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一人では食べきれないよ、そのケバブ【イギリス・ロンドン】

昨日は朝起きたら少し雨が降っていたのに、午後は曇って夜晴れた。

かわりに今日は、朝起きたら晴れていたのに、家を出る頃には雨がしとしと降っていた。

Acton Townの通りの様子

この旅で傘をさすのは、まだ2度目だ、と思う。

そう、これまであまり雨が降らなかった。もしくは、降っていたら止むのを待つか、ホテルにいたら仕事をする時間、に充てていた。

だから傘はささなかった。バリで一度、スコールのような雨を見てびびってピンクの折り畳み傘を持って出たけど、南国の雨は気が済むまで降ったらそのあとは雨なんてなかったかのように振る舞うやつだと学習して、以後傘は持たなかった。

インドでは雨の気配なんて微塵も感じなかったから(降ったらまさに恵みの雨。けれど来月からはインドも雨季に入る。少し暑さも和らぐだろう)、潤っていいね、と窓の外の雨を見ながら思う。

今日はステイ先を移動する日。11時のチェックアウトを済ませたとき、ドアの外はまだ確実に傘がないとやっていけないくらいの雨が降ってた。駅までは徒歩5分。このまま駅まで行ってしまえと思ったけれど、濡れゆく私のスーツケースを見て(なくならなくて本当によかった)、うんやっぱランチでもしつつ雨が弱くなるのを待とう、と決めた。

家を出たらすぐにドミノ・ピザの小さな店があって、隣に地元のおやじさんが切り盛りしていると思われる小さな八百屋、その隣に間口が小さなコンビニ、オーガニックレストラン、韓国料理のお店、和食、ハラル、えっと、つまりなんでも、の、小さなお店たちが軒を連ねていた。

たしか近くに、サンドイッチのランチか何かの看板を出しているレストランがあったはず、と思い出す。あそこへ行こう、と駅から店へと進路を変える。

***

昨日の夜は混んでいたのに、まだ今日は11時で雨だからか、店の中には誰もいなかった。オーダーを済ませたあとに気付いたけれど、もしかしてここ11時オープンだったんじゃなかろうか。

LUNCH SPECIAL lamb or chicken sandwich

と書いてある。一瞬、なぜラムがチキンより先に来ているんだろう? と思ったけれど、通常メニューを見てケバブが並ぶのを見て、なんとなくなるほどなと思った。どうやらここは、一般的なカフェではなく、トルコ料理を中心に出す店らしい。ケバブは好きだ、そう思ってオーダーをとりにきた彼に聞く。

「ねぇねぇ、ランチメニューってケバブみたいなもの? それとも一般的なサンドイッチ?」

「ケバブだよ」

(実際はどちらでもよかった、私はケバブもサンドイッチも大好きだ)

「じゃあそれを。んー、ラム、がおすすめ?」

「ラムがいいと思うよ。ライスとサラダ、どうしますか?」

「ライス、とサラダ(?)。」

「そう、ライスとサラダ。こんな感じで、2つの肉のバーと、ライスと、サラダがついてくる。どちらかだけでもいいし、どっちだけでもいい。it's up to youだよ。どうする? メインミールであれば、確実に両方がいいと思うけど」

(え...私の知ってるケバブと違う……まぁいっか)

「じゃ、ライスとサラダでお願いします」


よくわからなかったけれど、なんとなくまぁいいや、と思って窓の外に目を移す。一応Wi-Fiの有無を聞いたけれど、ロンドンにしては珍しくWi-Fiがないらしかったので、本やノートを広げながら、雨がやまないなって思って時間を過ごす。

飲み物は、フレッシュジュースがあるかを聞いて、キャロットジュースがあるというから、それにした。フレッシュジュースを頻繁に頼むのは、私の旅の常套手段だ(野菜不足対策)。メインのご飯は野菜が少ないことが多いから、街中のスタンドやカフェでドリンクを頼む時は、フレッシュジュースを選ぶことが多かった。

マンゴー、パイナップル、メロン、スイカ、パパイヤ、ドラゴンフルーツ。時にはキューカンバだったり、アボカド、ビーツ、セロリだったり、もしくはそれらのミックスだったりいろいろあるけど、とにかく生の果物または野菜が入っているジュースが私はとても好きだったし、アジアはそれを100円、高くても200円で提供してくれる国が多かったからうれしかった。(シンガポール、マレーシア、バリなどは別格でもう少し高い)

ロンドンはいくらだろう、と昨日から値段を見てたけど、500円とか、600円、それ以上であることが多かった。このお店のキャロットジュースは450円だ。別にいくらであろうと構わないのだけれど、これはささやかな私の市場調査。趣味である。

ここまでnoteを書いている間、キッチンからはジューサーの音が聞こえていた。まだお客は私一人だったから、あれは私のキャロットジュースだな、と予想する。

ほどなくしてキャロットジュースが運ばれてくる。一口飲んで、うん、これは紛れもなくフレッシュだ、とひとり笑った。いつも夫が嫌がる、「青臭い味」がしたからだ。元気かな、ご飯ちゃんと食べてるかな。来月末に一度帰るよ、もう少し待っててね。


そして私のケバブがやってきた。

っっっっんじゃこりゃあ

予想の遥か斜め上をいく見た目(ケバブってあの上野とかで売ってるやつじゃなくて?))、いやこの際見た目はどうでもいい、想像を遥かに超えた「ボリューム」だった。

朝の11時だ。朝の、という言い方が適切でないなら、とりあえずまだ11時だ。これは私のブランチだ。つまりまだ何も食べてないない。

これを食べろというのか……

最近一人前もろくに食べられない私に!!!!!(一人だと食欲があまり出ない)

私の想定外の方向からやってきたケバブは、とてもとても、美味しかった。

けれど結局、三分の一くらいしか食べられなかった。「持ち帰りにしますか?」と聞かれてつい、うんと言ってしまったけれど、これが一体何なのかは分からずじまいだった。

(いやケバブなんだけど。聞けばよかったんだけど、なんとなくまぁいいかと思ってしまった。雨は全部の作業を気怠くする。どうでもいいけど、家の中で聞く雨の音は、すごく好き)

勘定の際に知ったのだけれど、私の「LUNCH SPECIAL」のケバブはいつの間にか、ディナーメニューの「ケバブなんちゃら」に変更されていたらしい。どこで英語を聞き間違えたのかは、いまとなってはまったく分からない。なんちゃって英語を使い続けるのは、やっぱりイギリスでは無理がありそうだ(しかし彼はトルコ人)。

一人旅のこういうどうでもいい失敗は、結構あるあるだよね(?)。

その後調べて分かったのだけれども、私の思っている「ケバブ」はつまり、日本でもよく屋台で売っている「ドネル・ケバブ」のことであって、ケバブにはものすごくたくさんの種類があり、むしろ今日私が食べたそれは、かなりスタンダードなスタイルのものであることが分かった。

トルコ、行ったことあるひとならすぐに分かったんだろうな。行ったことのない、そしてあまり日常で食べる機会のない料理は、やっぱり少し新鮮だ。(ロンドンでなぜトルコ料理かという質問は受け付けない。雨だったからだ)

トルコ、行きたいなぁ。でも今回は呼ばれてない気がするから、きっと行けない。

***

雨が止んできたから、そろそろ駅に向かおうかなと思う。なかなかやまないけれど空は明るくなってきたし、傘をささずに散歩する人の姿も増えてきた。

ロンドンは雨が似合う。でもやっぱり私は、晴れが好きだ。

晴れたらどこかで、写真を撮りに行こう。ライトアップされたロンドンブリッジを見て、セントポール大聖堂へ行って。ショーディッチのマーケットを歩いて、すこしお土産を買って、コーヒーでも飲む。

ロンドンにきておしゃれがしたいな、欲が高まってしまったので、まずは百貨店でせめてマニキュアでも買って、手先と足先をきれいにしようか。私は幸せは「なにかの先」から入ってくると信じているので、手先・足先まできたらやっぱり「髪先」つまり毛先もきれいにしたくなってしまう。

ここはロンドンだ。髪でも切ろうか。きりがないからやめておこう。フラットシューズくらいなら、買ってもいいかな。

夜は部屋で原稿を書いて、ホスト先にいるはずの犬(後に知ったが、女の子でフラワーという名前だった)と遊んで。

雨がやんだら、やりたいことがたくさんある。でもだからこそ、私には雨が必要だ。立ち止まらなければ、前に進めなくなってしまう時がきっと来るから。

雨は私に、強制的なおやすみをくれるから、きらいじゃない。


いつも遊びにきてくださって、ありがとうございます。サポート、とても励まされます。