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ともみの部屋

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伊佐知美の、世界一周の旅とエッセイ。2016年4月〜
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#ドゥブロヴニク

きっといつか、「なんて美しい時間だったんだろう」と思い出す日が来る。

いつか私は、ワンピースを着てサンダルを履いて、遠い海の南の島から、日本に原稿を送る暮らしをするのだ。と思っていた。 その原稿の送り方は、茶色い封筒に分厚い原稿用紙をトントン、と揃えてきれいに入れる、みたいなイメージだったから、私はかなり前からこのスタイルを頭の中で描いてきたのだと思う。 夢だろうな、と思っていた。でも夢で終わらせたくなかった。一週間海沿いのアパルトマンで過ごしてみて、そういえばハンモックがなかっただけで、ここでの暮らしはまさに私が描いていたイメージ通りのも

この空と海さえあれば。ねぇほら地球って、丸いんだよ【クロアチア・ドゥブロヴニク】

これ以上の天気はない、と旅先で思えることができたなら、もうそれはあなたの勝ちと思っていい。 勝ち負け? 何にかは分からない。けれど思っていいと思う。今日は私の圧勝だった。 クロアチアのドゥブロヴニクにおいて、これ以上の天気と季節はない。 もう満足だ。もう次へ。 私は気に入った景色や場所があると、できれば2度訪れたいと思ってしまう性癖があるらしく(たとえばミャンマーのバガン遺跡や、インドのタージマハル)、今回のようにゆっくりと滞在できるスタイルの旅は歓迎だっ

海と月と風とパスタと。【クロアチア・ドゥブロヴニク】

Wi-Fiがつながったら、パソコンを開いていくらかの通信をする。 LINE、Viber、WhatsApp、Facebook、チャットワーク、チャットキャスト、slack、Evernote。あたりが私が最近使っているツールだろうか。 目の前を見ると、アドリア海。最初は3階の部屋をとっていたんだけれど、あまりにも原稿を書くのに居心地がよくて、3泊のところを延泊して、もう3泊。合計6回の夜をここで過ごすことにした。 1階にはここを自宅にするクロアチア人のご家族が住んでいる。私

世界遺産の街並みに響く、サッカーの声【クロアチア・ドゥブロヴニク】

サッカー。という言葉が自分から出てくることが、少しなんだかこそばゆい。 それくらい、私にとってサッカーは馴染みのないものだった。昔好きだったひとがサッカーをしていた。夫が、サッカーを愛している。 時折夜に飲むお店でサッカーを観て盛り上がったり、学生時代は「サッカーを観る」というイベント自体に浮足立って、笑ったり手を叩いたりしていたくらいで。 サッカー、というカタカナ自体が私にとっては少しゲシュタルト崩壊だ。Soccer、だとどうだろう? Sock(靴下)? 「ヨーロッ

吸い込まれそうな夜の黒に、目が慣れなくて【クロアチア・ドゥブロヴニク】

吸い込まれそうな、夜の黒だった。空と海の境が見えなくて、雲なのか、波なのか、風なのか、もう私には分からない。 遠くから、強い風が吹いている。対岸は見えない。ずっとずっと、海が黒く続くだけ。左側に、ぽつりぽつりと家の灯り。右側に、交通量の少ない道路。まっすぐ前に、やっぱりずっと、続く海。遠くに浮かぶ、おそらくとてつもなく大きいと思われる、豪華客船の灯り。 ここは、ロンドンでもなく、インドでもなく、今度は地中海、アドリア海に面する街・クロアチアのドゥブロヴニクだった。 この

クロアチアへ行きます。地中海を見ながら原稿を書くために。

空を見上げると雲は遠くて、太陽はどれだけ遠回りをして1日を巡るんだろう、と思うほどにまだ日が暮れる気配はしなかった。 午後5時半。仕事を終えたロンドンっ子たちが、地下鉄に駆け込んでどこかへ急ぎ始めた。恋人のいるところへ行くのだろうか。飲み屋だろうか。それともまっすぐ、家路につくのか。 通り過ぎるすべてのひとと言葉も交わさず、目も合わさず、たまににこりと微笑み返すだけで、私の人生はロンドンで無色になりそうになる。 空はまだ高くて、夜景が見たくてもなかなか見られないほどに、