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誰も私のことを知らない、話しかけてきやしない【スウェーデン・ストックホルム】

昨日の夜は2時まで起きてしまったから、朝7時過ぎの目覚ましの音がいつもより辛く聞こえる。目覚ましが「ピピピ」と鳴り出す瞬間に手を伸ばして止める。実際はiPad miniの音だ。そして私は辛いと言いながらも、いつも通り取材の日の緊張で6時半前には目が覚めていた。

目が覚めたのに、もう少し、もう少しと自分に言い訳をして、窓がこの部屋は少し遠いのよ、と体が動かないのを日が当たらないベッドのせいにして、ずるずると30分過ごしていた。

今日は朝起きて、スウェーデンの首都・ストックホルムを離れて、インガローという離島までバスに乗って40分、取材に出かける予定があった。

起きよう、そしてシャワーを浴びよう、と思う。

落ちないように二段ベッドの階段を降りていく。そう、私はストックホルムではこの旅(やっと)3回目のドミトリーに泊まっていた。

なぜAirbnbの宿がまったく見つからないのだろう? とストックホルムでは不思議に思っていた。後にストックホルムの街のひとに話を聞いて納得する。つい最近、ストックホルムでは民泊がNGになったということだった。6人部屋のベッドを使っているのは私と、もう一人ドイツから来たひとだけだった。意外にドミトリーは、清潔で広くて、宿泊客が運良く少ない部屋に当たると、なかなかに快適だということを私は学習した。

(……余談だが、私には、同室になったひとと超交流を深めよう!みたいな熱意がちょっと足りない。)

ここからストックホルム郊外に向かうバスが多く発着する「スルッセン」駅までは、私が今滞在している「セントラルステーション」駅からわずか2駅の場所だった。電車に乗れば、ものの5分。歩いていけば、ストックホルムの観光のハイライトであるセントラルステーション付近のショッピング街と、ガムラスタンという名のジブリのような旧市街、そしてセーデルマルムというストックホルムのひとが一番憧れるという、ハイセンスなカフェやショップが立ち並ぶエリアを通っていく道だった。

※私は海外の街を東京の繁華街にたとえる癖がついていて、セントラル・ステーション付近は丸の内、ガムラスタンはまぁ浅草界隈、セーデルマルムは代官山だと認識していた。

朝早く起きてシャワーを浴びて、常備してあるモモやリンゴ、チェリーやアプリコットなんかの果物の中から、今日の気分に合うものを取り出す。コップに水を入れて、窓の外を見ながらゆっくりと飲む。スウェーデンの水も美味しいが、水道水はオーストリアが格段に美味しかった。

今日は、珍しく朝から気持よく空が晴れ渡っていた。離島に出かけるならば(いや出かける予定のある日はいつもだが)、晴れの日が良いと思っていた。離島に行くことが決まったのは、昨日の夕方だった。このままずっと晴れていたらいい。そう思って、「スルッセン」まで歩こうと決めて、少し早めに家を出る。

MacBook Air、iPad mini、充電器各種、ボイスレコーダー、カメラ。持ち物は全部持っただろうか。そう、あとは名刺、財布……これくらいで十分かな? 取材にMacBook Airが果たして必要なのかどうか知らないけれど、「念の為」と思って私はなぜかいつも持っていく。

朝8時半過ぎのストックホルムの街は、人通りがまだ少なくて、街はまだ寝ているようだった。今日は日曜日だ。ストックホルムの街はそもそもが店の営業時間が短い。

平日であればカフェは7:30からやっているが、休日ともなればオープン時間は10:00になって、日曜日ともなれば観光客向けの店以外は大体休み。たとえ開いていても、日曜日は閉店時間が15:00のことも少なくなかった。

ガムラスタン(浅草)を通り抜けて、セーデルマルム(代官山)へ向かっていく。

海外の街を歩く時間、特に朝は、格別だ。誰も私のことを知らない、誰も私のことを呼び止めない。透明になりながら、ときにこうやってアポイントをとって「知っている」ひとに会いに行く。私の旅は、いつもそうやって進んできた。

自由だ、と思う。途中で買ったシナモンロールとコーヒーが美味しい。いつまでもこの甘さを享受できると思うなよ、と思いながら、私は2年前に雑誌の中で見かけた、憧れの夫婦にこれから会いに行くのだということを、インガローに向かうバスの中で確かめる。


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