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「リコリス・ピザ」を観た感想

月曜日、渋谷君に誘われて映画「リコリス・ピザ」を観ました。その後行く予定にしていた新宿ゴールデン街のある店に、渋谷君にその映画を観るよう勧めた人が立っているらしく、行く前に観ておこうということになりました。飲むつもりで集まり、そのあとのお酒をより楽しむためとはいえ行動をすぐ映画に切り替えられたのは自分の成長。映画へのハードルはいまだに高いままだが、友達の関わりによって簡単に下がる。

そのお店に立っている人はtwitterのフォロワーが5万人ほどおり、映画関連の仕事もしていることからキネマに相当明るいというわけで、「これは感想を用意しておかないと」と思って力んで新宿TOHOへ向かう。ここに来るのは「ボヘミアン・ラプソディ」ぶり。行く前に神座でラーメンを食べました。この日新宿の空は、集まり始める醜悪な人間の猥雑さと対比になるような非常にきれいな夕焼けでした。

お互いのケツを触り合いながら長年のカップルの心象風景のようにつかず離れずを繰り返していたワンナイト感ある新宿の男女

映画、終わった後にエスカレーターを降りるまで渋谷君に何も言えず、意を決して「いやこれ童貞だとしたら全く理解できない内容じゃない?」と堰を切ることでなんとか感想を言語化できた。端的に言うと全然面白さがわからなかった~~~。コメディータッチの恋愛映画で、わかりやすいストーリーはなく、10歳離れた男女がタイミングや環境によって近づいたり離れたり、2人の想いが通じる瞬間はもどかしくなるほど少なく、最後の最後で結ばれるという内容。確かに恋愛とはお互いの出す波形が噛み合う位相があるかどうか、というもので、映画内のつかず離れずの雰囲気はまさに恋愛を体現していてそれもよかった。ただ、それにしても折り重なるそれぞれがつまらなかった。時折息をのむシーンがくるものの、何もなく過ぎていく。

本当にリアルな世の中ってこんなもんなんだろう。すべてに意味があるわけではなく、またはすべては意味のないことの積み重ねでもある。そういう風にとらえれば納得のできる内容だった。ここ数年は張り巡らされすぎてる伏線ブーム(オッドタクシーとか)に辟易してたけど、それでも映画館でお金を払って観る映画にはある程度のストーリー性を求めてしまうのだとわかった。前の週の土曜にテレビでやってたバックトゥザフューチャー観た影響も大いにあると思います。

意味のないことの積み重ねだけど、それを最後まで観ないと感動もできない仕様になっていて(「やっと結ばれた~~~~」という気持ちになった)、これは近年のファスト映画などへのアンチテーゼとみる向きもあるらしいです。

そんな感じで、「やべえこの映画つまんねえって思ったまま映画を語る場に言ったら何を言えばいいんだ」という気持ちでいざゴールデン街に行き、バーで着席早々「面白かったよね~」と話を振られた時は肝を冷やしましたね。結局渋谷君がうまいこと「よかった/わるかった」ではない映画感想に舵を切ってくれたおかげでなんとかなった。横にいた別のお客さんもつまらないと思ってたみたい。よかった。

ただこの映画、映画好きは本当に好きなんだろうと思います。この映画の監督が好きとか、出ている俳優とか、小ネタも多いみたいで、映画をしっかり観ている人には相当刺さるようです。多分それで評価されてる側面もあります。

あと映画レビューサイトだと70年代アメリカが好きな人におすすめ!ってあったけど、70年代のアメリカのイメージって全員共有されてる???50年代とか80年代ならわかるけど。ベトナム戦争からの虚無感に、中東戦争やらが重なってる暗い社会だったらしい。確かに映画の中ではユダヤやらイスラエルやら、そこと絡んで石油製品などの話も出てきて、ニュースや世の中の物事に詳しくない主人公にヒロインが辟易するシーンがある。子どもっぽさを理由に心が離れていくターン。そういう理解は必要かもしれない。

映像の質感や音楽が最高でした。特に音楽、ゴムマリみたいなボヨンボヨンのベース音が作品全体にいなたさをプラスしていて、それで映像も乾いて見える。カリフォルニアの南部の雰囲気や色彩感が映像で表現されていて、鼻の中まで砂埃が入ってきそう。脚本よりもそういうところは好きでした。

こういう感想を言いあいながら、ゴールデン街のカルチャー具合にやられて全然酔えませんでした。カルチャー過ぎる。東京って難しい街だなと思った。終電逃し確定で挑んだ2軒目ではわかりやすくハードロックの好きなおっさん3人と若いお姉さんのマスターがおり、「これこれ!!!!」となりました。おっさんの1人がめちゃくちゃ賢くてなんでも知ってたし東京のリアルな体験の話とかしてくれて、最高でした。こういう文化資本の高い人間がたくさんいる街、東京。朝帰りはしんどかったけど、まだまだ楽しめるうちは遊んでいこう。夏だから。

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