店長は、30代後半にもかかわらず、大きな目と笑ったときのえくぼが特徴的な、ヒマワリのような美人だ。何も知らずに来たらどんな店なのかびっくりする。普通にキャバクラでランキングを張れそうな感じなのだ。

そしてもう一つは、店の高級さと絶妙なカジュアルさのバランス。
先ほどのソファーのしつらえに加えて、音が出ればオッケーなレベルが多いカラオケ設備・音響がここでは結構こだわられている(港区のカラオケバーではたまに店のはじっこだとマイクが音を拾わないところもあるくらいだ)。
かなり設備はしっかりしているが、接客は堅苦しくなく、少々騒いでも問題ない空気が漂っている。

俺は、さっきの「いつもここで飲んでるのか」というハイスペの質問に簡単に答えた。
「オーナーと知り合いで、この店には結構来るかな」
だが、これだけだと嫌味になる。俺はすぐに続けた。
「オーナーは今日来ないかもしれないけど、さっきの店長を後で紹介するよ。是非君にも使ってほしい」

ハイスペはにっこりと笑った。
ハイスペは「是非」とも「ありがとう」とも言わなかった。そうだ。まだ返事はしない。このバーがどういうところなのか、わかってないから。俺は、こいつ良い感覚をしているな、と一人思った。変に紹介されて使う使うって約束したのに、めんどくさい客の多いバーだったら困るしね。


その時、インターフォンが鳴った。

俺たちの今いるカラオケバーの平場の席は、8-10人くらい詰めれば座れるボックス席が3つ並んでいる。裏に個室もあって、そこも10人くらいは入れる。そしてその時、俺たちのいる席以外は空いていた。
つまり、来るのは他の客か、ハイスペの呼んだ女性だ。

俺は、少し身を乗り出してハイスペに聞いた。
「ところで、今日は何時まで飲める?」


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