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【読書感想文】風と共にゆとりぬ

朝井リョウ氏の『風と共にゆとりぬ』を読みました。

お笑いコンビ”ハライチ”の岩井勇気氏が書いた『僕の人生には事件が起きない』を読んでから、私にエッセイブームが到来。元々読書は好きでしたが、今改めて「文章を読む楽しさ」を感じています。

朝井リョウ氏の作品は、『桐島、部活やめるってよ』『何者』などの代表作を学生の時に読んだきり。特に熱烈なファンというわけではなかった私ですが、このエッセイを読んですっかりファンになってしまいました。

彼のエッセイはおもしろい。本当に。

小説家のエッセイを読んでこんな感想しか湧いてこない自分が恥ずかしいですが、でも本当におもしろいんです。
彼の話すエピソードがなんだかおかしくて面白い、彼の選ぶ言葉のチョイスが面白い、それをすごく心地よいテンポで話が進むから面白い。

彼の書いたエピソード一つひとつを一字一句読み逃すまいと丁寧に、そしてケタケタと笑いながら読み進めました。

読書は好きですが、正直「美しい情景描写」というものに興味がありません。きっとそれは小説の世界に入るこむためにすごく重要なディテールで、そうした情景描写に主人公の気持ちが映ったりしているんだろうなとは思いつつ、どうしても読み飛ばしてしまいます。

「何が起きて、何を思ったか」
そこだけをどうしてもフォーカスしながら読み進めてしまうのが、私の読書の悪い癖です。

情緒も何もない私には、外がどんな風に晴れているとか、道がどんな風に光って見えるかなどは、あまり興味がないのが本音です。

でも、この彼の文章には一切の無駄がない。(もしかしたら無駄に入るかもしれない朝井氏独特のボケとツッコミは満載ですが。でもそこが魅力。)

無駄なく、すべての表現がおもしろい。
だから私は、それらを漏れなく全て読みたくて、一字一句、余すことなく”しっかり”読みました。

前述したハライチ岩井氏のエッセイ、そして朝井氏のエッセイを読んで、今私は心から「読書って楽しい」と感じています。

たしかに、自分の身になりそうな自己啓発本、世界で著名な学者が書いた実用書も自分の人生を豊かにしてくれるはずだし、読んだことは知識・教養となり、「私は勉強している」という気持ちにもさせてくれる。けれど、純粋に「読書を楽しむ」という経験は、そういえばこんな気持ちだったな、と。

物心つく前から、私に惜しみなく本を与え続けてくれた母親のおかげで、私は小さい頃から読書が好きでした。松谷みよ子さんの「小さいモモちゃんシリーズ」が、私が初めて1人で読んだ本だった気がします。

そこから、本を読むのが楽しくて、近所のイトーヨーカ堂に行くたびに本屋によって、本を買ってもらっていました。

その時の私は、「本を読んだら頭が良くなるから」「本を読んだら国語の成績が上がるから」なんてことは一切考えず、ただただ面白いから読んでいただけ。最近の私の読書体験は、そんな小さい時に感じていた「読書の楽しさ」を、改めて感じさせてくれています。

彼のエッセイの原点(と言っていいのかは分かりませんが)は、さくらももこさんのエッセイにあるそうです。

私はとにかく子どものころからさくらももこさんのエッセイ集が大好きで、いつか小説家になるという夢がかなったら自分も彼女のような”少し長め、かつ、メッセージ性皆無のくだらないエピソードばかりで編まれたエッセイ集”を出すんだっ、と鼻息を荒くしていた。

朝井リョウ『風とともにゆとりぬ』より

自分に新たな気づきを与えてくれる本、貴重な学びをもたらしてくれる本との出会いはかけがえのないものですが、「メッセージ性皆無のくだらないエピソードばかりで編まれたエッセイ集」で感じることのできる、「読書の快感」もまた特別なもの。

やっぱり、そういうものが面白い。

実際に作者が経験して、感じたことが素直に書かれている「エッセイ」というジャンルは、読んでいて友達からおもしろい話を聞いているような気持ちになります。自分とは違う人の人生を、垣間みることができる。新しい友達ができたような気持ちです。

次は、前作の「時をかけるゆとり」を読もうかな。
私のエッセイブームは、まだまだ続きそうです。


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