コロナと精神科の話

今日は、精神科とコロナの関わり、そして各地の病院でどんなことが起こっているかを知って欲しくて筆を取りました。
コロナ自体について専門外の医者がわかったようなこと言うのも違うかなと思うので、精神科に関わりがある部分だけ綴っていきます。僕自身、大学病院にいたときにコロナ病棟お手伝いに行ったりして、前線でやっているスタッフさんたちの頑張りを見ていたからそっちに関しては僕なんかがわかったような顔して語ってはいけないなと思っていますので。


まずこの記事を書くにあたり、前提として僕の立ち位置をはっきりさせておかないと読みづらいかなと思います。

現在、マスクを自由に、5類にしようなんて話も出てきており、それぞれの医師がいろんな意見を述べ出しています。私自身はもう何年もコロナ禍をやっていて行動制限なんかは難しいと思っていますし、それぞれがそれぞれのリスクを加味して自由に過ごすことは止められないと思っています。僕自身もこの3年間でフェーズフェーズで自由に過ごしているので偉そうなことは言えません。そもそも誰かに何かを強制する権利ってのを誰かが持っているのかもわかりません。ただ、この記事を読んで、例えばコロナ対策をしている他の人の邪魔する活動をしてる人や、頑張っている医療スタッフを揶揄する人が少しでも減ってくれたらいいなぁとは思っています。

さて、まずみなさんが想像するお年寄りってどんな感じでしょうか。小さくて可愛いおばあさん、杖ついてる穏やかなおじいさん、そんな感じでしょうか。
今、僕は慢性期、つまり急性期の精神病症状ではなく、症状がある程度安定している方々が環境調整などまで含めてやっていく、ある種生活の場になっているくらい長いこと入院している患者さんもいる病院で働いています。

認知症で自宅での生活が困難、施設入所のために環境調整や内服調整をしている方々が多くいます。何度も徘徊したり、ものを取られたといって家族に攻撃的になったりして家での生活が難しい、となった人たちは入院したからといって記憶力が改善したりすぐに穏やかになるわけではありません。当然僕よりも背が大きい人、恰幅の良い人様々います。みんなが想像するであろうお年寄り、というイメージより攻撃的な人も多くいます。看護師さん含め、医療スタッフにも高齢の女性は多く、そんな患者さんがときに「家に帰りたい」とベッド柵を持って暴れだした日には平時でも結構大変だったりします。

さてコロナの話に戻りましょう。ここ数年は入院時にコロナ検査を行うわけですがそれで100%拾えるわけではありません。疑陰性、という言葉をお聞いたことがあるかもしれません。確率論なので3年間もやっていれば当然病棟でコロナが出ることがあります。さてそんな中、想像してください。自宅で服すら着るのが難しく徘徊していた方々がマスクをしてくれるでしょうか。もちろんしてくれる方もいますが、全くできない方、してもすぐ外してしまう方もいます。コロナが流行っていると伝えてもコロナを知らない方も多くいます。耳も遠いので当然近くで話しかけてきますし、部屋にいてと伝えても10秒おきくらいに出てきます。いくら慣れたスタッフであっても先に述べたようにパワフルな患者さん相手には恐怖を覚えることもあります。

高齢者が多い病院では持病がある方が非常に多くいて、感染すればいくらワクチンを打っていても重症化する方が一定数でます。また入院していても当然ワクチンを拒否される患者さん、ご家族もいます。これも強制できるわけではないのでそれが悪いとは思いません。そしてそうは言っても病院なんだから感染してもなんとでもなるだろうと思うかもしれません。それも当然だと思います。ただ関わりない方は知らないと思いますが精神科病院というのは本来精神科疾患を見る病院なのです。もちろん入院している方の身体管理などもしますがそれはあくまで補助的なもの。僕ら精神科医もいくら初期研修で学んできたと言ってもできることなんて多くありません。また機械の問題もあります。大きな病院のようにいつでもレントゲンやC Tがさっと撮れるわけではなく採血も外注になるので検査結果が出るのは翌日、週末は一切検査ができないなんてことはザラです。人工呼吸器があるわけもないので重症化すれば呼吸器管理などはできません。平時であれば肺炎がひどくなった人は近隣の病院に搬送を検討もできるのですがコロナで各病院がいっぱいいっぱいの時は搬送も一切受け入れてもらえません。

こういった状況で、精神科で働こうと思っていた看護スタッフがいつまで耐えられるでしょうか。本来やろうと思っていた業務と全く違うことをこの数年繰り返しているわけです。それでも彼らは患者さんの命に関わることは辛くても本当によく耐えてくれています。こういった人たちの心を最後に折るのは業務の忙しさではなくそれを揶揄する人、否定する人たちの言葉だと思うのです。当たり前だろう、嫌ならやめれば良い。よく聞く言葉です。僕もそう思います。嫌なことはやめても良い。でもこの言葉は追い込まれている人にやめて良いといって救い上げる言葉であって、やめない人を自業自得と責め立てるための言葉ではありません。

患者さんの家族の中にはなぜ入院しているのに感染するんだとスタッフを小1時間責め立てる方も多くいます。しかし考えてください、家にいるときに服も着てくれず暴れていた人がなぜ病院だったらマスクをして感染予防をしてくれると思うのでしょうか。そういった心ない言葉で心が折れそうになっているスタッフがいます。

こんなひどい状況でも病院はまだマシです。僕は多くの施設に往診に行ったりしていますが、施設には医師がほぼいなかったり医療資源もほぼ無かったりするわけです。また看護師さんがたくさんいるわけでもないので、感染が広がると一気に悪くなり亡くなる方も多くでます。施設、慢性期病院のスタッフは年単位で患者さんといますので家族くらいの距離感で関わっている方も多くいます。そういった方々がコロナで急激に悪くなる患者さん相手になす術なく看取るのは本当に心を折るほど辛いものです。

ネットを見れば「高齢者がなくなっているだけだから他の感染症も同じだし、なんでこんな大騒ぎをしているんだ」という人が多くいます。もしかしたらそうなのかもしれません。他の感染症も同じかもしれないけれども、毎日多くの人が亡くなっているのは事実です。何人かしかなくならないうちの一人が自分の家族だった時にも同じことが言えるでしょうか。何度も言いますが別に今から行動を制限しろと言いたいわけではありません。

ただ、わざわざマスクしている人の妨害をしたり、ワクチンを打ちたい人の邪魔をするような行動をしたり、頑張っているスタッフたちの心を折るような発言を繰り返す、そんな邪魔だけはしないで欲しいなと思います。メディアやSNSでコロナ関係の発信をしていると時にとても攻撃的な方からのメッセージが届きます。本日も私の元に殺害予告が届き、病院にも迷惑をかけながら警察に被害届を出してきたところです。

人間は信じたいものを信じます。確証バイアスと言いますが、自分に有利な情報ばかりを探してしまう、これは医療者、反医療側、双方に働いていると思います。今正しいと言われている医療も今後ずっと正しいとは限りません。ただ今の現状を知っていただいて、自分の考えにバイアスがかかっていないか、ぜひ見直す機会としていただけたら良いなと思っています。

貴重な時間を使って最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?