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【読書感想文】フィリピンパブ嬢の社会学


最近読んでおもしろかった一冊。

正直フィリピンについてそこまで興味はなく、仕事の関係でこの本を知ってちょうどKindle読み放題対象だったからという理由で読んでみた。

主人公はフィリピンについて研究している大学院生(筆者)。取材のためにフィリピンパブに出向くうちに、フィリピンパブ嬢のミカと出会うことになる。ミカと交際を始め、彼はどんどんフィリピンパブビジネスの裏側を知っていく…というノンフィクション。

「社会学」とあるから、はじめ「専門的な話を書いた本なのかな?」と思ったのだけど、中身はそんなことなくて小説のようなストーリーになっている。

小説のような話だけど、でもこれは筆者が実際に体験したことを綴ったノンフィクションの”体験記”。かなりリアルなのと、私たちが知らないフィリピンについて知れるのがおもしろい。


私は「フィリピンパブ」に行ったことはないし、見かけたこともないけれど、この本いわく名古屋の栄4丁目にはフィリピンパブが集まっているらしい。

フィリピンパブに行ったことはなくても、「東南アジアの女性がいる風俗店」の存在はなんとなくみんな知っていると思う。私のように実際見たことがなくても、ドラマや映画か何かで見て「そういうものがあるんだろうな」くらいは。

この本では、そうしたフィリピンパブで働く「パブ嬢」が、どのように日本に入国して、どのように働いて、どのように生活しているかが詳しく書かれていてすごく興味深い。

私がこの本で知ったフィリピンパブビジネスの構造を説明すると

数年前までは「興行ビザ」というものがあり、ダンサーやシンガーなど”タレント”として彼女たちは日本に入国していたらしい。それでも誰もが簡単に取得できるものではなく、厳しいオーディションに合格しだ何百人に数人のみが日本へのビザを手にいれることができた。(でも実際に来日するとそうしたタレント活動ではなくホステス業務をやらされる)

しかし、その興行ビザの規制が厳しくなり、今では彼女たちは日本人と「偽装結婚」して来日しているそう。(でも今調べてみると本出版から数年後である2023年に興行ビザが再度緩和されたらしい)

でもこうした「偽装結婚」は個人でできるものではなく、かならず裏に犯罪組織がからんでる。そしてこの組織が、働く彼女たちから徹底的に搾取する。

この本で登場した筆者の彼女ミカは、月6万円の給料で働かされていた。仲介人やマネージャー(つまりヤ◯ザ)がホステスの売上を自分の取り分にし、残った分を彼女たちに渡す。

ホステスで6万円の給料なんてあり得ない。これは搾取以外の何ものでもないけれど、フィリピン国内での給料に比べたらかなりマシだし、家族に送金することもできる。しかも、2〜3年の契約制でそれが終われば本来の収入(40万円以上)が手に入ると約束される。だから彼女たちは不当な契約を「我慢の期間」として受け入れるというのだ。

これだけで十分闇が深い話だけれど、本を読み進めていくともっともっと闇深い事実がでてくる。

フィリピンパブビジネスは、「日本の方が稼げるから」とか「フィリピンは貧しい国だから」とか、そんな単純な話ではない。手口は巧妙だし、違法に働きにくるフィリピン人女性だけが悪いのではなく、いろんな問題が絡まり合っている。そしてそこにはもちろん日本の犯罪組織が取り仕切っているという事実がある。


「フィリピンパブ嬢の社会学」は、そんなフィリピンと日本の裏側の話を擬似体験できる本だ。

かなりリアルだという以外に、もうひとつ私がこの本の大きな魅力だと思うのが主人公である筆者だ。彼はフィリピンが大好きで、恋人であるミカのことも大切に思っている。彼の行動や考え方から、彼がフィリピンという国に深く興味を持っていて、リスペクトしているのが伝わる。


なんとなく、日本人には東南アジアなどの貧困国を見下すような空気がある気がする。

差別意識だと自覚はなくても、「フィリピンは貧しい国」「日本の方が良い国」と、日本とフィリピンの国の価値の差を感じたり、無意識に優劣をつけているケースは少なくないと思う。

加えて、キャバクラやラウンジなど性風俗店で働く人への差別意識がある人も多い。明らかな差別をするのではなくても、ホステスやキャバ嬢をうっすら下に見ているという人はかなりいると思う。そしてそうした人たちは自分たちが差別していることにも気づいていない。

でも、この筆者にはそうしたところが感じられなくて、恋人であるミカを尊重し大事にしているし、彼女の仕事仲間や友人であるフィリピン嬢たちにもリスペクトを持って接している。

だから読んでいて応援したくなるし、不快な気分になることもなかった。

主人公も、恋人ミカも、ふたりともすごく素敵な人だ。


調べてみると映画化もされてるみたいなので、映画で観てみるのも良いかもしれない。(公開日は2024年2月、かなり最近!)


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