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夫婦ゲンカのすえプラクティス(練習)に行ったらバス釣り大会で優勝して25万円の賞品をもらった話(後編)。

 バチが当たった。ビッグバドで45cm(推定)をバラした瞬間にそう思った。なんのバチだ。七五三の前後に釣りに行く、などという愚行のバチだ。

 そういえば前日、神社でご祈祷の際に「一万円です」と言われ、あれ、ウェブには5千円と書いてあったのに? と戸惑っていると「5名様まで5千円、6名様からはこの金額です」と説明され、ゼロ歳児も人数に含めるのかよアコギだなとバチ当たりな考えが脳裏をよぎったのだけれど、1回釣りに行くだけでも高速代ガソリン代ボート代食費そのほか合計●万円ぐらい掛かっているわけで、そんなケチくさい性分だからバラすのだ。

 時計を見る。午前8時だった。帰着まであと5時間。折金一樹さんの本『オリキン式 バス釣りを能率化する68のメソッド』にこう書いてあった。

“バラシは失敗ではない”……タックルを考え、ルアーを選択し、考え抜いたアプローチでバスからの反応を試す。その結果バイトに至ってフッキングできたなら、ほぼ正解です。

 イエス、アイム正解。まだ5時間もある。過去は振り返らない。きっと、あと1回くらいチャンスはやってくる。それをモノにしたと仮定して、たぶん釣れるのはアベレージの500gぐらいだろう。ってことは、さっきのヨンゴーを獲っていれば、お立ち台(トップ5)がねらえたはず、だよな……。

 というぐあいに過去へタイムスリップすること数回。だんだんシャレにならないレベルの風が吹き荒れはじめ、操船に集中するうち、気持ちが切り替わってきた。

 ビッグバドに出たのは風裏で、泡ブクの汚い水が澱んでいて、わりと水深のあるスポット。とりあえず似たような場所を探す。ミョーギに浮かぶ巨大な台船の脇。シートパイルに囲まれた水門。スノヤワラの北にある小さな水路。同じくヤワラの東岸にあるコンクリ護岸。

 キリンレモンのパッケージが巻かれたバドがカッチョンカッチョン水面で踊る。水面が荒れ気味のところではグリグリ巻いてみたりもした。新利根川へ戻るべきだろうか。戻れば風裏はたくさんある。ただ、いったん戻ってしまうと、ミョーギやスノヤワラに入り直す時間はない。迷う。

 バドが正解なら、バド場を探すしかない。戻ることにした。ただしその前に、スノヤワラの南にあるワンドに入ろうと思った。今日のような北寄りの強風の日に、風下にあたるこのワンドでいい思いをしたことが過去に2回くらいあったから。

 ワンドに向かって南下する途中、「エビオダ」と呼ばれている乱杭スポットが視界に入る。このオダの少し南にあるアシの沖が、スノヤワラにしては珍しく激しいブレイクになっているのを、プラで確認していた。ちょうど新利根川の流れがぶち当たる位置。カレントど真ん中。見るからにA級な場所なのに、ここで釣っている人を見たり聞いたりしたことがあまりない。

 ボックスを開けて赤いクランクを結んだ。スナブノーズM5。困ったら速巻きしようと思ってミドルダイバーをたくさん入れてきたなかに、なぜか速巻き向きではないコレがひとつ、混じっていた。風が吹き抜ける荒れた場所だからあえてパワー強めなクランクを選んだのである。というわけでもなく、今となっては、なぜスナブノーズを手にとったのか記憶がない。

 ブレイクの上の浅いところに投げ、サオ先を上に向けた状態で巻きはじめ、そろそろ深くなってくるかな、のあたりでティップを下げると、ボトムだか障害物だかにグッと刺さってしまった。やばい。こんな日に限って根がかり回収機を積んでない。

 根がかりをほぐそうとして、軽くロッドを立てたとたんに「とぅん」とティップが入った。「ぬわン」だったかもしれない。一瞬で目が覚めてハンドルをグリグリ巻く。が、すぐに重くなって手が止まる。やっぱ根がかり? でも「とぅん」ってなったし! グリグリ巻き続けていると、細い枝が水面から顔を出し、その脇で魚の尾がもんどりうった。枝に巻かれてるぅぅぅぅ! でも出てきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 新利根川でクランクを巻く人の平均値よりはちょっと太め(たぶん)の15ポンドナイロンを巻いていてよかったと、これほど思ったことはない。ボートが風上を向くように注意して魚を寄せる。下に流されてしまうとテンションが抜けてバレやすいと田辺哲男さんが言っていた。バドのときは左右に2回いなしただけで慌ててバスを掴もうとしたから失敗した、今回はもう少し時間をかけないと……。

 とか思ってるそばからジャンプ! やめて〜! また跳ぶ! ヒィィィ! 「釣りの醍醐味は魚とのやりとり」「引き味を楽しまないと」などと物知り顔でのたまうヒトに言いたい。暴れるデカバスと暴れないデカバスがいるなら、圧倒的に後者LOVE!

 最後はロッドを置いてラインを掴んだ。「なんちゃらおっぱい主義うんぬん」と書いたけれど、前言撤回。手にフックが刺さってもいい、とにかく確実に獲りたくて、左手でバスの口を掴んだ。それでもまだ暴れるので右手まで突っ込んだ。

「へぇ〜、差してたんですね!」。帰着後、伊藤巧さんに釣れた顛末を説明すると、そんな表現が返ってきた。差してきたデカい魚を釣る。朝、シャワーブローズを投げて夢想していたことが、一周グルッと回って、予想もしていなかったところで、カチッと腑に落ちる。

ウエイトは1805g。優勝賞品はモーターガイドのNEWツアー。H-1グランプリで9連続デコをやらかしてたころからの仲間に祝福されて、嬉しかった。大会の後半はレインウェア着込んでも凍えるほどの氷雨だったので、奥さんにLINEを送ったら、こんな返事が戻ってきたのでした。

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