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渋谷系の身体表現

9/25土曜日

久しぶりに友人と渋谷でスタジオに入った。意外と調子がよかった。俺のスラップが炸裂した。人差し指にマメができた。楽しいスタジオでみんなのテンションが上がったのと、コロナ禍以降一般的となった「みんな週末そこそこ暇」であること、9個下のドラマーがバイトの開始時間22時だったこと、結婚してるやつらが「今日ぐらいは遊んできなよ」と奥さんに言われて家を出たことなどなど全てがうまいこと重なり、久々の会話が弾んだこともあいまって、スタジオ→昼ごはん→喫茶店と通し7時間ずーっと話していた。

口から生まれたと叔父さんによく言われていたお喋りな俺はまだまだ話したかったがさすがに、という雰囲気だったので渋谷駅でいったん解散したものの、物足りなかった俺と渋谷君はバーへ行くことにした。

こちらのバー、渋谷の飲み屋街の地下1階にあり、カウンター6席ぐらいと広めのテーブル2つ、規模感や雰囲気は普通に良いバーって感じなのだが、何よりいいのが大量のレコードをマスターがかけてくれること。こちらのリクエストにも応えてくれるので一度「What's going on」をお願いしてかけてもらったこともある。その時はブラックなベースラインが聴きたい気分だった。

しかしこのバー、看板として60~80s ROCKを掲げており、店内でディスプレイされているのはビートルズのA HARD DAY'S NIGHTの各国盤。そもそもビートルズどころかUKに興味がない俺は門外漢の場違い感と思いながらかけられたレコードを聴いており、「What's going on」はええいままよと思ってリクエストしたもの。今日は一緒にいる渋谷君がリクエストしてくれるだろうから身を任せようと思い、注文したナポリタンをずるずる食べていた。

そしたら突然店内に「東京は夜の7時~♪」とギラギラした音が流れた。ピチカートファイブ!しかもこの渋谷で!邦楽いいの!?と驚きのリアクションをマスターに送ると、マスターは

「いいTシャツを着てるから」

と俺の胸を軽くあごで示した。その日俺はピチカートファイブのTシャツを着ていた。まさかのアパレルリクエスト。こんなやり方もあるんだとめっちゃテンションがあがり、ぶどうのジントニックを頼んだ。

マスターは酔ったらしく、マスターを酔わせた嬉しさもあったのだが、それ以上に嬉しくなるようないろんな話をしてくれた。渋谷のセンター街は90年代の初めまではおっさんの飲み屋街だったこと、原宿や六本木の80年代の若者が色んなあおりを受けて渋谷に集まってセンター街ができたこと、まさに渋谷系が流行った頃は本当に街中のいたるところ、たとえば美容室やカフェなど、様々な場所で"こういう音楽"がかかっていたこと、「あの時代が一番よかったよね」ということ、とにかく街や音楽に関するいろんなことを聞かせてくれた。俺はベースを担いで店に入ってきたので「音楽やってんなら街を選んでやった方がいいよ」とアドバイスを受けた。「どこがいいっすかね」と聞くと、「俺はね、

谷根千

がいいと思うんだよ」と言ってきた。意外過ぎた。それまで渋谷とか下北とか三茶とか三宿の話をしていたから。一気に東に飛んで笑った。同じ話を帰って妻にしたら同じように笑った。きくと、谷根千はほどよく若者が入れるスキがあり、まだ大手の不動産に浸食されていないとのこと。確かに渋谷なんかはもう駄目だろうし、最近では下北も駅前が大手の古着屋に占められていて最悪である。「自分たちで街を作るつもりで音楽をして」とエールをもらった。原田知世をかけながら「渋谷系の究極系はこれだよね」と言っていた。

渋谷君の残金の限界が来たので退店。マスターはカウンターを出て、店の先まで見送ってくれた。相当酔ってるね、なんて話をしながら二人で、懐かしい気分で渋谷駅まで歩いた。街にはナンパ師が増えていて、日常に戻ってきていると実感した。

こうやって街で音楽をやって、語って、聴いてっていう総合体験、どんどんしていきたい。この週はやけに音楽にまみれていた。

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