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ピーターを悼む

世界主要国では薬物関連の政策が大きく舵を切る中、日本では大麻使用罪創設に動き出している。

世界主要国では処罰は最も効果的な方法ではなく公衆衛生や健康問題、社会保障を駆使し解決を目指している。

The Global Commission on Drug Policyを参照ください。

そんな中、ひとりの芸術家が大麻取締法で逮捕された。この経過は長吉さんのnoteをご覧頂きたい。
大麻取締法については、昭和50年代以降、裁判で争われることがあったが厳罰が緩む事はなかった。

遡る事35年ほど前に約1kgの大麻密輸容疑で逮捕された。ピーターさんは昭和59年に大麻の密輸で逮捕され一年近い勾留ののち上告棄却の知らせを聞き拘置所で自死された。
当時の記事を転記させていただきます。
大麻取締法裁判に関心を持って頂き、人権や健康から薬物を考えていただけるように願うばかりです。

「いかなる行為を刑罰の対象とするかは、各国=国民によって決せられるべきであるが、同じ行為をおこなった者に対する取り扱いが、国際的にみてあまりにもかけ離れているとすれば、その刑罰制度の正義が試されている。」(海渡俊ー弁護士,ドラッグレビューNo.1,4p)

ピーターを悼む

西独人 (フリーライター・旅行家) ピーターさん(35) は、 旅行来日中の昭和59年 9 月7 日、 香港カイダック空港からの郵便小包を東京中央郵便局に受け取りに行こうとしたところ、内偵中の警察官に職務質問を受けた。 郵便小包の内容は大麻樹脂926.516g、すでに税関職員によってチェックされていた。郵便小包がピーター本人の物かどうか確認されないまま、 任意同行という建前で強制的に警察署に連行され、 大麻取締法違反の容疑で逮捕された。 この強制連行は明らかに違法行為であり、もしこの時に同行を拒否できていたら、自殺という結果は避けられたのではないだろうか。

その後の取調べで郵便小包はピーターの物と確認され、 9月28日に起訴された。 一審では、ピーター本人の使用の目的で持ち込んだもので偶発的事件であること、 また大麻による実質的な被害はなく可罰的違法性がないこと、そして母国西独に収入源があり日本での再犯の可能性はないこと等訴えた。 しかし12月20日東京地裁は、日本の保健衛生が冒されようとした劣悪な犯罪であり本人に反省もないとして、懲役3年の実刑判決を下した。 大麻の所持で刑務所に行く事になるとは思ってもいなかったピーターは、量刑不当大麻取締法は憲法違反と東京高裁へ控訴した。 控訴審は3回法廷を開いただけで弁護人の提出した新しい証拠は一切採 用せず、昭和60年5月23日控訴を棄却した。
大麻がどういうものか審議もしない日本の裁判所に不満を持ち、 大麻が正しく認識されればその所持で3年も懲役に服すほどの事ではないという気持を強めたピーターは、大麻の所持を厳しく罰する大麻取締法は自由を唱う日本国憲法に違反するとして最高裁へ上告し、
大麻の無害性・有益性を論述した論文を裁判所に提出した。 しかし、最高裁の決定は9月 27日原判決を支持し、上告は棄却された。 この時すでに、ピーターの拘置生活は一年を越えていた。牢獄から日本の友人の元へ届いたピーターの手紙を見ると、最初の頃は 「これも試練だ」と余裕のある受けとめ方をしていたのに、月日がたつごとに絶望に陥っていく様子が手にとるようにわかる。
週末をはさんでピーターの元に上告棄却の連絡が届いたのが9月30日。 翌10月 1日早朝、ピーターは拘置所内で自らの命を絶った。
尚、ピーターの遺骨は遺言どおり、友 人の手によってガンジス河に流される事になった。 (F)

ドラッグ・レビュー No.1, 1986.5

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