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音楽というのは、時にずるい。20歳、横浜・金沢八景、夕焼けの空。

音楽というのは、時にずるい。

風通り抜ける金沢八景駅、から徒歩10分ほどの小さなアパートの2階。ワンルームの1室。一人暮らしの部屋、私は20歳。

高校生時代に好きだったひとと、偶然だけど一緒の街に上京した。否、正確には上京とは言えない。新潟県から、神奈川県の横浜だったから。別れた後に、同じ駅の違う大学に進学することを知ったけれど、「会おうね」とはならなかった。

ただ一度を除いては。その一度、友達と数人で彼の部屋にちらりと上がったことがある。小さなワンルームの1室、金沢八景駅から徒歩10分くらいの場所。

あれから1年以上の月日が経って、全く同じ部屋なんてわけはないと思うけれど、元彼と同じアパートを選んで私が住んじゃうなんて、なんか「縁」ってあるんだなぁと、思ったりしていた。もちろん私が引っ越して来た時には、彼はもうこのアパートを出て、もっと大学に近い場所に引っ越してた。

そんな部屋で、違うひととこの音楽を聴いたことが、ある。大学時代の私が好きだった、tomi。

夕陽暮れる、今日みたいな気持ちのよい、秋の。鳥が飛んでた。窓から見えた。空はオレンジ色で、だんだん青に向かってく。

あの頃使っていたベッドマットは、そう言えばどこへ行ったんだろう?

あの頃着ていた洋服は、数着だけ実家に残して、あとは全て消えて。

あの頃私がそこにいたことを証明するものは、大学時代の友人たちしかいないような気がする。

それも、100年後には全部消えてなくなってしま……ったりするのか?


生きている意味とは。私たちがここにいる意味とは。


音楽はずるい。どんなに、時を超えても。あの日私は確かにそこにいたということを、鮮明に思い出させる。目の前に、その景色が綺麗に浮かんでくるわけではないのに。頭の中に、「そんな感じだったものたち」のカケラだけ、残像として浮かぶ。

きっと、ずっと本物よりも綺麗になっている。

けれど今はそれがホンモノで。思い出させる。美しく、思い出したような気にさせる。

私たちは、あれよりもずっとずっと、大人になった。それなのに変わらず関東の街でキーボードを叩く。あの頃から、文章を書く仕事に密かに憧れていた。ダンスに夢中だったあの日々を、率先してカメラを手に取り、撮っていた。

遠い日々。大学生の頃に戻りたいのかと言われたら、「NO」と答える。今の方が自由だから。でも、つよがりかもしれない。金沢八景駅の近くを毎日歩いていた、18歳や、20歳や、22歳の頃の私たち。眩しい。

いつも遊びにきてくださって、ありがとうございます。サポート、とても励まされます。