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とんがり研の「自律分散チーム」原論

こんにちは。とんがりチーム®︎研究所(略称:とんがり研)のAKIです。

僕が対話型組織開発のコンサルタントになってから18年になりますが、その間、一貫してクライアントと追究してきたのが「自律分散チーム」づくりのテーマでした。

自律分散チームとは、メンバーが自ら考え、周囲と協働して、新しい価値を創るチームと定義しておきます。

最近は、世の中でかなり市民権を得てきており、優れた方法論も、洗練された形でたくさん出てきています。

今回は、このような考え方がなかなか受け入れられなかった時代からトライしてきた者としての矜持(きょうじ)を持って、方法論の手前にある「考え方」(原論)を語らせていただこうと思います。

ちょっと世間の目が具体的な方法論に寄りすぎているようにも感じているので、そこに一石を投じる意味合いもあります。


一般論を超えて・・・


まずは、おなじみChatGPTに、自律分散チームづくりのポイントについて聞いたところ、3つあげてくれました。共通の軸を持つ→多様性を尊重する→コミュニケーションを促進するです。

  • 「共通の軸を持つ」とは、まず、チームの目的やビジョン、価値観などを明確にし、チーム内で共有することで、チームメンバーは自律的に判断できるようになると。

  • 「多様性を尊重する」は、チームメンバーの個性や特徴を認め、それぞれが自分らしく働ける環境を作ることで、チームメンバーは創造性や能力を発揮できるようになる。

  • 「コミュニケーションを促進する」は、チームメンバーの情報共有やフィードバックを活発にすることで、お互いに協力し、問題を解決できるようになると。

ChatGPTによる自律分散チームづくりポイント

なかなかしっかり整理された論だと思います。しかい、これで終わるわけにはいきません(笑)。

では、とんがり研の独自の論を重ねてみたいと思います。

1.「私らしさ」を明らかに究める
2.「矛盾や葛藤」を抱きしめる
3.ときめく「物語り」に仕立てる

上記の一般論と比べると、実践論的にはもうちょっと突っ込まないと動かないなという感覚があるんです。

チームで共通の軸を持ち、共有するのは理想ですが、いきなり現状を突破できる軸を持ち、かつメンバーがジブンゴト化して捉えるというのは、現実的には至難の技と言えるでしょう。

だから、僕は少し遠回りでも、チーム全体のことは一旦置いてでも、自分の想いや持ち味を生かして、チームで何をしたいから掘り起こし始めます。
一人ひとりが、自分の個性を解き放ち始めると、そうです、方向性がなかなかまとまらず矛盾や葛藤さえ露出してきます。

が、これこそが既存の常識を疑い、創造的な解を導く源になるのです。

そして、最後は、矛盾・葛藤の中からなんとか見えてきた手がかりをもとにチームで共有できる物語りに仕立てます。なるべくわかりやすい言葉を使いながら。

それでは、この「私らしさ」→「矛盾・葛藤」→「物語り」について一つひとつ取り上げて、具体的な事例も含めて、解説を加えていこうと思います。

1.「私らしさ」を明らかに究める


チーム論なのに、いきなり個に思い切りフォーカスすることには、ちょっと違和感を持たれるかもしれませんね。

たしかに、ご紹介済みの一般論的には「共通の軸を持つ」からスタートするとなってますし。

それにはこんな背景があるんです。

クライアント企業の話として、こんなリーダーたちの悩みを耳にします。いずれも個の想いがぼやっとして見えにくいという共通点があります。

・組織の目的やビジョン、価値観など自分なりにわかりやすくしてチーム内で共有しているつもりなのにまったくジブンゴトにならない。

・これまでの言われたとおりにやることに慣れてしまっており、自分のWILLを見失ってしまっていてリスクを取ってでもとはならないのかも。

・あるいは、上からあれこれ言ってくるのは思いつきも多く我慢して通り過ぎるのを待てば、いずれ収まると思っているのか。

いずれにしても、そういう状況でリーダーが方向性などを伝えようとしても、メンバーとの距離は離れてしまいがちな状況です。

その原因はこんなところにあるのではないかと僕は考えています。

メンバーにWILLがないのではなく、自分の想いや持ち味に蓋をしてやり過ごした方が、日々の仕事を安全にこなすには得だと思っている。

たしかに、そのような考え方には合理性もあったかと思います。

しかし、大きく言えば、その集積が日本企業の長期低迷につながっているとも言えないでしょうか。

その意味ではもう待ったなしの状況でしょう。

一人ひとりの特性(らしさ)を掘り起こし、そこを起点に始めること。

いま「人的資本経営」が最期の切り札として脚光を浴びているのも、潜在的にはそこに問題意識があるからではないでしょうか。

では具体的にはどうすればいいでしょうか?

僕がお勧めしているのは、自分が何者であるか、何を大事にしているのかなどをあきらかにする問いによって「私らしさ」を掘り下げていくことです。


例えば・・・

「これまでの人生でしてきた選択で一番インパクトのあるものは?それはなぜ?」

そんな問いに答えていくプロセスを経て、セルフ・コンコーダント・ゴール*(自分の内奥にある根源的な欲求にもとづき追究する目標)を言葉にしていきます。

「ワイガヤお祭り的な感じで​楽しみながら、その人らしさが輝き、​みんなの笑顔が溢れる、共創・共生の場を育む​」

ある会社員の方のものです。

彼女は管理系の職場にいながらも、これを仕事でも、プライベートの活動でも、フルに発揮しながら日々を過ごしています。

これが僕の掲げる自律分散チーム論の入り口になります。

では、一人ひとりのらしさが解き放たれていったら・・・

2.「矛盾や葛藤」を抱きしめる


一人ひとりの「らしさ」が解き放たれる初期フェーズの後は、いよいよ核心部分です。そして、最もモヤモヤするところかも(笑)。

きっとこんなモヤモヤや不安が出てくるのでは。

クライアント企業との対話で頻出する「あるある」でもあります。

・一人ひとりが「らしさ」を追い求めるようになったら組織の目標はそっちのけになるのでは?

・やはり、組織の目的や目標を先に提示する方がうまくいくように思うが・・・

・一人ひとりが自己主張を始めたら、衝突や対立も増えマネジメントコストが大幅にアップしてしまうリスクがありそう。

どれも、現場視点からすれば、合理性のある見方だと思います。

で、結局は、それらの不安を払拭するために、ある一定の枠にはめて、考えるなり、行動することを求めるという判断になりがち。

でも、それでは既存の延長線上の発想しか出てこないというジレンマを抱えることにもなります。

ここで、ちょっと質問させてください!

「らしさ」を考えるとき、エゴ(Ego)とセルフ(Self)のどちらで捉えていますか?

エゴ(Ego)は、自己中心的・自己保存的な側面の欲求で、支配欲や争いなどを生みがちなものです。

セルフ(Self)は、個人の内奥にある本質的・根源的な欲求で、たとえば、つながり、自立、意味、あそび、平和など。

もちろん、人間ですから、その両面を持っているわけですが、前述のような不安は、主にはエゴ(Ego)の視点で捉えたものでしょう。

でも、自律分散チームの本質を体現するためには、一人ひとりのセルフ(Self)がどこにあるのかに注目しながら

チームにとって不可欠な「論点」(issue)を研ぎ澄ませていき、合意できる最善解を見つけていくことが求められます。

論点については名著『イシューからはじめよ』の安宅和人さんの定義が役立ちます。

(a)2つ以上の集団の間で決着のついていない問題

(b)根本に関わる、もしくは白黒がはっきりしていない問題

ここまでの文脈で言えば、チームメンバーがセルフ(Self)を軸に考える環境の中で、(a)と(b)を満たすようなテーマを炙り出していくのです。

テーマがテーマなだけに、そこには「矛盾・葛藤」がつきものですが、セルフ(Self)に集中すれば、混迷や空中分解することなく、解に到達しやすくなります。


例えば・・・

あるクライアント企業で自社のパーパスをつくろうという場で、大事なキーワードとして「好奇心」が抽出されました。

そこまでは合意されたものの、そこに「知的」を入れるか入れないかで意見が分かれました。

好奇心とは、珍しいことや未知のことなどに広く興味を持つことです。

一方、知的好奇心は、その中でもより物事の本質を探究するというニュアンスが付加されます。

これは、ただの言葉選びの問題ではなく、どちらを選ぶかで顧客ターゲットが大きく変わってくることがわかってきました。

結局、幅広い好奇心よりも、知の探究を軸にお客様との共創を目指す方向が定まりました。

矛盾・葛藤を含むテーマも、論点をうまく扱えば創造的な解決の源になりえます。

3.ときめく「物語り」に仕立てる


矛盾・葛藤を乗り越え方向性を見つけ出したら、そのほのかな灯火をいかに核心にまで育てていくかが最終フェーズです。

ここで、ふたたび不安や疑問にとらわれるかもしれません。
またか(笑)⁉︎

・方向性が見えても、そこからどう具体化すればいいのか?

・その場にいなかった人には温度感含めて伝えることはできないのでは?

・果たしてその仮説は正しいのだろうか?

これらも、もっともな不安や疑問ですね。

そこで起きがちなのが、せっかくこれまでにない光が見えてきているのに、ロジックによって明確に説明できないものは排除してしまうことです。

そうなると、せっかくの苦しい矛盾・葛藤のプロセスを無駄にしてしまうことになります。

「ビジネスの世界で、ロジカルに説明できないものは無意味だ!」
という常識を絶対視してしまうやり方ですね。

そこで、僕が多用しているのが、パースという哲学者が提唱した「アブダクション」(直観的仮説推論)という思考法です。

これは大変面白く、VUCA時代にとても有用な方法論なので、改めてご紹介しますが、今回は要旨にだけ触れますね。

以下は経営学者の野中郁次郎さんの本からの引用です。

アブダクションとは、一面飛躍的であるがそれは思いつきでなく、現場で見られる多くのデータを比較しつつそれを説明する規則や論理を相互比較して発見しようとすることである。

『美徳の経営』野中郁次郎、紺野登


僕が支援にかかわった例をご紹介しますね。

ある大手メーカーの生産技術部門の戦略コアを導き出すミーティングにて
「世界中の生産技術をマッチングアプリ的につなぎ合わせられるのがウチの凄さです」みたいなことをあるメンバーが発言しました。

意外な発言にメンバーたちは当初、キョトンとしていましたが、このメタファーはとても面白いと感じたので、その本質をみんなで掘り下げていくと・・・

多くの大手メーカーにはこれぞという他にはない伝統的な◯◯技術を磨いてきているがウチには実はそういうのがないがゆえに、外部のあらゆる技術を結び合わせ未知の技術を創り出すことができる。

つまり、自社固有の基盤技術や生産方式を持たないことが強みの源泉だという話になっていったのです。

ここまでくるとまさに優れた戦略論に仕立てられる可能が出てきます。これを軸に、関係する要素を因果ロジックで戦略ストーリーにすればいいわけです。

ふたたび、野中先生の本から引用します。

アブダクションは、現実の個別事象のかすかな機微にも驚きや変化を察知し、関係するありとあらゆる知見を統合して自在な仮説をつくり、試行錯誤的に検証しながら新たな発見に至る

『美徳の経営』野中郁次郎、紺野登


ロジックはもちろんとても重要ですが、アブダクションは、そこに私(たち)の考え、感じ方、思想のようなものが文脈として入り込み、

他者を巻き込む「物語り」になっていく性質を有していると僕はとらえています。

チームで心ときめく仮説を、自分たちで導くことができたら自律分散の動きは、その「物語り」を介して、内から外に広がっていくことになります!


ここまで、とんがり研独自の自律分散チーム論をお届けしてきました。


各フェーズを効果的にマネージするには、一般的なファシリテーションスキルだけでは難しいところもあるでしょう。自分たちだけで実践できるようになる前に、プロのファシリテーターを活用するのもありかもしれません。


※もし、おもしろいな、なんか気になるなと感じた方、「スキ」や「ブックマーク」いただけるととても嬉しいです。

では、また次回お会いできることをたのしみにしております!

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