飛びたい
「出番などもう無いのサ」
背もたれに深く寄りかかり、グッとカップをあおった彼は、酒くさい息で言った。
「軍事産業の興隆を見たまえ。我々に何が出来る」
反論の余地もあるが、私は黙ったままちびりと琥珀色をした酒を飲んだ。
「どうしたって、我々の首はポン!だよ」
ひどく苦々しく、彼はあたまを横に振る。
「飛びたいから」
「うン?」
「飛びたいから、な。ニンゲンは」
彼の目は見られなかったが、私は強く言いきった。
「飛びたいから、か」
カップをテーブルに置く音が聞こえた。激しいものを予想したが、逆に彼は、丁寧にていねいにカップを置いたのだ。
「飛びたいから」
私はうなずく。
「やってみないか?もう一度」
彼の目を見て私は言った。意外にも彼は涙をためていた。
「お前に頼まれちゃ、な」
瞬きをした目から、涙がテーブルに飛んだ。純情な、透明な涙。
「ニンゲンは、飛びたいんだよ」
「あぁ」
「私も。キミも」
争いに飛行機は使われているが、いつか必ず、その正しい在り方を。ニンゲンは見つけられる。
私と彼は、飛行場の隅に佇んでいた。滑走路の終端あたり、固められたコンクリイトの隙間から、セイタカアワダチソウがソラに登ろうとしていた。
おしまい
Twitter(Xじゃないんだ!)に載せたお友だちへの差し上げものですが、こっちにも載せておきます。
(画像はPinterestより)
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