スーツケースとシャンプーと彼
昔からシャンプーという代物が大好きで、いろんな香りを楽しんでは次から次へ、と愛用品を変えていた。
たしかそれは小学校、中学校からの私の密かな楽しみで、大人になってもそれは続いた。
最近好きになったのは「COTA i CARE」の「シャンプー5 ジャスミンブーケ」だった。もとは旦那が髪を切った時に、サロンの特典スタンプが貯まってもらったとかで、家にそれを持ち帰ってきたのがきっかけだった。
香りが大好きだったのだ。それに加えて、いままで使ったどのシャンプーよりも、泡立ちが良くて、指通りが良くて、キシキシしなくて、このまま今日はトリートメントしなくてもいいかしら、と思うくらいの滑らかさがあった。から、彼よりも私が使う一品にいつしかなっていた。
これ、好き。と彼に伝える。ふぅん、よかったね、と返ってくる。
私の家は洗面所のとある扉が日用品のストック置き場になっているのだけれど、ある日気が付いたらそこに「COTA i CARE」の詰め替え用が置いてあった。
彼がまた髪を切るタイミングで、今度はそれを買ってきてくれていたらしかった。ありがとう、と思う。彼は私の好きなものを忘れない。
また時間が過ぎて、今度はなくなりそうだったシャンプーの容器が、満タンになっていることに気がついた。いつもありがと、とお風呂で思う。詰め替え用は2回分だったから、来月発つ予定の世界一周にこのシャンプーを持って行こう、と決めた。その頃はまだ、3月だった。
***
日本を離れても、海外で暮らしても、いつもと同じ香りで髪が洗えるのがうれしかった。このシャンプーがなくなったら、何か買わなきゃ。でもちょっと残念だなぁ、それは。と思ってシャワーの時間を過ごした。
つい10日ほど前、インドネシアからタイに移る機会があった。いっぱいに詰め込んだスーツケース。急いでパッキングしたから、シャンプーやトリートメント、ボディソープや洗顔石けんを入れた袋の口の、閉め方が甘かったようだ。
タイに着いて、スーツケースを開ける。
ふわり、と漂う、いや、ふわりどころではなく、がっつりと部屋中に充満する「COTA i CARE」の私の大好きなシャンプーの香り。
「?」となった。
スーツケースに入っていたワンピースを手に取る。「ぐしゃり」「べちゃっ」という音がした。
「………?」と二度目に思った。一度では状況が把握できなかった。思い当たって、ヒヤリ・ゾクっとした。
シャンプー漏れてるやんけ
満タンに詰めてきたはずのシャンプーの容器は、残すところあと2割を切るくらいになっていた。軽い。軽すぎる。容器が軽すぎるよ。っていうかスーツケースの中身がシャンプーまみれだよ?
まじか
ひとり、数秒固まる、タイの夜。
……
……………。
洗おう。
それしかない。ワンピースだけでなく、下着オールスターズと水着もシャンプーまみれ。
今日の下着はどうすんねん
と思ったけれど、それよりもシャンプーがこぼれていたことの方が、まだ衝撃的だった。そのときの私にとっては。
結局、洗っても洗っても泡立つワンピース(手洗い)は、翌日ランドリーでキレイにしてもらうことにした。
あれから1週間。まだ私のスーツケースとワンピースは、シャンプーの香りが残ったまま。くぅ、今日、シャンプー買ってきたよ……!
以上です 旅先でひとりワタワタしている私。
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