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選択

さくら餅を買うため、昼前に家を出た。今日は「うららか」という言葉がぴったりの陽気だ。

近所の商店街は人出が多く、こころなしか皆、春の暖かさに浮かれている様子だった。アーケードの中ごろには古い和菓子屋がある。確か数年前、かき氷を食べに入って以来、行っていない。今日は何となく、スーパーでもコンビニでもなく、和菓子屋でさくら餅を買おうと思った。

さくら餅だけ買うのも何なので、他にも目ぼしいものがないか、店先のショーケースを眺める。小ぶりな豆大福、テカテカの"かのこ"、四角い羊羹。

となりで、5歳くらいの男の子に「どれがいい?」と母親がきいている。「ぼくねぇ……これとぉ、これとぉ、これとぉ」。こちらもつられて、彼の指先を目で追う。草餅、みたらし団子、草餅——。

「お決まりですか?」

店の奥から出て来た若旦那に、私はさくら餅と草餅を包んでもらった。

今日中に食べるように、という言いつけを律儀に守り、私はおやつにふたつの餅を食べた。上品で可愛らしいさくら餅。塩っぱい桜の葉とやわらかな甘い皮は、期待通りの美味しさだった。

しかし、私がほんとうに春を感じたのは、よもぎの香りが鼻に抜ける草餅の方だった。

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