芸人、バイト頑張りすぎちゃう問題

芸人。自分たちのオモシロだけを追求し、毎日ギラギラ楽しげな世界のようだが、それだけではない。
見えている表舞台が花だとすると、その生活を支えるための根っこはアルバイトである。
売れていない芸人は芸事でお金を稼ぐどころか、むしろライブエントリー費や会場の箱代、衣装や小道具で持ち出しのマイナス計上、常に財布はスカスカである。

アルバイト、どこかで聞いたがドイツ語で「重労働」という意味らしい。
そもそも芸人を目指すような人間は重労働などしたくはないから1発当ててやるという不誠実なマインドを持つものが少なくない。それでも生活がある以上、この重労働の日々に身を投じることになる。
この上ないジレンマである。

芸人を続けるため。生きていくため。
全てはこれに尽きるが、皮肉にもそこらの学生バイトやフリーターよりも働く動機がはっきりとしている分、まれにとんでもない化学反応が起きる。

頼りになるバイトリーダーが爆誕するのである。

ある芸人は、不器用なぶん他人より頑張る泥臭さ、時給をあげて少しでも効率よく稼ぎたいというストイックさがあった。欠員が出れば代打でシフトインするし、その日に予定がなければ社員より長い時間入ってくれる。
また、なにか大事なライブがある時に少しでも集客に繋がればと、人間関係も大事にする。芸人の世界で得た礼儀で、先輩を尊重し後輩も大事にする。
真面目でひたむきなその姿に、店舗責任者は心を打たれる。夢があるって素晴らしい!と。

一方で当の本人は苦悶の日々だ。芸人として開花するのはなかなか難しい。ネタを書いてもなかなかウケない。舞台で誰にも認められない日々が続くと、どんなに好きで始めたことであっても徐々に嫌になってくるのである。
自分は誰よりも面白いと思っていた。なのになんだこのザマは。全然うまくいかないじゃないか。ファンだってつかないし。
ちくしょうクソだなお笑いなんて。でもやめたくない……
簡単に投げ出せるもんか。何年費やしたと思ってる。自分にできることはお笑いしかない。だいいち、相方にだって迷惑がかかるし。養成所だってわざわざ高い金出して卒業したんだ。せめて元をとるまで、やめらんねぇよ……

そんなある日、いつものように早朝からシフトインし、ほかのアルバイトの3倍手を動かしていると、夕方に店長から声がかかる。
「最近なんか元気ないね。なにか悩み事でもあるの?」

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