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体験レポート 東慶寺での「大地の再生」講座に参加して

11月4日。北鎌倉の東慶寺で「大地の再生講座」に参加してきました。

大地の再生の第一人者である、矢野智徳さんが指導してくださる講座です。矢野さんのお人柄、哲学が本当に素晴らしく、またその後、自宅の小さな庭でも試してみて、効果を実感しています。

講座で学んだエッセンスについて、紹介してみたいと思います。誰かのお役に立てば嬉しいなぁと。長いですが、お付き合いいただけたらと思います。

「大地の再生」講座について

noteでも以前紹介しましたが、コロナの緊急事態宣言下で、暇に任せて庭仕事に本腰を入れ始め、秋には『土中環境』という本に出会いました。

そっか。ただ切ってるだけ、草をむしってるだけでは、対処療法でしかないんだな。じゃあ、土中環境をどうやって良くしていったらいいのだろうと思いました。本だけでは限界があります。

悩んでいるときに、偶然Facebookで矢野智徳さんがなさっている「大地の再生」講座のことを知りました。

直感的に『土中環境』と同じような匂いがしたので、これは!と思い、早速申し込みました。

矢野智徳さんと「大地の再生」については、こちらに詳しく書かれています。

東慶寺での講座は今回で3回目とのこと。一体どんな人たちが集まるのか、全く未知の世界です。

フタを開けたら、いかにも素人なのは、私とジャズボーカリストの友人だけ(笑)。後の皆さんは造園のプロか、実際にお住まいの地域での、環境再生の参考にと参加されている方々。

地下足袋率とすっぴん率は、今までで最も高い集まりだったかもしれません(笑)*かくいう私も友人もすっぴん参加。ある意味安心しました...。

ご住職と奥様のご挨拶、参加者自己紹介の後、御本尊にお参りをし、いよいよ作業に入ります。

東慶寺について

実は私自身、20年近く鎌倉に住んでいるくせに、観光らしきことはほとんどしてきませんでした。なので、東慶寺も初めて寄せていただいたという、不届きもの。

東慶寺は元々、女人救済の縁切り寺として有名。井上ひさしさんの遺作『東慶寺花だより』の舞台ですね。「お花の寺」としても有名で、四季折々の花々が美しいと評判の高いお寺でもあります。

歴史としては、後醍醐天皇皇女が護良親王の菩提を弔うため五世住職となったことに起源があります。御所寺、松ヶ岡御所とも呼ばれ、鎌倉尼五山第二位という格の高い尼寺となったとのこと。

護良親王のこと

ちょっと脱線しますが、護良親王といえば、後醍醐天皇の皇子で、鎌倉幕府倒幕運動を勝利に導いた立役者。その後天皇中心の「建武の新政」が成立するも、征夷大将軍を狙う足利尊氏により幽閉され、失意のうちに亡くなった不運の皇子です。

明治天皇は、護良親王(大塔宮)を祀るために鎌倉宮を創建されたそうです。鎌倉宮には護良親王が幽閉されていた岩屋が現存しています。

鎌倉宮よりちょっと奥には、お墓もあります。住宅街の中に突如として恐ろしく長い階段が現れ、ちょっとびっくりしますが、地域の人たちからも代々大切に守られてきているのが分かります。

大地の再生

ちょっと、と言いながらかなり脱線してしまいました(苦笑)

本題に入ります。

「大地の再生」講座は、矢野智徳さんが開発された環境再生の手法。傷んだ大地を、空気を循環させることにより、生物多様性に満ちた本来の自然の姿に還していくというものです。

今回は、まず実際に庭を歩きながら、これまでの施策とその効果などを、矢野さんにレクチャーしていただきながら、体験します。

① 五感で感じられるものーーいろ、かたちーー

本堂手前。

ここは当初は水捌けが悪く、泥アクの皮膜が覆って、空気と水の浸透を妨げていた場所だそう。

            *写真下:矢野智徳さん

11月には苔の緑は本来の美しい色を見せ、枯れ葉は苔の間に収まっていました。

私たちはその場に行くと、五感で感じられることがたくさんあります。例えば、葉っぱや苔などの色や形もその一つ。くすんでいたり、艶がなければ、その場が呼吸していないということだそうです。空気が循環していれば、枯れ葉だってツヤツヤして輝いていると。落ち葉にしても、葉っぱが丸まって、あちこち飛んでいかないようになっているそうです。

写真の葵のように、葉っぱがやたらと大きくなりすぎず、完全に暗い影だけではなく、光と影がうまく調和する木陰を作ってくれるとのこと。

私たちは、そのような場所に行くと、調和や安らぎを感じます。自然の中やお庭の美しい寺社などに行くと癒されるのは、そういうことのようです。

なぜ空気の循環か、というと、ストローを思い浮かべてくださいと。空気が入って滞っているところは、水も通りませんよね。だからまずは空気が循環して、呼吸できることが大事なんだそうです。


② 五感で感じられるものーー立体感、風景のつながりーー

こちらは、参道から山門、お寺の奥を眺めた景色。

空気の循環の良い場所では、手前〜奥と景色に連関が見られ、奥行きと立体感のあるひとつながりの風景として捉えることができるそうです。

循環していない場所だと、手前〜奥の奥行きの一体感が感じられず、バラバラの風景として見えてしまう。全体的に、平面的なぺらっとした印象の風景に感じてしまうようです。

このように私たちが、ある風景に「落ち着く」「安らぐ」「癒される」と感じるのは、地中での空気の循環があり、その恩恵として生物の多様性がもたらされている結果であることが分かります。

人類が生まれて以来、長い長い間、森と共に生きてきた身体感覚や五感が、心地いいとはどういうことかを常に教えてくれているのですね。

世界は相似象

どこの寺社にも、境内には川や池があることが多いようです。もともとは治水、貯水のために寺社が建てられたとも言われ、そういった機能を果たしてきたのだと思いますが、多くの寺社はコンクリートで埋められ、空気も水も循環できない状態になっている。

東慶寺の池もそうだといいます。

「世界は相似象。だから例えば、この東慶寺の池のような小さな区域の循環を良くすることができれば、日本中にあるため池を本来の機能に戻すことができると考えています」と矢野さん。

コンクリートが一概に悪いのではない

その日のメインイベントの一つは、東慶寺山門手前の美容室の駐車場を有機アスファルトで施工すること。

有機アスファルト??なにそれ?

と私も思いました。
有機アスファルトと、その施工については、今回も参加されていた、中央園芸さんがブログで詳しく説明されているので、ぜひご覧ください。

つまり、植物の力を最大限に活用して、環境再生し、アスファルトの効果もいただくという、一粒で二度美味しい施工方法のようです。

美容室の舗装されていない駐車場は、雨が降り続くとぬかるみ、いい状態ではないとのこと。結局、ぬかるんでしまうのは、空気の循環がうまくいってない。周りの庭木も疲弊している、ということらしい。

矢野さんはまず、駐車場に線を引き、水脈を作りました。

その線に沿って、配管を入れ、溝を掘り、炭チップ→竹の枝→葉っぱを入れていきます。そうすることにより、溝が埋まらないように、濾過することができるし、枯れ葉で土が腐葉土化し、さらに循環が良くなるんだそうです。

溝に囲まれた有機アスファルトを施工する場所に、炭チップ、セメントの粉、竹の枝を割ったものを満遍なく撒き、その上にほっかほかのアスファルトを撒くのですが、その際、アスファルトに、木屑と水の混合物を混ぜるんです。

アスファルトなのに、土建屋さん的な印象は全くなくて、クッキーの生地を作るような感じなんです。

最後はローラーをかけて、いわゆるアスファルトっぽい見た目になるのですが、こんなに丁寧にしかも自然素材たっぷりだと、敷かれた方の土も気持ちいいんじゃないかなぁなんて。

そこが「有機」なのかもしれません(笑)

いずれにせよ、アスファルトは悪者だとばかり思っていましたが、要はやり方なんだなと。

ネズミや猪のように

「生物多様性が保たれている場所では、動物たちも共生のために力を貸している。例えば、ネズミや猪は、木の周りに穴を掘る。それは食べ物を得るためでもあるが、掘らずにはおられないから、掘るんです。僕ら人間は、ネズミや猪の代わりに、穴(点穴)を開けて、自然にちょっと手を加えてあげるんです」と矢野さん。

早速、自宅の庭でも試してみました。

プロのようにはできませんが、できる範囲で、水脈を掘って、同じように炭チップや、枝葉を入れてグランドカバーをする。木の周りに、点穴(直径5cm程度、深さ5〜10cm程度)を開ける。

すると、2週間くらいすると、槙の木の幹から新しい枝葉が生えてきました。今までも生えてはいましたが、勢いが違います。(見出し画像)

「庭はあなたの心身と繋がっています。庭を整えることは、身体を整えること。庭がよくなっていけば、自分や家族も変わるし、なにより、自分が家族や世間に何をやってあげればいいかがわかってきます」

あるアイルランドの園芸家が、こう言っているのを読んだことがあります。

そういう境地に行くにはもう少し時間がかかりそうですが(笑)、少なくとも、毎日庭や草木をみる目が今までとは少し変わってきたかな、と。

なんだか希望が湧いてくるのが不思議です。

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