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夫婦ゲンカのすえプラクティス(練習)に行ったらバス釣り大会で優勝して25万円の賞品をもらった話(前編)。

 保育園児と保育園未満児がいる家庭で、休日に釣りにいくバカな父親はたぶんいない。じゃあ平日はどうか。私の役割は朝9時ごろに長女を登園させることなので、平日の早朝から釣りに行くためには、その役割を奥さんに交代してもらわねばならなくなる。押し付けることになる。

 ゆえに妥協案。娘を保育園に送ってからダッシュで釣りに行く。そしてダッシュで帰る、保育園から帰ってくる時間までに。

 なんの制限もなければ朝6時ごろから夕方16時半まで、10時間以上も釣りができるのだけど、この妥協案で確保できるのはせいぜい6時間程度だ。それでも、今度の日曜日のバス釣り大会(以下、トーナメント)のために、現地に行って釣り場のようすに触れておく必要があると思った。

 トーナメントが行われるのは、茨城県の「新利根川」。日本のなかでは琵琶湖についで大きな面積を持つ湖・霞ヶ浦に注ぐ川だ。広いわりにはボートを借りて釣りができる場所が少ないこの水域で、新利根川にはレンタルボートのお店が2軒ある。そのうちのひとつ「松屋ボート」がトーナメントの会場になっている。

 よーいどん、でスタートして、制限時間内に決められた尾数のブラックバスをルアーで釣ってきて、その重さを競う。多少の例外はあれど、これがおおよその「ブラックバス釣りのトーナメント」のルールだ。アマチュアのトーナメントでは「リミット3尾」になることが多いが、今回のトーナメントの場合は「2尾」。

 まぁ、そもそも全員が3尾釣れるほど甘くはない。2尾でもバンバンザイ。10月上旬に行われていた別のトーナメントの結果を見ると、46人が出場して、1尾も釣れなかったヒトが21人もいた。ざっと半分はデコる、それが最近の新利根川の状況らしい。

 で。トーナメントの本番は日曜日。私が保育園のあとに下見(以下、プラクティス)を敢行したのはその2日前の金曜日だった。【オレが10歳のころからやっている趣味であり、いまや仕事にもなっている「釣り」にいちいち文句をいうな、ヒトのライフワークにケチをつけるな】と奥さんにLINEで反論したら【子育てのあいだはライフワークも変化させるべきじゃないの】とぐうの音も出ない返事が来てしまい、それを未読スルー非表示にしてまで、なんでプラクティスをしなければならないのかというと……。

 いや、本当はしなくてもいいのかもしれない。だってバスプロじゃないんだし。彼らは1週間も2週間もプラクティスをする。だって生活が掛かっているから。私のようにアマチュアのトーナメントにたまに出ている人間は、釣ってもデコっても自尊心がちょっとザワザワするだけだ。

 それでも、プラクティスに行くと、シンクロ率があがる気がする。なんというか……自然との? ネイチャー的な? 野生に還る的な?

 ふざけないで真面目に書くと、別にスピリチュアルな話をしたいわけではなくて、もっと具体的で、身体的な、なんかこう……あるわけですよ。ペットを飼っているヒトの感覚に近いかもしれない。朝、目覚めて最初にペットに触れた瞬間、体調の異変に気づいたりすることがあると思う。それと同じで、あらかじめ釣り場に出てみることで「あ、いま水中のブラックバスはこんな感じなのね」に、近づける気がするのだ。

 とはいっても、まったくぜんぜん接近できないときもあるわけで。プラクティスの金曜日がまさにそれ。ルアーをどんだけ投げてもアタリがない。浅い場所深い場所、広い場所狭い場所、明るい場所暗い場所。ワームを持参せずにハードベイトだけ投げていたせい? それでも普通はちょっとぐらいヒントがあるんだけど。

 ミョーギと呼ばれるポイントで、ふと思いつきでクランクを高速巻きしてみたら、カツカツと2回ほどアタリがあった。そして夕方、松屋ボートの下流でダイナモバズで30cmぐらいのが一発釣れた。これは何回も釣られた跡のあるリリースフィッシュ。これらを総合するに、「あんまり元気じゃないのかな」が、プラクティスで得られた唯一の感触。高速巻きだけに反応する時点で、微妙なコンディションだと思った。無理やり食っちゃった〜、みたいな。6時間かけてこれっぽっちの情報かよ。

 厄介なことがもうひとつあった。金曜日は半袖Tシャツで過ごせる秋晴れだったのに、日曜日は豪雨+防風+激寒の予報が出ている。「あんまり元気じゃない」状態から「もっと元気じゃない」に転落していく予感。どうしよう?

 大魔王に相談したところ、「朝から冷えるならバズベイトとスーパースローロール。しかも朝しか食わない」と即答(「大魔王」についてはまた別の機会に)。寒すぎてエサなんか食ってる場合じゃないから超絶リアクションでガツンと揺さぶる……みたいなことだろうかと理解する。このふたつをやりながら、クランクの高速巻きも用意して、あとはぶっつけ本番だ!

 ところが土曜日になって天気予報を見直すと、「夜明けはかなり暖かい。昼前から気温が下がって大雨」に変わっていた。どないやねん。プラクティスを無視して普通に考えるなら、曇って気温の高い朝のうちは、ハイテンションでガンガン動いていそうなバスをねらうべきだろう。だけど、いったいどこで?

 実は、プラクティスの成果はもうひとつあった。それは「スノヤワラ」で釣れそうな場所の目星をなんとなーく、つけていたこと。

 新利根川は、最下流の水門をくぐると「スノヤワラ」と呼ばれる広いエリアに出る。そこはもはや川ではなく、アシに囲まれた沼のような地形。さらに進むといったん細くなり(それが前述のミョーギ)、そして霞ヶ浦へとつながっていく。

 スノヤワラは、新利根川に比べて「数は少ないけど釣れればデカい」と言われる場所だ。その一方でねらいどころが絞りづらい。湖岸線に続くアシには凹凸があったり水生植物が密集していたりと、一見よさそうところは随所にあって、だけど私自身は過去にほとんど釣ったことがない。水門や杭、テトラのような変化のまわりに、とりわけバスが多いわけでもない。

 しかもここ数年、霞ヶ浦水系は水害に備えて水位を常に低めにしているらしい。アシ際を撃っていれば釣れる、みたいな昔のイメージが通用しないという話を聞いた(ルアーマガジン2021年12月号で取材した鬼形毅さんの受け売り)。

 だからスノヤワラにいるバスたちも、特にデカいやつはグルグルと泳ぎ回っていて、なんらかの条件が揃ったときに岸の近くにグワッと寄ってエサを食べたりしている……んじゃないか。いわゆる「差す」という行動。差したタイミングで、差した場所にアプローチすれば釣れる。バクチみたいな話だけれど、トーナメント当日も、朝イチだけはそういう魚をねらってみようと思った(つづきます)。

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