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【読書感想文】どうしても生きてる

その時々で、読みたい本、惹かれる本、面白い本って変わりますよね。

最近それを実感しています。

前までは面白いと思わなかったジャンルに惹かれたり、今まで読みたいと思わなかった本が読みたくなったり。逆に、前は熱心に読んでいたのにあまり手に取らなくなったり。

最近読んだ朝井リョウ氏の「どうしても生きてる」がそれでした。

なんというか、良い意味で「オチのない話」の短編集です。良い意味で。

昔は短編集があまり好きではありませんでした。というのも、気づいたらストーリーが終わってしまって、「なんだったんだろう?」と思うことが多かったから。

物語が盛り上がる前になんとなくふわっと終わってしまう短編よりも、起承転結がハッキリしている長編小説の方が好きで、昔は湊かなえ氏や池井戸潤氏のサスペンスっぽい小説を好んで読んでいました。

でも今。久しぶりに短編集を手に取って、その面白さにハマっています。ドラマチックではない結末だからこそ、主人公の気持ちがよく分かるし、遠いどこかのファンタジーではなくて、私のすぐ近くの日常のように感じられます。

ドラマや映画では、ハッピーエンド、もしくはバッドエンドで物語が終わります。でも、現実世界はそうはいかない。ハッピーな時もあればバッドな時もある。でもそれは「エンド」ではない。

過去を後悔しようが、仕事をクビになろうが、パートナーが浮気していようが、いろんな感情を抱えたまま、現実世界は続いていきます。そう簡単に終わりにはなりません。

あとがきにもこう書いてあって、そうそう、と思いました。

『どうしても生きてる』を読み、真っ先に感じたのが「これは『実』だ。どうしようもなく『実』の物語だ」ということだった。
もちろん、本書に収められた六編はフィクション、すなわち「虚」である」しかし、各編のなかに生きる男女が対峙する世界はとことん現実だ。

『どうしても生きてる』あとがきより

フィクションだけれど、すごく現実的で、主人公たちは本当に生きている。

フィクションとは思えない誰もが共感できる人間っぽさが書かれていて、リアルなところが面白かったです。

大人になると、良くも悪くも「ドラマチックな展開」に憧れなくなります。ある日突然事件に巻き込まれることなんてないし、あっと驚く変化が訪れることなんてない。ただ、小さな幸せがあったり小さな悩み事があったり、人には言えない悩み事を抱えていたり。そういうのを書いた作品の良さが、大人になって分かるようになりました。

私も少し成長したのかもしれません。
この本を読んでそんなことを思いました。


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