イツカ キミハ イッタep.80
「トプン、ギギーッ…、トプン…ギギーッ」
朝、規則正しいリズムが耳奥に心地よく響いてきて目が覚めた。窓際から下を覗くと、舟屋に停留している漁船が波によって小刻みに小さく揺れているのが見える。
今夏、伊根の舟屋に泊まり、一日中海を眺めて過ごした。海の京都と呼ばれる「伊根町」。
そこで、のんびりする以上に心解放することが出来た。
出発は京都駅から。10:25発の「はしだて3号」で天橋立を目指す。昼過ぎに到着後、すぐに伊根行きのバスに乗り込む必要があることから、駅構内のスタンドでサンドイッチを買い、はしだて車内で食べた。(写真:PEAK COFFEEのたまごサンド)
天橋立駅で、早朝または夕暮れ時に熱気球に乗れるイベントに申し込む。上がるかどうかは、天候次第。ずっと晴れマークが続いていたが、風が強いと中止になる旨の説明を受け、それでも一か八か受付で申し込んだ。
丹後海陸交通バスに揺られること約1時間で伊根町に到着。バス停は伊根湾を眺められる伊根浦公園前のすぐ近くにあり、公園の向かいにある観光案内所で自転車を借りてから、舟屋の宿へ行く。
急な階段を上り、黒光りした板の間をそっと歩いて窓の前まで来ると、目の前にたぷたぷと波が立つ伊根湾が一望できる。大型の遊覧船や小型の海上タクシーが行き来する伊根湾は、一見、大きな湖のようにも見えるほど奥まった漁港だ。漁港ということで、舟屋の前にはたくさんの漁船が岸に付けられている。
(写真:舟屋群と漁船)
これだけ水辺に近い家は、なかなかないだろうと思われるほど、人々の暮らしと海が密接に関わっている。自転車で町内を散策していた際、ある舟屋の1階を見せていただいた。1階の先が屋外とつながり、すぐに湾に出て船に乗り込める造りとなっていた。船を屋内に退避させるためのガレージも倉庫のような中にあり、船が生活の一部となっていることを物語っていた。(写真:ミニ桟橋のある舟屋一階)
舟屋に宿泊する際には、もともと素泊まりの形態が多いとは聞いていたが、夕食のお店はそこここで開いていて、予約せずとも食べられるものの朝食単体で食べられる店は限られていた。そこで、モーニングの出来るカフェを事前に探し、深い緑の香りを吸い込みながら自転車を走らせて湾のだいぶ端まで走った。
目指したのはOfukuwakeというカフェ。そこで食べたクロックムッシュが、今まで食べたクロックムッシュの中で一番美味しかった。
(写真:熱々のチーズが溶けたクロックムッシュ)
パンの間に挟まれたハムとチーズ、そして上からかけられたクリーミーなベシャメルソースとバターでカリッと少し焦げ目のついたトーストの食感が絶妙で、ナイフを入れるたびにジュワッとしみ出してくるこれらのハーモニーに、何度も自然と笑顔になった。まさにお福分けをいただいた気分で、スコーンやお隣の席の方が頼んでいたプリンなどを追加注文したほど。ぜひもう一度訪れてみたい。(写真:スコーンに添えられたジャムも手作りっぽくて美味しい)
のんびりゆったりの伊根時間を楽しむために海上タクシーに乗ってカモメの餌やりをしたり、伊根湾の全景を見晴らせる道の駅で、ビールを飲んで一休みしたり、おとなの遠足みたいに心を解き放って、自由きままに過ごせたのがとてもよかった。そう、おとなもちゃんと夏休みを取らないと。
海水浴とは一味違う、海での極上の過ごし方ができる「日本のヴェネツィア」と称される伊根。この後、京丹後から天橋立を巡り3泊4日の夏休みを過ごした。
伊根、いつか、また、行ってみたい地となった。
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